中編5
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ある神社の祭り

今回は私の友人が住む町に伝わる、ある話を紹介したいと思う。

その町は山に囲まれた自然豊かな所にあってコンビになんてものは存在しない。

その友人の家の裏手には神社があって、その神社ってのが変わっている。

神社名を出すと地域が特定される恐れがあるので、それはやめておく。

ただ、その神社は普通の神社にある狛犬の部分が犬ではなくて対の馬になっている。

その友人は子供の頃からそれが普通だと思っていたし、特別珍しい事だとは思った事さえなかったみたいだ。

その地域では馬を神様の遣いだと信仰しているかららしい。

そして毎年、秋になるとその神社で祭りが行われる。

祭りは一週間に亘って行われるんだが、これまた変わっている。

まず、祭りと言うと太鼓やらお囃子なんかがあると思うが、その祭りにはない。

しかも縁日みたく店が並ぶ事も一切ない。

すごく質素な物みたいだ。

そして今あらためて、それは祭りではなくて儀式に近いんだと気付く。

まず地域に住む、若い男性の中から3人が選ばれ、神男(カンノ)と呼ばれる。

その神男に選ばれた3人は神社のお社に一週間篭る。

そしてその一週間は、お社から一歩も出ては行けない。

学生が神男に選ばれても、学校を休ませる程の徹底振りだ。

更に3人は会話はもちろん、声さえも発してはいけないと言うのだ。

そんなの拷問に近いじゃんと思うが、地域では神男に選ばれる事は名誉だと考える為、毎年立候補する人までいるのには驚きだ。

私からすれば、プチ監禁みたいなものなのにな。

しかしプチ監禁と言っても、食事なんかは地域の人が運んでくれるし、トイレや風呂もお社内にあるみたいで、喋れない以外は苦痛じゃないらしい。

神男に選ばれるには、他にも細かいルールがあって、ここには書ききれないが変なルールとしては、「童貞」でないといけないとかいうのもある。

本当に何から何まで変な祭りだ。

私がこの祭りをここまで詳しくなったのは、実は去年の秋に私の友人が神男に選ばれたからだ。

そして神男の役目と、祭りの本来の目的を聞いた。

友人は立候補でなく、近所のおっさんの推薦で神男に決まった。

そのおっさんも若い頃に神男を経験したらしい。

祭りの初日を向かえ、夜中0時ちょうどに神社の前に友人と他の神男2人、そして神主と町内会長が集まった。

そこで神主から①でも書いた様なルールを説明され、装束に着替えさせられた。

そして神主と町内会長に促され、御社内に通された。

御社内は割と広い部屋で3つに仕切りがされており、それぞれに布団が敷いてあった。

基本的にはそこで一週間過ごすらしい。

もちろんTVやゲーム等の娯楽は無く、数冊の本だけがあった。

しかしその本もマンガとかじゃなく、なんたらの神話とか日本の創生とか言う類の物で、友人はマジか!?と思ったみたいだ。

他の神男2人も同じ様なリアクションだった。

最後に、神主から深夜2時ちょうどに始める事と食事は7時、12時、6時に運ばれて来る事を説明された。

あ、あと風呂は夕食後に本殿の奥に用意してあるから入れとの事だった。

そして今一度、御社から出てはいけない事と声を発してはいけない事を念押しされた。

深夜2時。

神主の合図で、いよいよ祭りが始まった。

神主と町内会長は神男3人に一礼すると御社を後にした。

その時の心配そうな顔が印象的だったらしい。

初日は深夜スタートという事もあり、3人は布団に入った。

環境の違いでなかなか眠れなかったが、いつの間にか落ちたようだ。

朝になり暑さで目が覚めた。

時計が無かったので何時だったはわからない。

結構経ったと思った時、朝食が運ばれて来た。

それぞれの膳と一緒にノートとペンが配られた。

多分、声を出してはいけないので、これに書いてコミュニケーションを図れと言う事だろう。

食事を済ませ、早速ノートでやりとりした。

わかった事は他の2人の神男の名前と年下だって事、そして隣の地区の中学に通っている事だった。

さらに2人は友人同士らしく、しかも同じ野球部に入っているらしい。

自己紹介なんかを済ませ、他愛も無い事を綴った。

まだ始まって半日も経っていないが、早くも絆みたいなのが生まれた。

昼食まではノートでやり取りを続けていたので、案外時間が早く過ぎた。

このままだと楽勝だとまで思ったみたいだ。

昼食を済ませてからも、ノートでのやりとりは続いた。

話す話題もなくなって来た頃、絵を書いてしりとりをやろうと言う事になった。

本当にお気楽なもんだ。

1時間程しりとりをやって、さすがに飽きたため友人は他の2人を制止し、何やら作業を始めた。

ノートを破り、それを何回か半分に折って、折り目に沿ってまた破った。

そしてそこにハートのAやらクラブのQやらと書いて、見事トランプを完成させた。

年下の2人は友人を尊敬の眼差しで見ていた。

夕食後もトランプは続いたが、とうとう出来なくなった。

陽が暮れると御社内は暗くなり、明かりが無いためにトランプは困難になてしまったからだ。

もちろん、ノートでのやりとりも出来なくなった。

そうなると夜は辛かった。

仕切りを隔てても、お互いの存在がわかったので怖くはなかったが、暇で暇で仕方がなかった。

やる事がないので布団に寝ころがったが、まだ時間的は早いらしく、全く寝付けない。

月明かりが薄っすら差し込む御社で寝そべりながらボーッと天井を見ていた。

他の2人も暇そうなのは雰囲気でわかった。

どれくらい時間が過ぎただろう・・・。

ガタガタガタっと、御社の入口の扉が揺れる音がした。

御社の扉は木製だから風で揺れているのかと思ったが、そんなに強い風は吹いていないみたいだったし、まるで誰かが扉に手を掛けて揺らしている様だった。

ほとんど真っ暗闇の神社で扉が揺れているもんだから、そのシチュエーションだけで心臓が飛び出しそうだったみたいだ。

結局、音の正体がわからないまま、暫く怯えていたが、いつの間にか眠ってしまったらしく、気付けば朝食が運ばれて来る時間になっていた。

朝食を取って、眠気まなこの友人が布団に横になっていると、Sの方が友人とTを手招きした。

友人とTはSの元まで行くと、Sはおもむろにノートにペンを走らせた。

「昨日の夜の音聞こえた?」

頷く、2人。

友人が続けてこう書いた。

「扉ガタガタ鳴ってたよな。誰か来てたみたいだったろ?」

頷くSとT。

友人は更に続けた。

「誰か俺らが、ちゃんとやってるか見回りに来たんかな?」

首を傾げるSとT。

2人も正体はわかっていないみたいだった。

するとSがペンを取った。

「じゃあ、最後の音聞こえた?」

友人とTは、

「???」

Sが続ける。

「扉の音が止んだ後、馬の足音が聞こえたんだけど・・・。」

今度はTがペンを取った。

「馬の足音?」

S「そう。パカパカって走り去って行ったよ。」

Sは確かに聞いたようだったけど、友人とTには聞こえていないみたいだった。

3人とも腑に落ちない表情になったが、深く考える事はなかった。

そう、その夜に確信的な出来事が起こるまでは・・・。

ゴメンなさい。

もうちょい続きます。

怖い話投稿:ホラーテラー 二代目紅天狗さん  

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