中編4
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静かな時間が過ぎていた。

窓の外は鮮やかな新緑が風に揺れていた。

時々心地良い風が涼子の顔に当たる。

涼子は少し目を細め質問を続けた。

「では先生は完全犯罪は成立しないと?」

「絶対ないとは言えないが物理的には成立しないと思いますよ」

そう言いながら教授は煙草に火をつけた。

この法医学教授はかなりのヘビースモーカーらしく私が着てからの約1時間の間にかれこれ5、6本は吸っているのではないだろうか!?

私も喫煙者だがいささか煙が気になる。

「先生はかなり煙草を吸われるようですが1日にどれ位吸われますか?」

私は本題と全く関係のないことを訊いていた。

「あーそうですねぇ…1日に3箱位でしょうか…」

教授は煙草を吸いながら

コーヒーをすする。

医学の事が無知な私でも

絶対体に良くないことは解る。

この教授は法医学の世界ではなかなかの権威者らしいが、威張ったところもなく口調も優しい。

白衣を着ていなかったら私も教授の名を出し尋ねていたかもしれない。

そんなちょっと風変わりな教授と雑誌記者の私が初めて逢った5月の終わり。

今度うちの雑誌で法医学の特集を企画しており

編集長のつてでこの教授にアポをとったところ快く引き受けてくれたのだ。

「では本題に戻りますが、

先生はどうして法医学を選ばれたのですか?」

「うーん…しいて言えば人と接するのが苦手な方で

内科や外科だと沢山の患者さんと接するわけで…実際、研修医時代に各科を廻っていた時は担当の患者さんから何を話しているのかよく分からないので違う医師に替えてほしいと苦情があったほどでして

昔は人と向き合って喋るのが苦手で、小さな声で下を向いて話すから老人の患者さんには聞き取れなかったようで」

そう言いながらまた煙草に火をつけた。

所々脱線はしたが内容の濃い話を聞くことができた。

これを帰ってパソコンに打ち込むから

今日は午前様かなぁ…

そんなことを考えながら

鞄にボイスレコーダーを

終い席を立とうとした時に

教授室の電話が鳴った。

教授は左手を少し挙げ電話に出た。

かれこれ10分位話している。

完全に帰るタイミングをなくしてしまった。

ここまできたら慌ててもしょうがない。

教授が電話を切るまでこの冷めたコーヒーでも飲むか

私は教授室の窓から見える新緑を眺めながらコーヒーを流し込んだ。

「いやーすみませんでした」教授は電話を切ると頭を下げながら戻ってきた。

「いえ、お忙しいところ申し訳ありませんでした。

今日は興味深いお話を伺うことができ本当にありがとうございました」

私は深々と頭を下げ帰ろうとした時、教授は突然

「今から仕事に行くんだが君も来ませんか?」

?????

はっ? 私に言ってる?

「あの〜仕事と申しますと?」

「実は今の電話で変死がでたので検体依頼があったんでもし良かったら見学してみてはと思ったんだが

いやいや突然にすみません」

教授は頭を掻きながら照れた。

この人よく見たらまだ若いようだが、はて何歳なのだろうか?

私は教授の問いを無視するかたちで

「失礼ですが先生はお幾つですか?」

と訊いていた。

教授は目を大きくし

「…あっ…えっ…37です」

恥ずかしそうに小さな声で答えた。

!!!

ウッソー!!

私と同い年!

どうみてもパッと見は40代後半か50代前半位にみえる。

「すみません。私も37です」

「!!えっ?本当ですか?」

教授は益々目を大きくして笑った。

!!この人可愛いかも…

っていうか…私は今仕事中だし

この私が逢って数時間の人に好意を抱くなんて

私おかしい…

「…すっすみません!」

私は顔が熱くなるのを教授に悟られないよう下を向きながらドアのノブに手をかけると

「また逢えますか?」

教授は大きな声でしっかり私をみて言った。

えっ!?

えーっ!?

嘘でしょう!?

生きた人間が苦手なんでしょ!?

「…はい。私もまた逢いたいです」

私も素直に言った。

『良かったね〜!』

『うん!!やっと彼女ができたね』

『私たちも先生にはお世話になったから恩返しが出来て良かった』

『でもお前よく先生に勇気を出させたな〜?』

『いや〜俺は必死で先生の耳元で暗示のように言ってたよ。アタック!アタック!って』

『これで先生のことは安心だし私たちもそろそろいきますか?』

『そうだね。先生のお陰で私たちも成仏できるわけだし』

『うん。うん。事故死にされるところを先生のお陰で犯人逮捕になったわけだから私たちの怨みをはらしてくれた先生は命の恩人』

『お前、何言ってるの〜?俺たちはもう死んでいるんだから』

『あっ…そうだ!』

『ハッハッハッハッハ!』

教授室の幽霊4人は新緑の向こうへ消えて行った。

怖い話投稿:ホラーテラー ナナさん  

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