中編5
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徘徊する女2

コツ コツ コツ‥!

段々と足音が近づいて来る。

俺「俺達以外、誰かここにいるのか?」

B「わかんねぇ。でも足音からすると一人だろ。一人でこんな所にこんな時間来るか?」

A「じゃあなんなんだよ。誰だよ?とりあえず懐中電灯消した方がよくねぇか。」

俺達は小声でそんなやりとりをして、その足音の主を確認する必要があった。

“それ”は手術室の前を今、歩いている。足音がすぐ側で聞こえ、遠ざかっていった。

通り過ぎたのだろう。

恐る恐る、俺達は覗き見た。

3人ともその姿を見て驚愕した。

女だった。

髪の長い女。

ナース服を着ている女だ。

月明かりに照らされてわかる。

俺達との距離は約6mくらいだろうか。

俺は直感的にヤバい、と悟った。

何がヤバいって、その女の身体だ。

両腕は変な方向に折れ曲がり、片足も明らかに骨折している様に、膝が反対側を向いて曲がっていて、まるでゾンビのような‥かなり不気味な歩き方をしていた。

よく見ると、衣服もボロボロだ。

そして手には、注射器が握られていたのだ。

なんでこの時間、この場所に?

あの身体は‥この女なんなんだ?

鳥肌がハンパじゃない。

その姿を見たAが「ヒッ‥」と小さく漏らし、それを聞いた俺は驚いて懐中電灯を落としてしまった。

ゴトンッ‥!

落下した音が廊下に響き渡る。

すると女はピタッと歩みを止め、ゆっくりとこちらに振り返った。

その顔はボコボコ‥というかグチャグチャで、なのに何故か目はらんらんと変な光を帯びて、大きくひんむいており、あまりの恐怖に俺達は凍りついた。

俺達と目が合うと、そいつはニヤーッと笑い目を細め、「アァァアァ‥」とうめきながら、俺達の方へ向かってきた。

「逃げろっっ!!」

誰が声を発したかわからないが、とにかく俺達は出口を目指して走った。

懐中電灯の光だけが頼りだが、この暗闇だ、出口がわからない。

完全に迷ってしまった。

後ろを見ると、女は走ろうとしているのか、曲がった足を引きずりながら追い掛けてくる。

‥捕まったら絶対にヤバいッ‥!

A「なんなんだよあれ!?なんだよあの注射器はよ!?」

俺「知るかよ!洒落になんねぇ‥とにかくここを出ないと‥!」

B「やべぇよ‥!大体あの顔‥生きてる人間の顔じゃねぇぞ!とにかく階段下りて、一階のロビーまで戻んねぇと!」

俺達の長い夜はこれからだった‥

俺達はとにかく走り、階段を下りて出口を目指した。

後ろを見ると女はいなかった。

あの足だ、うまくまけたか。

A「なぁ、こっちであってんのか!?間違えじゃ済まねぇぞ!?」

B「うるせぇな、わかってるよ!」

俺達は完全にパニック状態だった。

この状況じゃあ無理もないだろう。

だが、廊下の曲がり角を曲がったその時、懐中電灯に照らされ、女が佇んでいた。

「アァァアァ‥」

「うわぁあぁ!」

俺達は急ブレーキをかけ、慌てて反対方向へと走った。

なぜあそこにいたんだ!?

出口は恐らく、あの女の方向だ。

俺「畜生!どうすりゃいいんだ!このままじゃ捕まっちまうぞ!」

A「この先を走ったって出口から遠ざかるだけだ‥!こうなりゃあいつの横をすり抜けて行くしかねぇぞ。俺達の行く道全て塞いでくるだろうしな、キリねぇって!」

俺「絶対無理だろそんなん‥あれ‥Bは?おい、Bがいねぇぞ!?」

A「嘘だろ!?おいB!B!‥まさか‥さっきの曲がり角でコケたか何かして捕まったをじゃ‥」

俺「やべぇ!A、戻るぞ!」

俺とAは曲がり角まで急いで戻った。

走りっぱなしで息するのも辛い。

汗でシャツはぐっしょりだ。

戻り、廊下の先を照らすと、Bがあの女に引きずられていた。

暗闇に包まれた廊下の先へ、ゆっくり‥ゆっくりと。

Bをどこに連れてく気なんだ‥!

