中編5
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動物園(姉妹)

気づくと私は、動物園らしきとこに居た

場所も時間も全く感覚がない

靄がかっており、はっきりとは見えないが

至るところにに檻らしきモノがある

私は、不安になり

誰か自分以外の人が居ないか

辺りを見回した

「ここだよ」

聞き覚えがある声に私は安堵した

「姉さん!!どこなの?」

「ここ」

私は、声がするほうに振り返った

そこには、ベンチに座っている姉が居た

私は、すぐさま姉に駆け寄り、隣に腰掛ける

「姉さん、ここはどこなの?」

「さぁ、解らない」

「姉さんは、どうやってここに?」

「さぁ、気づいたらここに居たの。あなたもそうじゃない?」

「そうなの、気づいたら……」

なにがなんだか解らなかったが

私は姉に会えたこと、ただそれだけで安心していた

私は姉を何よりも信頼している

幼い頃、父を早くして亡くし

私の家庭は母子家庭となった

母は、間もなくして再婚したが

その相手は最悪だった

家の中では暴力を振るうことしかしない男だった

母も結婚してすぐに気づいたようだったが

義父は外に何人もの女がいた

母は色々苦労したのだろう

それから数年後、母は亡くなり

そして、私達姉妹とその私達を厭らしい目で見る義父だけが残った

紛れもなく私達は不幸だったが

私は姉によって救われていた

家が貧乏なせいか

私は虐めの対象になったが

姉は、その虐めた子の指を噛み切ってくれた

義父に襲われそうになったときも

姉は義父を突き飛ばし、助けてくれた

義父は突き飛ばされて、机に後頭部を打って死んだ

結局は事故として片付いた

その後も姉はことあるごとに私を助けてくれた

私は姉によって生きているといっても過言ではなかった

やがて私達は大人になり

私にも恋人が出来た

そして、ごく自然な成り行きで

私は結婚した

姉は自分の事のように喜んでくれ

私もとても幸せだった

しかし、運命は私達を長く幸せにする事を許さなかった

私の夫となった男は、結婚すると豹変した

家庭内で私に暴力を振るい

家の外では何人もの女を作っていたようだった

まるで、あの義父のように…

私は夫を憎悪し、その事を姉に告げた

それから数日後、姉が家にやってきた

姉はインターネットで調べたという方法で

市販されている薬品から、毒物と成り得るものを生成した

そして、当然のようにこう言った

「旦那さんが食べる食事はどこ?」

その食事を食べただけで、夫は勝手に死んだ

私達はそれを山に埋めるだけでよかった

安堵感からだろうか

私はその帰りの車中で不意に睡魔に襲われた

私は、ハンドル操作を誤り

そして、車は山道を大きく反れ…

「姉さん!!」

私は、思わず叫んだ

辺りに私の声がこだまする

気づくと姉が居なかった

言葉では言い表せないほどの不安が私を襲う

「ちょっと、隣いいですか?」

突然、頭上から声がした

見上げると、一人の男立っていた

「…は、はい」

「失礼します」

「すいません…あの…姉さんを知りませんか?」

私は見ず知らずの男に話しかけた

「さぁ、そんな事よりもちょっとあの檻を見ていただけますか?」

「檻?」

気づくと辺りを包んでいた靄が晴れている

私は、男が指を指す方向を見た

その檻には『兎』とだけ書かれたプレートがかけられている

中に居るのは人間だ

頭に奇妙な器具をつけている

まるで開頭手術をする時につけるような頭を固定する器具

しかし、固定しているのは頭ではない

瞼(まぶた)だ

目が閉じられないよう、無理矢理に瞼を開かせている

どれ位、長いことそうしているのだろうか

眼球は乾ききっていて、ひびが入っているかのように血が滲んでいる

「なんなんですか!?何故あんなことをしているんですか!?」

私は思わず叫んだ

「何故って、『兎』の眼は赤いものでしょ?

 遅くなりましたが、私はここの園長です」

「あの、私は死んで…ここは地獄なのでしょうか?」

「ええ、その通りです、良くわかりましたね

 最近は中々それを受けいれられない人が多くて困るんですよ」

「あの…私もあのような罰を受けるのでしょうか?」

「ええ、そうですよ」

「そんな……

 姉さん…そうだ!……

 姉さんはどこに行ったか分りますか?」

「そんな人最初から居ませんよ」

今まで以上の不安が私を襲ったが

何故かその園長と名乗った男の言葉に違和感を感じなかった

「……仰ってる意味が…」

「では逆に、私が聞きます。

 貴方はお姉さんの名前を覚えていますか?

 顔や声はどうです?」

「……」

「貴方がお姉さんだと思っていた人は、全て貴方の妄想が作り上げたモノなのですよ」

「そんな!!」

「だから、貴方がお姉さんがやっていたと思っていたこと全ては

 貴方自らの責任でやっていたことなんです」

「ちょっと待ってください!!

 そんなこと言われても困ります

 たとえ姉さんが私の妄想だとしても私にはその実感がありません!!」

「それはそうでしょう

 貴方がやったことを全て

 貴方が作り上げたお姉さんのせいにしたのですから」

「例えそうだとしても、私には納得できません!!」

「と仰いますと?」

「私は、自分で罪を犯した覚えも

 誰かに頼んだ覚えもありません

 例え私の中の何かがそうさせたのだとしても

 今の私自身にはなんの覚えも無いのです

 ある日突然、謂れの無い罪を着せられてしまったの同じ事なのです!!」

「果たして、本当にそうですか?」

「……」

「良く思い出してください

 虐めた子の指を噛み切ったのも

 義父を殺したのも

 夫を殺したのも

 全て貴方が選択して行ったことではありませんか?

 行った後で、都合よくお姉さんに記憶だけ押し付けたのではありませんか?」

「……」

「いずれにしろ、私から言えるのは唯一つです

 もう、貴方を庇ってくれる

 都合のよいお姉さんは居ないんですよ」

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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すごくおもしろかった。
好きです。ほどよく怖い。

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