短編2
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遠い故郷

前にメールで知り合って、個人的にたまに合う程度の知人の話です。

彼は東北のある寒村で、両親と兄の四人家族で育ち、就職のために上京しました。

最初の2,3年はたまに帰省していたようですが、特に用事もなかったので、その後は10年以上帰省しなかったそうです。

しかも、その途中で引っ越しを何回かして、ISDNやらADSLやらに電話回線変えて番号も変わり、

PHSやら携帯の機種変を何回かした事もあって、親を含めて故郷の人間は誰も自分の住所も連絡先も知らない状態だったそうです。

(でもまあそういう人はたまに居ますよね)

ある時、ふと新聞で田舎の些細な出来事が報道されて地名が出ているのを見て、

(仕事忙しくて時間取れない日が続いたし、久々に帰ってみるか…)と、連休の初日に帰省する事にしました。

勝手知ったる我が実家なので特に連絡もせずに、新幹線からローカル線に乗り継いで、バスで揺られ、

東京から六時間掛けて、夜の八時近くに実家最寄りのバス停へ辿り着きました。

ここから歩いて10分くらいの所に実家があるはず…と思い

多少景色の変わった道を歩いて行くと、妙な違和感が…

辿り着いて判ったのですが、実家が既にありませんでした。

正確に言うと、隣の家もろとも建物が取り壊されて、駐車場になっていました。

「なんだよこれ…」とショックを受けつつ、迷惑承知で近所の人に尋ねた所

「あーあの場所に住んでた○○さん家の息子さん?ご家族は5年位前に遠くに引っ越したよ」との事。

地元に親しい知り合いも居らず、幼い頃に遊んでた旧友も連絡先が判らず、

複雑な家庭事情があって、頼る親戚も居らず、かなり途方に暮れたそうです。

結局、その日は地元にあった民宿に泊まり、やむを得なく東京に翌日戻ってきたそうですが、

喫茶店でそれを説明している時の彼の表情は、遠くに視線を移し、世を儚んだ冷笑すら浮かべていました。

次の休みの時に、遠い親戚が経営している製材所の名前を、ネットから検索で調べて、そこに連絡して

徐々に情報を辿って、やっと自分の両親まで連絡が付いたそうですが、

兄は既に結婚して独立し、静岡に在住。

父親は二年前に病気で他界しており、その都度私の連絡先を方々当たったのに、判らなかったとのこと。

母親に連絡が付いた時も

「今まで何やってたの!お父さんがどういう思いしたか少しは考えたことあるの!」

ともの凄い怒られたそうです。

「そりゃ当たり前ですよ…。」

私がコメントしたら、その知人はこう言いました。

「そうですか?あれに腹立ったから四年連絡取ってない」

ご家庭それぞれに事情があるんでしょうが、ちょっと…と思いました。

最後に言うのもアレですが、怖い話じゃなくてすみません。

ここまで読んで頂いた方に感謝します。

怖い話投稿:ホラーテラー Vg=Ucさん  

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