中編3
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動物園(相愛)

私がこの地獄に来てから、ひと月が過ぎようとしていた

私の犯した罪は『偽善』らしく、そのせいでこの動物園で飼育員として働いている

正直、納得はしていない

私が担当している檻の一つに『虎』がある

まずは、この檻に来た人たちの皮膚を斑に剥ぎ

とある刺激性の薬品に浸す

そうすると皮膚を剥ぎ取った部分だけが

黒ずんで虎模様のようになる

これが現在の私の仕事の一部である

その他に二つばかり他の檻を担当しているがどこも似たり寄ったりだ

正直、罰を与えるより

罰を与えられる方がよっぽど気が楽だと感じるときがある

この罰を与えるという作業自体が既に罰なのどつくづく感じる

この私を飼育員とした園長の判断は間違っていない

ある日の早朝、檻の掃除を行っていると

外のベンチに男が一人座っているのが見えた

暫くすると、園長がやって来てその男に話しかけた

特に聞く気はなかったのだが

自然と会話が聞こえてきてしまった

「驚かれないんですね…」

「何を…でしょうか?」

「ここが地獄であるということにですよ」

「ええ、まぁ。なんとなくですがそんな気がしていました

 俺は、罪深いことをしてしまいましたし…」

「恋人さんとのことですか?」

「そうです。

 俺たちは、本当に愛し合っていましたが

 そのせいで、現世ではたくさんの人を不幸にしましたから…

 やはり、人を不幸にすることや心中することは罪なのでしょうか?」

「ええ、その通りです

 皆様、よく勘違いなされるんですが

 人を不幸にすることよりも

 自ら命を絶つほうがよっぽど罪は深いのです」

「そうですか…ところで、彼女はどうしたのでしょうか?」

「恋人さんの事でしょうか?

 その人ならまだ当分来ませんよ、元気に生きておられますから」

「何ですって!?

 ひょっとして、飲んだ毒が少なかったのでしょうか?」

「いえ、違います。あの方は最初から毒など飲んでいませんよ

 あの方は、最初から死ぬ気はなかったのです

 あなたにだけ毒を渡して、自分は気づかれないようにすり替えたのです」

「そんな!!信じられません!!

 彼女がそんなことするなんて…」

「残念です、としか言いようがありません…」

会話はまだ続いていたようだったが

私は作業が終わったのでその檻を出た

その日の仕事終わりに私は園長の所に会いに行った

「園長、何故あんな嘘をついたのですか?

 あの人の恋人は先にここに来ていたではありませんか

 まさか、彼女にも同じことを言ったのですか?」

「ええ、その通りですよ」

「何故ですか!!

 たとえ地獄であろうと一緒に居たいと思って

 あの二人は心中したのではないのですか!!」

「ええ、きっとあの二人はそう思って心中なさったのでしょうね

 あの二人は、本当に愛し合っていましたから

 しかし、だからこそ私は言わなかったのです、二人のためを思って

 いいですか?この事は絶対にあの二人には言わないでください」

それから数週間後

その男は他の檻から私が担当している『虎』の檻にやってきた

肉体的にも精神的にも憔悴しきっており

男は見るからに呆然自失した状態に見受けられた

まだ彼女の事を引きずっているのだろうか?

私は余りにもそれが無残に見えて仕方がなかった

『虎』の処置を行った後

私はついに耐えかねて

男に恋人がこの動物園にいる事をこっそり伝えた

あれから数日たった

私は今疑問に思っている事がある

園長はああなる事を全て見越していたのではないだろうか?

私が耐え切れなくなりあの事を伝えてしまう事をすべて見越した上で

あのような嘘をついたのではないか?

あの日、事実を知った男が言った言葉が

私の耳から離れない…

「何故だ!!何故いまさらそんな事を言う!!

 俺は、地獄がここまで過酷な所なら

 彼女が来てなくてよかったと思っていたのに!!

 彼女が同じような罰を受けているなんて…

 頭がおかしくなりそうだ…

 いいか!!

 彼女に伝えてないなら、俺がここにいる事は絶対に言うな!!

 彼女も俺がここにいることを知ったら

 自分のせいだとますます自分を責めるだろう

 これ以上彼女に辛い思いをさせたくない…

 くそ!!何故今更言うんだ…

 そんな事で、俺が喜ぶと思ったのかこの偽善者め!!」

 

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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