中編6
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雨宿り

急に降り出した雨に私は戸惑いながら早く雨宿りが出来る場所を探していた。

ここは海岸…それらしいものはない。

顔に雨が当たり口にまで入ってきた時

!!!!! あった!

私は嬉しさと安堵の気持ちで一目散に走り出した。

「こんにちは…すみません」

私は濡れた髪の毛を手でかき分けながら声をかけた。

『留守なのかな?』

その洋館は静まり返っていた。

海沿いに建つその洋館は

お洒落な落ち着いた佇まいだった。

庭も綺麗に手入れをされている。

きっと花が好きなのだろう。

色とりどりの花が庭一面に咲いていた。

私は玄関先で雨宿りしながら庭を見ていた。

しかし黙って人様の敷地に入り勝手に雨宿りさせてもらうのも申し訳ない。

私は再度ドアに向かい声をかけた。

が、人のいる気配がない。

玄関には呼び鈴らしいものも見当たらない。

雨は益々強くなってきた。

私は何気なくドアのノブに手をかけた。

!!! 開いている。

そーっとドアを開け声をかけた。

「すみませーん」

大きな声で声をかけた。

シーンとした空気が張りつめている。

誰もいなさそうだ。

私は諦めドアを閉めようとした時

ガサガサとかすかな音がした。

私はびっくりして少し体が後ろに動いた。

閉めかけたドアを持ったまま暫く耳をすましていた。

音は聴こえない。

私は勘違いだと思いドアを閉め後ろを振り返った途端「ヒィッ」と私は声にならない声を出していた。

私の真後ろには傘をさした若い男性が立っていたからだ。

「うちに何か御用ですか?」

男性は少し驚いた様子で話しかけてきた。

「す…すみません。急に雨が降ってきて雨宿りをさせてもらおうと…」

私は動揺してかんでしまった。

「そうだったんですか。私の方こそ驚かせてしまいすみませんでした」

男性は優しい笑顔で言った。

「いえ、そんなことないです。私の方こそ勝手に玄関を開けちゃってすみません」私はぺこりとお辞儀しながら謝った。

「まぁ玄関先でもなんですから宜しかったら中にどうぞ」

エスコートするように左手を動かす仕草が自然だった。

そのせいか私は普通に玄関の中に入っていた。

中はまた一段とお洒落な感じで私は暫く頭を左右に振りながら家の中の装飾品を見ていた。

「みんな古いものばかりなんですが曾祖父の代からあるものなので邪険にもできなくって」

男性はお茶を持ってきながら話しかけてきた。

「随分歴史があるんですね。どれもこれもみんな素敵です」

私はうっとりしながら装飾品に目をやった。

特別、骨董品に興味があるわけではないが、この家のものは私が好きなガラス品のものが多く目が離れなかった。

「お好きなものがあったらどうぞ持っていって下さい」男性はさらりと言う。

いくら価値の分からない私でも高価なものだと分かる。

それを今し方会ったばかりの人間に言うこの人は何なのか!?

