中編5
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かたり屋

こんな話をご存知だったりしませんか?

結末が無い怖い話。

たとえば「その後、彼女がどうなったか知る者は無い」とか…そんな締め括りを迎える話。

実はその手の話を専門にする人が存在するんだそうです。

名前は「かたり屋」と言います。

まぁあの彼は私にはそう言いました。

私が見かけたのは一週間くらい前でした。

いつものように最寄りの駅を降りて、やたら狭い飲み屋街があるんですが、その先には交通公園があり、更に交通公園と飲み屋街の間に小さな公園があるんです。

その公園は夜も昼間もホームレスが良くいて、あまり気にしたこともありませんが、まぁあまり入りたいとも思わないような場所です。

人と話すのにも飲み屋街に沿って走る電車がうるさくて不便だし、せいぜい他の目的があるとすれば、喫煙位でしょうか?

まぁとにかくパッとしない公園です。

その日、私は終電で帰って来て、一杯引っかけていたのでその公園に通り掛かったのは、だいたい2時半くらいだったように思います。

公園を見てみると、いつもは2〜3人はいるホームレスの姿は無く、私より5つ位年上、20代後半の男性が座っていました。

小綺麗なスーツを着こなした、まぁイケメンと言えるんだろう男性でした。

基本的にイケメン度(?)の評価が厳しい私はパッと見て、まぁそこそこ?くらいに思い、通りすぎようとしました。

すると彼は

「そこのお嬢ちゃん」

と、声をかけていたので、『なんだ、かわい子ちゃんでも探してたのか』と思い歩いていこうとしたら

「そこの髪の毛を夜会巻きにしてる君」

と言われて初めて自分の事だとわかりました。よく見たら周りに人なんていませんでしたし。

お酒を呑んでいましたし、若干気分が良かったので、公園の中に入って、どうかしましたかと尋ねると

「ちょっと待ってて」

と言って、私をベンチに座らせるとジュースとお茶を買ってきて、どちらが良いか聞いて来たのでお茶を指差すと、そのお茶をくれました。

コンビニで買ってきたのでしょうが私は少し警戒心が強い方なので、フタを開けただけで、口にすることはありませんでしたが…。すると、彼は急に話し出しました。

「僕は『かたり屋』と言います。ひらがなでかたり、やは屋号の屋。何故かと言うとある日は根も葉も無い嘘を『騙り』、またある日は誰も知り得ない真実を『語る』…まぁ言わば噂をばら撒く人なんだけど」

私はヤバイのに捕まっちゃったかなと思い、立ち上がろうとしました。

「まだ話の途中だよ。お行儀悪いなぁ、君は」

そんな事を言われてしまったので、仕方なく途中まで上がった腰をもう一度ベンチに下ろしました。

それからも彼の話は続きました。要点をかい摘まんで書きますと

・これからある話をする

・それは嘘か本当かわからない

・しかし、ネットの投稿板(奇妙もそうですね)や新聞や雑誌、その他文章として残ってしまうような媒体には決して載せてはならない

・ただし、口伝なら良しとする

・口伝する際には先程したように、文章として残してはならないことをちゃんと伝える

・最後に話が終わったら、渡した飲み物を『嘘』『本当』で答えられる条件を付けて飲んでもらう

ということでした。なのでしょうがなく、話を聞きました。

正直とても此処に書きたいくらい怖い話だったんですが、先程の約束で書いてはいけないので話の部分は割愛させていただきます。

しかし、びっくりしたのはこの後でした。

話が終わって感想を言おうかなぁと思った時、

「では、そのお茶の『嘘』『本当』付けてもらいましょうか? 実は僕としては話よりこちらの方が『かたり屋』の真骨頂でして…」

『かたり屋』はそう言いました。でもイマイチどういう意味かわかりません。だからオススメは?と尋ねると

「なら、オススメしないものをあげておきましょうか? 生死に関わるものと怪我をするもの、あと何かがなくなる、現れるなんかもよろしくないですね。まぁ、それは飲んでみてからのお楽しみでもありますが…」

やっぱりよくわからないなぁと思いましたが、まぁこのお茶を飲んで本当だったら良いなぁと思うことを条件にしようと思いました。まぁずっと外にいましたし初夏とは言え、蒸し暑かったですから、当然温くはなっていたんですが

「このお茶が気持ちいいくらいに冷えてたら『本当』。もし温かったら『嘘』…っていうのはどうですか?」

そう尋ねたところ

「うん、今までで1番平和で可愛い『嘘』『本当』だね。それなら心配いらないよ。飲んでごらんよ?」

そういうので、ちょっとドキドキしながら飲んでみたところ、持っている手も口を付けた瞬間に冷たくなったのを感じました。

凄く飲み頃な冷たさのお茶に、急に変わったんですよ。私が何をしたんですか、と尋ねたら

「良かったね〜。今日の話は『本当』だ。君はツイてる」

そう彼が言いました。そして、彼にこう尋ねました。

「今日聞いた話は書いちゃ駄目でも、あなたの事を書いても良いでしょう?」

と聞いたら

「うん。ただし、最初に言ったくだりをちゃんと書いてくれるかい? 僕の名前は『かたり屋』。嘘を『騙る』時は『騙』すって言う字。真実を『語る』時は国語の『語』だからね。間違えたら承知しないよ。ちなみに今日は国語の『語』の方が出来たみたいだ」

自己主張の強いタイプだったので、嫌でも覚えましたし、この一週間と言う時間も実は『かたり屋』が別の場所に移動が完了するのに必要な時間なんですって。

もしかしたら酔っ払って夢でも見てたんじゃないかと思いましたが、帰り道の記憶もしっかりあるし、何より…持っていたんですよ。

お茶のペットボトル。

中身は無かったけど、記念に持って帰って来てたみたいでした。

まぁもし彼と会ったらごひいきにしてやってください。

もしかしたら物凄いお話を聞けるかも知れませんよ…?

怖い話投稿:ホラーテラー こてつさん  

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