長編8
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○○県G町 廃ビル

2000年、夏

自動車の免許を取りたてだった僕らはその日かなり調子に乗っていた。

ようやく車も手に入れた喜びに僕らはいつものメンバーを集めドライブに行く事にした。

僕を含めA君、B君、C君の四人を乗せた車は別にそう遠くに行く訳でも無く、近場をグルグルと走っていたのだが、とうとうしびれを切らしたのかBが

『おい、行く当てもなく走ってないでどっか目的地決めて走ろうぜ!』と言い出した。

最初は運転そのものが楽しかったのだが、Bの言う事も確かだ。

皆、Bの意見に乗った。

しかし急に目的地を決めるといってもすぐにいい案は出ず暑かったのもあって、結局コンビニに行き、立ち読みを始めた

マンガやファッション雑誌、エロ本・・・

当時立ち読みが容易にできた為、皆おのおの好きな本を読んでいたのだが

Aが

『おい!おもしろいもんあったぞ』

そういうとキモい表紙の本を持って来た。

全国心霊スポットガイドという本(仮)だった。

『おーー!いいじゃん!

そーゆーの待ってたんだよね!!』

隣で何・故・か!

じゃ○んを見ていたCを横目にBが目を輝かす

さっそく皆でその本を見てみると都合よく近場の心霊スポットがいくつか載っていた。

オーナーが不慮の死を遂げ廃館となった○○県G町

ここからそう距離もなく、掲載されていた怪しげな雰囲気の写真がまだ、恐れを知らなかった僕らの興味を引き立てた・・・

『よし、今からここで肝試し決定な!』

ビビるCを乗せて僕らは

車を走らせるのだった。

なれない運転で車を走らせること1時間。

途中細い道もあったが、なんとか迷わず目的地のG町廃館に着いた。

まだそんなに夜も更けてはいなかったが辺りは暗く、街頭もまばらだった。

正直その雰囲気に呑まれびびり始めた自分がいた。

B『お!先客か?』

そういったBの視線の先には一台の車。

辺りにはこれといった施設はなく、まず間違いなくここを目的とした者の車の可能性が大だった。

C『よかった〜俺らだけだったらどうしようと思ったよ』

A『なんで?他の奴いたら雰囲気台なしじゃん!

それに俺らだけで肝試しに行くのに他の知らん奴らなんて要るか?』

Cはしばらく間を空けてから『俺一人で車の番しなくて済むやん・・・』とぼそっとつぶやく

(・・・Cはいかないつもりでいるらしい・・・)

B『ま、先客は仕方ない。しばらく待って奴ら出て来てから行こうぜ』

そういうと車のエンジンを切りしばらく静かに先客の出て来るのを待った。

いっこうに人が出てくる気配のないまま30分くらいたったか。

『もう行こうぜ』

皆そう思っていたのか、すぐに車から出て廃館にむかって歩き始めた。

Aに後を押されながらCも向かう。

そして正面口に着いた。

『ガンガン』

・・・

当然だが扉にはカギが掛かっていて入れない。

俺『どうする?入れないみたいだし帰る?』

Cみたいな事を言った俺に蹴りが入る。

裏口に回ってどっか入れる場所探そうという話になり草が生い茂る道をかき分けるとBが立ち止まった。

俺も内心ぎょっとした。

B『やべぇ、見ろよ、下に行く階段がある。』

C『も、もうやめようぜ』

俺も同意見だったがAに火がついてしまったらしく

A『地下!?』

最後尾にいたAはずんずんと地下階段に近づいていく。

俺とCはすでにガクブルしている。

こんな訳の分からない廃館に足を踏み入れる実感が興味から恐怖に変わったからだ

A『誰から行く?』

Aの手はグーに握られている。

これは恐怖からの握り拳ではなく、じゃんけんで順番を決めようというグーだというのはいうまでもない。

Bもそれを察したのか握り拳を前に出す。

A『出さなきゃ負けよ、じゃんけん・・・』

・・・もう行くしかないと観念したのかシブシブじゃんけんをする。(ほんとはCがぐだついていたが長くなるので・・・)

長いあいこの末入る順番が決まった。

先頭からC(悲惨)

続いてA→B→俺の順番で決定した。

一番前のCには同情したが一番後ろの俺もなかなか辛いものがあったがそれでも皆、一列になり暗い地下階段を降りて行った・・・

突然決まった肝試しって事もあって明かりになるのは車の中にあった懐中電灯が一本。あとは携帯のカメラの時に使うライトのみだった。

階段を降りきると一人ずつしか入れそうもない鉄の扉があった

そこも正面口同様かたく閉ざされていてビクともしない。

が、扉のすぐ脇にあった窓が割られており、中へ続いていた・・・。

B『!!

