短編2
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ありがとう

私が小学生の頃、母子家庭で育ちました。

母はスナックで働いていましたので、夜は1人で留守番の日々を送っていました。

そんなある日、私が寂しくないようにと母がお客様から生まれて間もない子猫を一匹貰ってきてくれました。

ブルーの瞳が印象的な子で名前はマムと名付けました。

マムは不思議と自分の役目がわかっているかのように、私が寂しくなるとそばに来てくれていました。

少しずつ成長していくと、マムが外に興味を持って出始めた時に、車に跳ねられて電柱の傍らに死んでいました。

私の住んでいたアパートは坂道にあり、いつも学校から帰る時は坂道を下って帰ります。しかし、その日は初めて友達と寄り道をしたので坂道を上がってきました。

マムは電柱の傍らに倒れていたので、いつもの下り坂で帰っていたなら、電柱に隠れた位置になるのでわからないのです。

上り坂で帰っていたので、すぐに倒れているのがわかったのです。

胸が裂かれる思いで、とても苦しくて悲しくて泣き叫びました。

しかし不思議と出血がなく、眠っているような穏やかな表情をしてくれていたのです。

まるで私を待ってくれていたようでした。

きっとマムは自分の姿を私に見せないと、私がマムの生死がわからずに、いつまでも心配して泣きながら探しまわることがわかっていたかのように感じます。

それから数年後、家族の身代わりとしてマムが命をかけて車に身を投げ、家族に起きるはずだった事故死から助けてくれていたことがわかりました。

母の働くお店に一度だけ来店された霊能力のあるお客様が、母を見るなり、そのことを前ぶれもなく話したそうです。

そうなることがわかっていて、マムは我が家に来るようになっていたそうです。私は感極まってしまいました。

あの穏やかな表情は、マムが使命を果たして家族を助けることができたことに安堵したものだったと思います。

本当に全てが偶然には思えませんでした。

生きていると、死にたいと思うような嫌なことがあります。

そのたびにマムの命で、今の自分が生きていられるのだと思い出し、今またマムに助けられたと自分が恥ずかしくなりました。

「マムもう大丈夫だよ。強くなるからね。本当にありがとう」

怖い話ではなく申し訳ありません。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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