中編6
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玉吉君と僕

※指に任せて書いたので、長いです。ご注意を。 

(あと、『感動系』ってタグ、自分でつけるのがこんなに恥ずかしいとはねぇ……)

―――――――――――

昔、僕がまだ小学生だった頃、僕の家では猫を一匹飼っていた。

子供が近所の野良猫に、周りには秘密で餌をやっていたら、そのうちの一匹がそのまま家に居ついてしまったのだ。

しかし子供がその猫をあまりにも可愛がるので、家族もしぶしぶ仕方なく……といった過程を経て。猫には『玉吉(タマキチ)』と名前がつけられた。

ちなみに、野良猫に餌をやっていた子供というのは、言うまでもないけど、僕のことだ。

雑種で、毛並みは茶色。顔全体がどことなく丸い。性格は、猫にしては大人しく、日向ぼっこが好きなのんびり屋だった。

そして。この玉吉君はなんと、人の言葉が分かる猫だったのだ。

……といっても、本気でそう思っていたのは僕だけで、家族さえも最後まで信じていなかったのだけれど。

きっかけは、ご飯をあげるとき、面白半分で「待て」って言ったら、玉吉君は食べようとしていたのを寸前で止めて、僕の方を恨めしそうにじっと見つめてきた。

猫が『待て』をしたのだ。

僕はびっくり仰天していた。すると玉吉君が、おい、いつまでやらせんだ。といった感じで「んかー」と鳴いた。

はっとした僕が慌てて、

「あ、ごめん、もういいよ」

と言うと、彼はささっとご飯を食べ始めた。

……もしかして、玉吉君は、人の言葉がわかるのではないか。

と僕はその時初めて思ったのだった。その後、彼と一緒にいる内に、思いは確信に変わっていった。

決定的だったのは、ある日、玉吉君がうっかり僕の問いに頷いたこと。

それは、彼が縁側で日向ぼっこをしている時、僕は友達の家に遊びにいこうとしていた。出かけることを伝えようと思ったのだけれど、その時家には誰もいなかったので、僕は、玉吉君のそばに行って。

僕「行ってくるきねー」

玉吉君(こちらを向き、頷いて)「んにゃお」

その時は別に何とも思わなかったけれど、後になって考えると、あれは絶対僕の言葉に返事をしたのだ。

そうしたことが色々あって。玉吉君は、人の言葉がわかるのだ。と僕は家族に打ち明けた。けれども、笑われただけだった。

家族はだめだ。と思った僕は次の日、学校の友達にそのことを話した。

けれど「ええ? そんなんうそやろ?」と友達も信じてくれない。

そんな時だった。話に割って入ってきたヤツらがいた。クラスの中であまり素行がよくない、いわゆる悪ガキ、というヤツらだ。ジャイアンが三人集まったと考えてもらえればいい。

「お前んちの猫、しゃべれるんやって?」

どうやら盗み聞きしていたようだ。実際僕は彼らに関わりたくはなかったのだけれど、一応説明しておいた。

「しゃべれるわけやないけんど、僕の言うことは分かるみたい」

すると、ジャイアンたちは、馬鹿にしたように笑って、

「バッカで、猫がそんなわけやん」

と騒ぎ始めた。

「……本当やし」

「おい、ここにウソつきがおるぞ―」

「いや、ウソやないし」

そうして、しばらく押し問答が続いた後、

「そんなら、今日お前んち行くき。俺らが確かめちゃろうや」

とジャイアンの一人が言った。僕は、

「ええよ」

と答えた。

その日は学校が終わると家に走って帰り、居間でくつろいでいた玉吉君を抱き上げると、そのまま家の前でジャイアンたちを待った。玉吉君は、ナンダナンダという顔をしていたけれど、おとなしく抱かれていた。