先客のやつらはここから入ったんだな。なかなか大胆ね!』

(まったく、迷惑な事してくれる。)そう思いつつも皆入って行くのでしぶしぶ後を追う。

てか懐中電灯なしではひきかえそうにも帰れないのが現状だ。

そしてとうとう中に入ってしまった。

中は厨房のようだった。

特に何かあるという訳ではなかったが部屋の作りや換気扇、キッチンがある事からそう思った。

A『血の付いた包丁とかあったりしてな・・・』

またろくでもない事を言う・・・

Cはその度足を止めては俺らの進行を妨げた。

一通りまわったが、結局地下には厨房と社員更衣室があるだけだった。

そしてまた階段。

今度は上に行く階段だ・・・

何事も無く地下を回ったせいか恐怖心は薄れ、余談を交えながらその階段を登った。

なんの違和感もなく・・・

2階、厳密に言うと1階にあがって来た。

正面口からはうっすらと外の光がはいって来ている。

帰り道の確保がとれたのもあってか恐怖心はすっかり消え、あのCまでもが周りをキョロキョロと見回している。

A『んだよ、心霊どころか物音ひとつしないじゃん』

ちょっと残念そうなA

B『所詮こんなもんか』

興を削がれた様にBがぼやく。

内心俺も安堵していた。

C『一階も特になにもなさそうだね。ささっと上の階まで行って帰ろうよ』

一階は正面玄関やカウンター、あとは似たような個室が並んでいるだけだった。

特に霊的な事がある訳でもなく、正直過去に忍び込んだ学校の方がはるかに怖かった。

B『さ、次行くぞ!』

さくさく奥へと進んで行く。

『ピーッ』

突然電子音が鳴り皆ビクッとする。

俺の携帯の充電音だ。

C『んだよぉ、ビクッたぁ〜、どうした?』

見ると充電の残りが僅かでカメラモードが使えなくなっている。

俺『やべー、俺の携帯終わる×』

『ピーッ』

あ、俺もヤバい!

Bの携帯もだ。

さすがに二人同時に充電が切れると心細さを感じたかAが

『やべぇじゃん。これで俺の携帯も充電切れたらまずくね?なんかあった時困るからライト切るな。』

そういうとそそくさと携帯をしまってしまった。

(こいつ世渡り上手・・・)

B『おい!オメーだけなんかずるくね?なんかあったら一人で逃げんなよ』

A『・・・

んだよそれ。』

空気が変な方に流れているのを察知してCと俺とでなだめ、なんとかその場を収めた。

それからしばらく一階を歩き周った。

だが何故か階段が見つからない。

館自体、そんな広い訳ではないのに何故か上に行く階段が見当たらないのだ。

C『階段無いね。』

AもBも答えない。

さっきの件でへそを曲げてる様だ。

俺『もー雰囲気悪いし帰る?』

ちょっと疲れたので不意にそんな事を言ってしまった。

A『チッ、だな、怖くもなんともねーし帰るか』

B『・・・』

『ほんとはビビってるくせによ・・・』

ボソッとBがつぶやく

A『上等だ、じゃあ俺が一人で階段見つけて来てやるよ!』

そう言うとAは一人でツカツカと行ってしまった。

俺達はその場で立ち尽くしていた。

というのも懐中電灯も持たずにAがそんな遠くに行ける訳がないと皆、そう思っていたからでの待ちだった。

ここで俺らが動いたらAとはぐれる事になってしまうからだ。

しばらくすると予想通りAが帰ってきた。

見るとAは泣いていた。

A『階段?見つけたンだけどォ、ウゥッ・・・』

B『けどなんだよ?

てかお前泣いてんの?プッださっ』

俺も正直笑いそうになったが気の強いAが泣いている所は初めて見た。

C『何?何?』

懐中電灯をAの方に向けたCがテンパっている。

B『だからなんだってんだよ!テメェら・・・』

?!!

Bも気づいた様だ。

A『階段っ階段みつけたんっだけど・・・誰かが降りてきて・・・グッ』

『つヒて来んだぁああー』

皆本気で走った。

やみくもに、ひたすら。

最初は俺も先客の奴らかと思ったんだ。

だけど違った!

あの時・・・Cが懐中電灯で照らした時に俺達が見たのは

Aの背後にピッタリとひっついている

顔がない黒い女だったのだから!!!

まるでバーナーかなんかで焼かれたように黒ずんだ人間?が追いかけて来る

『うわぁ!!く、来るなA!!!』

『ヒタヒタ、ヒタヒタ』

まるで歩くかのように走って来るそれとA。

俺はとっさに窓を空け窓から外へ飛び出した

『ダンッ!』

足に衝撃が走る!

一階だと思っていたのにそこは二階だったのだ。

何故?!

でもどうでもよかった。

他の三人の無事が気になったがとにかく俺走った。

『あ゛ーーーー』

多分Aの叫び声がする。

Aごめん、俺は車まで走った。

車まで着くと車に乗り、エンジンをかけた。

残った三人が帰ってくるのを待ったが、あいつ、もしくわAが見えたらすぐに出そうと思った。

とにかくAはもう駄目だと思った。

B、Cが走って来るのが見えた。

BとCが車に乗り、口を揃えて言った。

『あいつはもう駄目だ!』『とにかくここから逃げよう』・・・と。

車内ではCの携帯が鳴っている。

耳を塞ぎたい気分だった。しばらく走った所の路肩に車を止め、三人で泣いた。

友達を裏切った事の後悔があったのは確かだ。

でもそれより大きかったのは恐怖。はるかに恐怖の方だった。

それもそうだ。

俺達はいる事を確認してしまったのだから・・・

それと同時にまた″あれ″がいつ襲って来るか。来ないのか。もしくわもう憑いているのか・・・

ひたすら怯えながら泣いた。

Aとはあの日以来あっていない・・・。

BとCとも連絡を取らなくなった。

皆仕事や結婚などを理由に遠くへ越したがバラバラになった。

痛かっただろうがしかたがない。それ相応の事をしたのだから・・・。

最後は俺か・・・

もうどうなってもいいが、せめてアレは見ずにいきたい・・・

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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