中編3
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自転車旅行2

「・・・突き当たりの・・T字を・・・右に行けば・海に出ます・・・」

蚊の鳴くような、細い声でゆっくりと、ぽつりぽつり返答が返ってきた。

怖い。

話し方が、怖い。

声が、怖い。

彼女の口が妙に怖い。

そして、この時やっと私は彼女がここにいる事に対して不信に思う。

車は、まったく通っていない。

民家も無ければ、自販機も無い。

彼女は、手ぶらだ。

時間は、既に11時半頃。

女性が一人で歩いている。

この現状に何か理由が欲しいと思ったのかもしれない。

彼女は、体が透けてないから、お化けや幽霊じゃない。

(私は、幽霊は体が透けて見えるモノという先入観がありました。

)ゆえに、彼女はレイプされて、車から捨てられたんだ。

というストーリーを考えた。

しかし、彼女の髪や服装は乱れていない。

そうだ、彼女は彼氏とケンカして、そいつは酷いヤツで彼女を置き去りにした。

道を知っている事を考えると、この先しばらく行った所に彼女の家があるはずだ。

そうだ、きっとそうに違いない。

だから、落ち込んでいる彼女は暗いんだ。

私は、彼女にとりあえず、

「大丈夫ですか?」

と声を掛けた。

また、すぐに返答が帰ってこない。

振り返ると、Yの自転車が、ゆっくりと進みだしていた。

彼女の口が、またゆっくりと開く。

「・・・右です。

・・・右に行って下さい。

・・・右。

その瞬間、

「ひぃぃっ!」

Yの引きつるような声が聞こえた。

そして、急にYの自転車が加速した。

私は、慌てて彼女に大声で礼を言い、全力で走るYを追いかけた。

ふと、後ろが気になり振り返った。

50m程後方にいる彼女は、微笑んでいるように見えた。

私は、なぜか彼女の微笑みを見て安心し、心を落ち着かせる事ができた。

私は、「ありがとう」の意味を込め彼女に大きく手を振った。

Yは、遥か前方を走っていた。

きっと、Yは彼女を幽霊だと思い込んでいるんだと思うと、Yの肝の小ささに笑えてきた。

Yの臆病さを馬鹿にしてやろうと、全力で追いかけたが、なかなか差が縮まらない。

10分ほど走ると、Yはスピードを落としたのか、もう少しで追いつけそうになった。

Yの前方を見ると、彼女が言っていたT字路が見えた。

T字は、右が下り坂で、左は上り坂だった。

正面に看板があり、左に曲がるとゴルフ場があるようだ。

3mほど前方を走るYに私は、

「そこを右だぞ!右!!」

と声を掛けると、Yは振り向かずに、

何も無い?

私も振り向いたまま、自転車は坂道を下り始める。

T字の街灯の光に何かが入って左の方へ抜けた。

何? 靄? 影? プレデター?・・・判らない。

なんだか判らない。

イノシシのようなモノの形で光を遮り、その形で空気が歪む。

そして、それは、滑るように左折して坂道を登って行った。

見えたのは、ほんの一瞬。

私も全力で自転車を漕いだ。

怖い!怖い!怖い!ついに見た!初めて霊(?)を見た!Yが見たのは、これだったと理解した。

Yには、私が彼女と会話している時から、彼女の側らにいるアレが、はっきりと見えていたのだ。

あれは、彼女に取り付いていたモノだったのか?だから、彼女は暗く、言動がおかしかったのか?一気に今までの事を理解した気になった。

体が震えてる。

その時、急にペダルが軽くなった。

目の前に、広い道路と交差する十字路が見えた。

交差点にラブホテルの看板があった。

“左折1km”。

Yが怒ったような声で私を大声で呼んだ。

「おい!今日はラブホに泊まるぞ!絶対に泊まるぞ!」

続きます

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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