私は丁重に断り入れてくれた紅茶を飲んだ。

「…美味しい!」私は思わず口に出していた。

その紅茶は何とも優しい味がして紅茶があまり好きではない私も美味しく思った。

「ありがとうございます。オレンジペコに庭のハーブを入れてるんです。僕は

紅茶が好きなので貴女の好みも訊かず入れてしまい

すみません」

そう言うと男性は庭の方に目をやった。

その目の先には数種類の

ハーブが植わっていた。

「わぁ〜立派なハーブですね!!」

私は窓の近くまでいき暫く庭のハーブを眺めていた。

気がつくと男性がいないことに気がついた。

私はお手洗いにでも行ったんだろうとあまり深く考えもせずソファーに座り直し紅茶を口にした。

暫く待っていたが男性は戻ってこない。

窓の方に目をやると雨はすっかり止んで太陽の日差しがうっすらみえた。

雨も止んだしそろそろお邪魔しなければ、私は立ち上がり男性を探した。

あまり人様の家の中を歩き回るのも気が引けたので

リビング周りを歩きながら男性を呼んだ。

しかし人の気配が全く感じられない。

困った。

私は悩んだ末バックから

メモ紙とペンを取り黙って帰ることを詫びた内容と雨宿りと紅茶のお礼を簡潔に書きリビングのテーブルの上に置き洋館を後にした。

外は雨が上がった後の気持ちの良い風が吹いていた。

もう一度振り返り洋館をみたら2階の窓に人の気配を感じたが何せ超近眼な私には詳細は分からずあまり気にせず前を向き歩き出した。

暫く歩いていると犬を散歩させている中年の女性とすれ違った。

すれ違いざま私は軽く会釈すると突然その女性が

「貴女どこから来たの?」

「??…はい?」

「もしかしてこの先の洋館を見たの?」

『見た…!?』

「あの…海岸を歩いていたら急に雨が降ってきたのでこの手前の洋館で雨宿りさせてもらいました」

私は本当の事を言った。

するとその女性はみるみるうちに顔が険しくなり少しひきつりながら

「そんなわけないわ。貴方も一緒に来て」

女性は少し取り乱しながら私の右手を握ると私が今来た道を歩き始めた。

「ここよ」

女性は少し息が荒い。

女性の指差した場所はただの空き地だった。

ただ家が建っていた形跡はあった。

庭であったであろうその場所には延び放題のアップルミントがあった。

「あっ!!ここは?!…」

「そう、貴方が雨宿りした洋館があった場所」

女性は寂しそうに言った。

「ここには私が生まれ育った家があったの。

両親、10歳上の兄の4人家族だった。私は苦労もなく平々凡々と大きくなっていった。

あの事件まで…は」

女性は遠くをみるような目で話し始めた。

女性がまだ12歳の7月…

梅雨がそろそろ明けようとしていたその日。

久しぶりに父親の仕事も休みとあって家族4人洋館でくつろいでいた。

母親の入れてくれる紅茶が大好きだった女性はおかわりをおねだりしていた。

「あら!ステビアがないわ」母親は紅茶に入れるハーブがないため庭に出てハーブを摘んでいた。

外は小雨が降っていた。

そこへ突然やってきた知らない男が母親にナイフを斬りつけた。

うずくまる母親。

私の悲鳴で駆け寄る父親と兄。

男ともみ合いになる父親と兄。

初めに兄が倒れた。

血がみえた。

それ以降の記憶がない。

目が覚めると病室だった。

女性以外は亡くなった。

犯人の男は強盗目的だったらしい。

女性は気を失い倒れてしまったところ騒ぎに気付いた近所の人によって助け出されたらしい。

女性は悔やんだ。

自分が紅茶のおかわりをしなければ母親は襲われなかったはずだ。

父親も兄も……

近所の親戚の家に引き取られた女性は毎日洋館に行って泣いていた。

見かねた親戚のものが洋館がいつまでもあるからいけないんだと、女性のことを考え洋館を取り壊した。

それからだ。

雨の降る日には洋館が見えると噂がたち始めたのは…

強盗殺人事件のあったいわくつきの洋館跡と噂が流れはじめすっかりホラースポットになってしまった。

女性は悲しかった。

他の人には見えるのに自分は見えないことに…

幻でも良いから洋館を見たい。両親、兄に逢いたい。

女性はその後もずっと洋館のあった場所の近くに住み雨の日は必ず足を運んだ。

しかしかれこれ40年以上経った今も見えないでいる。

今日も犬の散歩がてら洋館のあった場所に向かっていたとのこと。

私は一つ疑問に思い口に出して訊いてみた。

「どうして私が洋館を見たと思ったのですか?」

そう訊く私に女性は悲しそうに

「だって貴女とすれ違い時ステビアの香りがしたから」

私と女性は暫くの間、洋館跡に佇み私が体験した事実を女性に話していた。

女性は泣きながらステビアを摘んでいた。

どこからかオレンジペコの香りがしてきた。

怖い話投稿:ホラーテラー ナナさん  

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