恐怖と走り疲れで、足がガクガク笑った。

A「おい、B!」

俺とAは恐怖心を何とか抑え、連れて行かせるか、とBの足を引っ張った。

すると女は、「アァァアァッ!」と叫びながら、俺達に威嚇した。

目は血走り、その顔の恐ろしい事‥!

A「畜生!てめぇ!Bをどこ連れてく気だ!離せこのクソ野郎!」

Aはそう怒鳴って震えながら、二人でBを力一杯引っ張る。

女もすごい力だ。

Bは気を失っているのか、ぐったりとし、身動き一つしなかった。

だが、何とか女の手からBを引き離す事ができ、Bを担ぎながら女の横をすり抜けられた。

女はすごい形相で再び追い掛けてきた。

早くここから出てぇ!

A「あったぞ、ロビーだ!その先に出口があるはずだ!」

最初の受付ロビーに着き、出口の玄関から急いで外に飛び出した。

だが、敷地の外に出るにはフェンスを乗り越えなければならなかった。

俺「くそ‥フェンスがあったんだ!B担いでどうやって上る!?」

後ろからは女が迫っていた。

ヤバい、絶体絶命だ。

このままじゃ奴に捕まる。

A「あそこ見ろ!フェンスの下破けてるぞ!あそこから出よう!」

俺とAはBをその穴から外へなんとか押し込み、俺達も急いで乗り越えた。

気づくと、女はフェンスの目の前だった。

相変わらずすごい形相だ。

「ギャッ」

ガシャンッ!、と女はすごい勢いでフェンスに激突し、「アァァアァ」と呻く。

とにかく俺達は急いで車に飛び乗り、キーを回した。

しかし

A「あれ‥?エンジンがかかんねぇ。なんでだ!?」

俺「冗談じゃねぇぞ!こんな時に勘弁してくれよ!」

A「分かってるよ!あせらすなよ‥あっ‥かかったぞ!」

ブルルン、とエンジンは勢いよくついた。

A「とにかく行くぞ。さすがにここまでは来れないだろうけど、早くここから離れてぇ‥。Bは大丈夫か?」

と言いながらAはライトを点けた。

すると、

ドンッ!

と車の上で大きな音がし、車が大きく揺れた。

俺「うぉっ‥!な‥なんだ!?」

俺は前を見ると驚愕した。

フロントガラスに、あの女が逆さになってへばり付いていた。

目は見開き、髪は乱れ、この世の光景だとは思えなかった。

‥気を失いそうだ。

「うわぁあ!」

Aは車を発信させ、女は車から落ちた。

見向きもせずに公道へ向かってとにかく車を走らせた。

俺達は憔悴しきっていた。

俺「もう‥大丈夫だよな?」

A「そう願いたいな。怪我ないか?」

俺「あぁ‥大丈夫。俺、幽霊初めて見ちまったよ。しかもBを掴んで引きずってたぞ?霊って半透明的なもんじゃねぇの?ありえんのか!?手足おかしかったし‥」

A「じーさんから聞いた話だけど‥怨恨や念が強すぎる霊ってのは、時に激しく襲ってくるらしい。それも具体的に。だから、Bを引きずるくらいの怨念の塊だったのかもな‥。」

俺はBにちらっと目をやると、ギクッとした。

Bの首筋には注射をした様な小さな傷があったから‥。

その後、Bは病院に搬送され、入院した。

何故か面会謝絶で、そしてBは病院の屋上から飛び降り自殺をしてしまったと、Aから聞かされた。

身体中の骨は砕き折れ、酷い死に方だったらしい。

Bは入院中、病室で、「足が痛い、腕が痛い、顔も焼けるように痛い」と、四六時中呻いてたんだと。

医師も首を捻るばかりで、原因不明な症状だったらしい。

俺は思った。

間違いなく、あの女の仕業だと。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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