短編2
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正直な湖

俺は一人、ボートに乗っていた。

霧がかかった湖の真ん中にボートを止めると俺はつぶやいた。

「ここが俺の死に場所か…」

そう…

俺は死ぬためにここにやってきたのだ。

仕事を失い、恋人にフラれ、挙げ句のはてに火事で住む場所さえ失ってしまった…

こんな俺に残された道は死しかないだろう…

俺は震える手でポケットの中から、青酸カリの錠剤を取り出した。

これを飲めば、直ぐに死ねるのだろう。

俺はゆっくりと錠剤を口に入れようとした。

だが、手の震えが止まらない。

俺は誤って、錠剤を湖の中に落としてしまった。

「全く…死ぬ事さえ出来ないのか…」

俺は、そう呟いてボートの上でうなだれていると、急に湖の水面が、ボコボコと泡立ち、泡の中から美しい女が出てきた。

俺が驚いていると、湖から現れた女は、俺にこう尋ねてきた。

「あなたが今、湖に落としたのは、金の青酸カリですか?

それとも銀の青酸カリですか?」

俺は女に言った。

「俺が落としたのは、金でも銀でもなく、普通の青酸カリですが…」

すると、女はニコリと微笑み、優しい声で言った。

「あなたは正直な方ですね。

どうぞこの金の青酸カリと銀の青酸カリをお受け取りください。」

そう言うと、俺の手に金と銀と普通の青酸カリを握らせた。

俺は女に聞いた。

「あの…金や銀の青酸カリを飲むと、一体どうなるんですかね?」

すると女は、優しく微笑んだまま答えた。

「え? どうなるかって…

普通に死ぬでしょ。

だって青酸カリなんですもの…

ですもの…

すもの…の…の…」

エコーを残し、女は湖の中に沈んでいった。

俺は、三粒の錠剤を湖に投げ捨てると、湖の岸にむかって力一杯ボートを漕いだ。

心の中で、

(死んでたまるか!)

と叫びながら。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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