中編3
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引っ張って引っ掻いて

文才も無い上に長いですが、ただありのままを知ってもらいたく投稿します。

一昨年の正月、父が倒れた。

正月特番を見ていた私の後ろで。

母と兄は「初売り」に行っている。タイミング最悪。

一瞬の空白、我に返り駆け寄るも焦って何をしたらいいのかわからない。

父の体に触れると、まるで鉄を触ったかのようにヒンヤリしていてさらに焦る。

炬燵布団を無理矢理引っこ抜き父に被せた。

布団と父の間に手を突っ込みひたすらさすった。

こんな苦しそうな父を初めて見る。それが私の焦りを加速させる。

「どこが痛いの!? 胸!? 頭!?」

やっとの事で掛けた言葉もシドロモドロだったが、父は声にならない声で言った。

「ぁ、、、、し」

「足?足なの!?もしかして、ツっただけとか!?」

そんなことを考えたが、あり得ないほどの苦しみ方と、嘘みたいな体の冷たさからそれを否定した。

そこでやっと母に電話するという所に考えが至った。(遅いよ、私)

ひとまず父から離れ携帯を探す。(固定電話はすぐそこだよ、私)

携帯探し出し、母に電話。

私より焦る母。(間違いなく母さんの子だよ、私)

左手の携帯で状況説明しながら、父の傍に戻り右手で体をさすった。

「ぁ、、し、、、ち、、ぎ、られ、、る、、」声にならない声で父が呻く。

「あ〜もぅ、ちぎれるくらい苦しいのは分かってるけど、説明してるんだから、少しだけ静かにしてよ!!」

そんなことを思った瞬間、私の右手に父以外の“何か”が触れた。

「え?何これ?、、、、、、、ゆ、、指?」

焦りが膨れ上がっていく。

焦りに押し潰されそうになりながらも頭はいつも以上に回る。

「さっきの父さんの言葉。『ちぎれる』じゃなくて『ちぎ“ら”れる』?何に?誰に?」

瞬間、右手にかかる凄い圧と走る痛み。すぐに右手を引き抜く。

何が起こったのか分からない。

ただ、怖い。

布団をひっくり返す度胸なんか無い。でも父は苦しむばかりで。

「どうしよう、、、、、」

泣きそうになりながら考えてもする事は一つしか思いつかなかったなかった。

私は震える手を必死に押さえながら、布団に手を突っ込んだ。

自室のベッドの上、兄からの電話で目を覚ました。

「起きたか?」

「うん、、、、、、、どしたの?」

「“どしたの?”じゃねーよ。今からヒロ(兄の婚約者)がお前拾って病院来るらしいから、準備しとけよ。」

「わかった。」

電話を切った瞬間、昨日の光景がフラッシュバックした。

咄嗟に右手を見る。

手の甲と親指の付け根に三ヶ所、柔らかいかさぶたがあり、触るとまだ痛かった。

昨日の恐怖を思い出し震えた。しかし、父がどーなったのか?私はなぜベッドで寝てるのか?記憶が途中から欠落している。

ベッドから降り居間に向かうと、『昨日あったことは嘘ではないとよ』と言うように、ぐしゃぐしゃの炬燵布団がそこにいた。

炬燵布団を片づける気にはなれず、洗面台に向かった。

顔を洗うとき、傷口に水が染みて痛かった。

恐怖と痛みが連動することが、一番の苦痛だった。

歯を磨き終えたくらいにチャイムが鳴った。

安堵感から、ダッシュで玄関まで行き、ドアを開けるやいなや、ヒロさんに抱きついた。

ヒロさんは本当に自分によくしてくれた。姉が嫁いで東京に行ってしまってからは、本当の姉のように接してくれた。

「おはようさん。外寒いから何か羽織って来な!」

気さくなヒロさんが大好きだった。

「スエット上下にPコートはないでしょー。」と笑われながらも「いーんだよ!」と一蹴して家を出た。

ヒロさんの運転で病院まで行った。

大好きなヒロさんが来てくれて本当に良かったと思った。

「右手、どーした?」

はっとなり、表情がくぐもっていくのが自分でもわかった。

「昨日の夜、ちょっとね。」

「昨日のドタドタの時にどっかで引っ掻いたか?」

「うん、まぁそんなとこ。てかさ、父さんどーなったの?」

急いで話をすり替えた。

「あ〜、マコちゃん(←兄)に大まかに聞いたけど、命に関わるような感じではなかったみたい。じゃないと、こんなにのんびり迎えにいかないって。」

父が大丈夫だと知って安心したけど、心のわだかまりは募る一方で、病院に着いたら皆に話を聞こうと決心した。

怖い話投稿:ホラーテラー こーださん

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