短編2
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二年程前のことです。

その日も、今日と同じくやたらと暑くて寝苦しい夜でしてね。

こんな温室みたいになった部屋には居られないって、母に頼んで車を出してもらったんですよ。

母も夜型の人間ですから、よし、ドライブがてらに乗せていってやろうと快諾してくれました。

家を出てしばらくして、さてこれからどうしようかと思っていると、丁度うちの地域につい最近できた書店の近くを通りまして。

他に行くところも無いし、その書店で暇を潰していこうということになったんですね。

これがまた結構広いし、専門書から漫画まで幅広い分野がしっかり揃っている良いお店でして、私は伊坂幸太郎の小説を二冊ばかし買って車に乗り込もうとしていました。

その時にですよ。

「あの、いいですか?」

声が聞こえました。

本当にすぐそばで、耳元で囁くような、しかしはっきりと聞き取れた女性の声。

いや、もちろんあれは母の声を聞き間違えたとかじゃありませんでしたよ。

全く知らない人の声。

私がぎょっとして振り返るとそこには……。

血塗れの女の幽霊が!

なんて露骨なことはありませんでしたよ、そりゃあ。

ただね。

わかりますかね、お葬式のときに出すあの看板。

『忌中 ○○家』だかなんだか書いてあるやつ。

あれがありました。

その看板見た瞬間、なんででしょうね、よくわからんのですがさっき声を掛けてきたのはこの亡くなった人なんだろうな、ということを確信して。

それから、なんだか急に怖くなっちゃって私はその場を立ち去りました。

その後は家で怪現象がどうだこうだということなんかは一つもないんですがね。

「あの、いいですか?」って言葉の意味。

これが気になって仕方がない。

はてさて、この声の主は何を私に訪ねようとしたのだろうか。

怖い話投稿:ホラーテラー 猫好きさん  

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