中編4
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じーさんの手紙

俺は幼い頃から幽霊が見える。

見たいんじゃない、見えてしまう。

そのせいか驚きは全く無く、もう慣れっこだ。

幽霊にも色んな奴がいる。

様々な“想い”を断ち切れず、この街をさ迷っている奴‥

死んだ事すら気づかない、可哀相な奴‥

強い“感情”にとらわれ、特定の場所に縛りつけられている奴‥

復讐の機会を待ち、怨恨から関係のない人間を逆恨みし危害を加えてくる奴‥

本当に色々だ。

どっちにしろ幽霊なんて奴らはロクなもんじゃない。

幽霊になるなんて、周囲の人間や現世にとって良い事はない。

何より、幽霊本人、その家族にとっても。

成仏しないより、した方がいいに決まってる。

皆苦しいだけだ。

でも、幽霊にも色々ドラマ‥というかストーリーというか事情があるっていうのは事実な訳で。

まぁこれは、そんなお話。

俺は夜中、バイト帰りに気まぐれに公園に寄った。

夜風がほてった身体を優しく撫でる。

ベンチに座り、コーラをクッと飲み、明日の予定をあれこれ考えていると、正面のブランコにじいさんが座った。

恐らく、この世の者ではない。

ずいぶん複雑な表情だ。

じいさんをボーッと眺めていると、

爺「オイ、あんたわしが見えるのか!?見えるんだな!?」

爺さんはベンチに座り、俺の横にいた。

いつの間にブランコから移動した?

これだから幽霊って奴は‥

本人に驚かす意思が無かったとしても、普通ぶったまげるっての。

俺「あぁ、見えるよ。不本意だけどな」

爺「しかもわしが言ってる事もわかるんか!?そんな人を見つけたの初めてだ‥」

俺「どうでもいいけどよ、さっきみたくいきなり横に来るのやめてくれない?こえーから」

爺「あぁ‥すまん。嬉しくてつい‥。わしらは普段、無視される存在だからの」

俺「無視されて当たりめーだ。アンタら亡者はここにいるべき存在じゃない。だがアンタは自分が死に、自分が亡者だって事を自覚できてるからまだマシなんじゃねーか」

爺「確かにな‥ここにいちゃいけん事くらいわかっとる。だがまだ“やるべき事”がわしにはあるんだ。まだ死ねない」

俺「わりぃ、じーさん。やっぱさっきの撤回する。アンタ自分が何なのかわかってんのか?

亡霊なんだぞ。死ねない?“やるべき事”がある?アンタはもう死んでるし、“やるべき事”なんてねーだろう」

爺「わかっとる‥わかっとる。‥でもまだこだわりを捨てられない。心残りがあるんだ。聞いてくれないか。頼むから」

俺「‥未練たらたらだな。諦めの悪い男は嫌われんぞ。まぁ聞くよ。アンタのこだわりと心残り。逝けない理由を」

じーさんはこの辺りの屋敷に住んでおり、近所じゃ有名な呉服屋だったそうだ。

1年くらい前に病気で死んだらしい。

なんでもこのじーさんには息子がいて、昔息子を勘当したんだと。

じーさん家の家業を継ぐ、継がないっていう理由らしい。

息子が家を出ていってから20年、一度も会っていないという。

息子は今、都内で所帯を持ち暮らしているんだそうだ。

俺「それがアンタのこだわりと心残りか。‥呆れたな。死ぬ前に一度会っておきたかったってか?」

爺「なんとでも言え。一目逢いたいという事を否定すれば嘘になるが‥ただ‥謝りたいんだ。息子の希望も聞かず、無理やり家業を押し付けようとしたわしの愚かな行為を。

息子には母親がおらんくてな、わし一人で育ててきた。寂しい思いをさせていた上に、勘当もしちまった。失ってから初めて気づいたんだ。

悔やんでも悔やみきれんよ」

俺「ずいぶん自分勝手だな。まぁ今更悔やんだって後の祭りだろ。」

爺「何が怖いかって‥忘れられる事だ。それが一番恐ろしい。

息子に伝えたい事があるんだ。アンタ‥頼まれてくれんか?わしの家の机の引き出しに手紙が入っとる。わしの遺品の中にまだそれが必ずあるはずだから。息子への手紙だ。届けて欲しい。伝えて欲しい。息子の住んでる所も教えるから。頼む!」

俺「‥付き合ってらんねぇ。」

爺「いや‥アンタならやってくれる。そんな気がするんだ」

その後、おれはじーさんの手紙を息子さんに渡しに行った。

‥俺もお人好しだよほんと。

俺「ある人から頼まれて。まぁ読んでやって下さい」

息「これは‥親父から‥?なんで今更‥」

そう言うと息子さんは嗚咽を漏らしながら、大粒の涙を流してた。

息子さんは、じーさんが死んだ時九州におり、死に目に会えなかったそうだ。

伝えたい事があったそうだが、それを言えずにずっと悔やんでいたんだと。

めんどくせー親子だな。

でも、勘当してても二人は本当に親子なんだなって思った。

なんか似てるな、って。

手紙の内容を読むなんて野暮な真似はしてないが、なんとなくわかった。

息子さんが想っている事も。

しばらくしてから、あの公園へ行ったがじーさんは現れなかった。

礼もないのか、って思ったけど成仏できたんなら、それはそれで良かったのかね。

心地良い風が吹いた。

風に乗って、聞き間違いかもしれないが、あのハスキーな声が確かに俺には聞こえた。

「ありがとう」

怖い話投稿:ホラーテラー 京太郎さん  

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