しばらくすると、ジャイアンたちがやってきた。

「その猫か?」

「うん」

どうだとばかりに、僕は一匹のジャイアンの顔の前に玉吉君を突き出す。

「ぶっさいくな猫やな」

そのジャイアンはそう言った。てめえの方がブサイクじゃねえか。と僕は思ったけれど、黙っておいた。

それよりも、ブサイクと言われたのにも関わらず、玉吉君は、「んかー」とつまらなそうに小さく鳴いただけだった。

その後、色々とジャイアンたちが喋りかけるも、玉吉君はあくびをしたり、全く反応を示さなかった。

すると、三匹のジャイアンは、我が意を得たりと僕をうそつき呼ばわりしだした。

「ほれ見ろ、やっぱ、お前のウソやんか」

「嘘やないって」

「ウーソツキ、ウーソツキ」

大合唱。

「ウソやないし!」

「うっせ、ウソつきバーカっ」

その瞬間、一匹のジャイアンに僕は胸に抱えた玉吉君ごと突き飛ばされた。塀に背中を思いっきりぶつける。痛かった。でもそんなことよりも、腕の中の玉吉君が潰れるかと思い、ドキッとした。一応大丈夫だったんだけれど、彼はもう僕の腕の中が嫌になってしまったようで、しきりに手足をバタつかせ始めた。

「もう行こうぜー」

と言って、ジャイアンたちは去って行った。僕は悔しいやら情けないやらで、地団太を踏んだ。塀を蹴ったりもした。

玉吉君は、そんな僕の腕から降りると、僕にちらりと一瞥をくれて、どこかへ行ってしまった。

その日は、僕は夕食も喉を通らなかった。

玉吉君は夕食には帰ってこなかった。見つけたら説教してやろうと思ってたので、中々帰ってこない彼にイライラしている内に時刻は夜になり。イライラは少しだけ心配に変わった。

どうして帰ってこないのだろう。

けれどもとうとう眠たくなったので僕は布団にもぐりこんだ。

次の朝起きると、玉吉君は僕の腹の上で眠っていた。その時は何だかもう怒る気力も失せていて、僕はとりあえず、

「おはよう」

と言ってみた。すると彼は両目をうっすら開けて、

「……んにゃあ」

と返事をしてまた眠ってしまった。

その日、学校に行くと、あのジャイアン三人組がそろって僕の方へとやってきた。

何か知らないけれど、どうやら三人とも怒っているようだった。

「おい○○(←僕の名前)!」

「え……?」

「お前、昨日あの猫に何か言ったろう!」

「はあ?」

「お前のせいやぞ!」

肩を強く押された。いったい何なのだろう。わけがわからない。

あわや殴られそうになったところで教室に先生が入ってきて。その場は何とかおさまった。その後、先生も含めてジャイアンたちと話し合うことになり、そこで理由を聞いた。

ジャイアンたちが言うには、昨日僕を突き飛ばした後。なんと猫の集団に襲われたのだそうだ。

確かに、よく見ると彼らの腕や足には引っかき傷がちらほらついている。

「お前が猫に言ったんやろうが!」

とジャイアンたちは口々にまくしたてた。僕は何だかおかしくなってきて。愉快な笑いをこらえながら、先生の前で、努めて冷静に見えるように言ってやった。

「……あんさあ、猫に人の言葉が分かるわけないやん?」

ジャイアンたちは一瞬黙った後、また喚きだした。でも、この場はどうみても彼らの負け戦だった。

それから、ジャイアンたちからは事あるごとに、イジメに近いちょっかいを掛けられることになったのだけれど、

「猫に言うぞ!」

の一言で彼らはおとなしくなるのだった。

ちなみに、玉吉君がこのあたりの猫たちのボスだったとか、その辺の事情は僕は知らない。

彼はその後も変わりなく、のんびり日向ぼっこなどして過ごし、たまに僕の言葉に頷いたり、首を横に振ったりもした。

そして、僕が中学三年になったとき、学校から家に帰ってくると、玉吉君は、家の縁側で日向ぼっこをしながら死んでいた。

家にいた母も、「ああ、日向ぼっこしてるのね」と思っていて、死んでいることに気付かなかったそうだ。

でも、僕にはすぐに分かった。

彼はいつでも、たとえ寝ている時でも、僕が呼べば、返事をくれるはずだから。

遺体を持ち上げると、日に当たっていた部分が、死んでいるのに、温かかった。

初めて会った時からもう大人の猫だったので、ちゃんと一生を生きたのだろう。いずれ、こういう時が来るのは分かっていたし、覚悟はしていたつもりだったけど、やっぱり仕方がない。

僕は泣いた。

彼のお墓は今、家の庭の一番日の当たる場所にでんと立っている。日向ぼっこが好きだったから、「居心地はどう?」と訊くと、きっと「んにゃあ」と返ってくる。

「んにゃあ」は肯定で、

「んかー」は否定。

彼の言葉で分かったのはそれだけ。でも、それで十分だったのだと、僕は思っている。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名産さん  

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