中編5
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また逢える日まで

俺は幼い頃から幽霊が見える。

見たいんじゃない、見えてしまう。

そのせいか驚きは全く無く、もう慣れっこだ。

皆さんの中に、“憑かれて”しまった経験がある方はどのくらいいるだろうか?

自覚はなくても、何か気配を感じ、誰かに見つめられている様な経験はあるんではないだろうか。

“彼ら”はいつだってあなたの傍にいる。

ジッと息を潜め、あなたに気づいてもらえるチャンスを伺っている。

これはそんなお話。

3週間くらい前から、俺ん家には“同居人”がいる。

同居人と言っても、普通の人には見えないのだが。

子供の同居人だ。

年は大体、小学校低学年で男の子らしい。

実を言うと、そのガキは俺が拾ってきちまったらしいんだけど。

別に拾いたくて拾ってきた訳じゃない。

コンビニ帰りに、交差点の隅から視線を感じてフッと見てみると、そのガキと目があってしまい、そのまま勝手に家までついて来てめでたくテイクアウト、って訳。

まぁ俺は幽霊が見えてしまうせいか、昔からこういう事がしょっちゅうあったし、別に大した事も考えなかった。

幽霊ってのは大体が憑いたとしても自分の存在が気づかれない様だったら、自然と離れていくもんだ。

俺もこれまでは無視し続けてなんとかやり過ごしていた。

だからいつものように、そうやり過ごそうとしてたが‥今回はちょっと長すぎる。

最近のそのガキは台所の隅がお気に入りな様で、お袋が料理している所を、座って下からジッと眺めている。

そして時々食器を割ったり、TVを切ったり、妹の部屋を覗いたりしてイタズラをする。

家族は今日も何も知らずに普通に生活をしている。

俺はそんな光景を見て、深くため息をついた。

ガキの霊ってのは決まってタチが悪いのが相場だろう。

その夜中、家族が寝静まった後、俺は台所まで行きうずくまってるガキに話し掛けた。

ガキは相当驚いていた様子だった。

できれば話し掛けたくなんてなかったが、このガキが一向に出ていこうとしないのに我慢できなかったんだ。

ガ「兄ちゃん、僕の事わかるの?」

俺「まぁね。」

ガ「やっぱりだ。なんかそんな予感がしてついていったのに兄ちゃん無視するんだもん。やっぱり僕の事わかってたんじゃないか。」

俺「まぁ色々あんだよ。わりぃんだけど出てってくんないか?ここはオメーが本来いていい場所じゃない」

ガ「なんで?僕邪魔なの?」

俺「だからオメーみたいなのがいる所じゃねぇの。大体、なんで人ん家に勝手に上がり込んでんだコラ。それよりオメー、たまに妹の部屋覗いてんだろ。あれホントやめてくんねーかな。とにかくさっさと帰れ」

ガ「う‥だってちょっとキレーな人だったから。ごめんなさい‥。」

俺「10年早いんだよ。つかせめて自分ん家行きゃいいだろが」

ガ「僕、行く所ないんだよ。帰る所もないんだ」

俺「父ちゃんは?母ちゃんは?お前がこんな所にいるなんて知ったら泣くぞ?あの世に行ったと普通なら思うからな」

ガ「‥やっぱり僕‥死んじゃってたんだ‥ママやパパなんていないよ。ずっと一人だったから。どこにいるのかもわかんない。遠くにいるんだって」

俺「‥知らなかったのか?」

なんでも、そのガキは自分が死んだ事をよくわからずにさ迷ってたという。

ガキは死んでも理解できていない場合が多い。

こういうパターンが一番厄介。

こいつも案の定そうだった。

そしてガキには両親はおらず、見た事もないんだと。

街の児童施設で生活をしていたらしい。

俺「でもお前も薄々わかってたろ?」

ガ「うん‥もしかしたら僕幽霊になっちゃったんじゃないかって‥ちょっぴり思ってた」

俺「少なくともこの家じゃあ、俺以外にお前の事見えてる人間はいないからな。何で自分が死んだかわかってるか?」

ガ「なんとなくね。スーパーボールが転がっちゃって取りに行ったら、おっきな車にぶつかっちゃったんだと思う」

俺「そっか。とにかくな、お前はここにいちゃいけないんだ。わかるか?天国に行かなきゃいけないんだよ」

ガ「嫌だ嫌だ。もう少しここにいていいでしょ?

お兄ちゃんのママ優しそうだし、パパだって面白そうなおじちゃんだったし。

家族皆であったかいご飯食べててさ‥

それに僕、ホーム(施設の事)でも学校でもイジメられててお友達いなかったし、お兄ちゃん、僕と遊んでよ。

一人にしないで‥怖いよ。もう一人は嫌なんだ。天国なんか行きたくない」

俺「あのな、輪廻転生っての知ってるか?」

ガ「ううん。」

俺「まぁ簡単に言うとアレだ。人は死んであの世に行っても、また人してこの世に生まれ変われるって事。つまりだな、オメーはまた戻って来れるんだよ。赤ん坊からやり直しだけどな」

ガ「本当!?」

俺「まぁバァチャンの受け売りだけどな。俺もあの世に行った事もねーしわかんないけど、家族の言う事は信用できるもんだろう?バァチャンがそう言うんなら本当だと俺は思ってる」

ガ「僕はいつまた戻って来れるの?明日?」

俺「さぁなぁ。明日かもしんねーし、来年かもしんねーし。神様にしかわかんないな。」

ガ「もし戻ってきたらお兄ちゃん、僕のお友達になってくれる?」

俺「いいよ。バイクのケツ乗っけてやるよ。あと麻雀とかも教えてやる」

ガ「お兄ちゃん、僕の事忘れないでね」

俺「お前もな。だから少しの間、あっち側で休んでろ。向こうでも友達くらいできるさ。

お前は一人じゃない。俺は待ってるからな」

ガキはニコッと笑うと、スーッと消えていった。

そして後日、あのガキと逢った交差点に行くと、電柱にある看板にはこう書かれていた。

“平成〇年〇月〇日、この交差点で轢き逃げがありました。心当たりのある方は、ご連絡下さい。捜査にご協力お願いします。―警視庁―”

その下には花束とスーパーボールが添えてあった。

俺も花束を添えると、初老であろう婦人が声をかけてきた。

婦「この子のお知り合いですか?」

俺「まぁ‥顔見知り程度ですね」

婦「可哀相に‥未来があるのに。とてもいい子でしたのよ。私、近くで児童施設を経営してまして、その園長をやっている者です。

この子はいつも一人で壁にボール当てをして遊んでてねぇ。でもあの子ご両親も亡くなってらっしゃるから‥向こうで会えているのかもね」

俺「亡くなっている‥?」

婦「ええ。あの子がまだヨチヨチ歩きの頃に、ご両親は不慮の事故でね‥。

当然あの子は何も知らないし、ショックが大きいかもしれないから“パパやママは遠くに行っている”ってあの子には言ってあるの」

俺「‥そうですか。それじゃあアイツも一人じゃないですね。今頃家族でメシでも食ってるのかな」

アイツは、家族や友達のいない寂しさから俺に姿を見せて、俺ん家に居座っていたのかもしれない。

愛情を探して、さ迷っていたのだろう。

まだガキだったし、家族とかの愛情が1番必要な年頃だ、無理ないか。

―また逢えるかもしれない、友達の名前くらい聞いときゃ良かったと後悔した俺だった。

怖い話投稿:ホラーテラー 京太郎さん  

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