海の奥深く、生物など全く存在しないほどの深くに、牢獄があった。
そこには、大罪を犯した人魚が捕らわれていた。
人魚が犯した大罪は、“人間を愛するべからず”。
人魚が愛したのは、全ての人間だった。人間の誰かではなく、全ての人間を愛していた。
それ故に罪は重く、日の光を見ることも、自由に泳ぎ回ることも、そして人間を見ることも、もう叶わないと決まっていた。
人魚は毎日涙したが、その涙も海に溶け、流れることは許されない。
そんな時、人魚の前に老婆が現れた。
老婆は言った。
「人間に会いたいかい?ならば歌うがいい。おまえの美しい歌声を海の外まで届けて、人間を連れてきてやろう」
その日から、人魚は毎日のように歌い、そのたびに老婆は人間を連れて現れた。
ある時は少年、ある時は赤ん坊、ある時は女性。
もう二度と目にすることは出来ないと思っていた人間たち。愛する人間たち。
人魚は喜び、今日も歌う。
愛する人間に会うために。
深く暗い海の底から。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話