中編7
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Yowll Shard City 1st

PM 12:00

ヨウルシャード警察署

ベン捜査官はただでさえ強面の顔をさらにしかめて廊下を早歩きしている。

病院から脱走したエリック。彼はまだ見つかっていない。感染者のエリックが町中を彷徨けばさらに病の感染者が増え、最悪町自体が壊滅してしまう。

そんな事を考えると、笑顔など作っている暇や余裕などあるはずもない。

力強く会議室のドアを開けた…

会議室の中にはE.S.U.(緊急対応部隊)の姿があった。

「待たせて悪かった。

…では、早速始める。

病院から姿を消したエリック・デイリーズについてだ。彼が病院から姿を消したのは今から約40分前。病院備え付けの防犯カメラの映像からわかった事だ。エリックは重大な感染性の疾病を抱えている。

君達、E.S.U.の任務はエリックの身柄を拘束、保護すること。万一を考え、実弾入りの武器の携帯は許可したが、極力安全な方法で彼を保護してくれ。

作戦開始は1215時。コードネームはラピットスワロー。以上!」

ベン捜査官のこの声を期に隊員逹は素早く席を立ち、会議室を出ていった。

PM 13:05

Yowll Shard Central St. (ヨウルシャード中央駅)

エリックは、吐き気をこらえながら必死になって歩いていた。彼の腹部は異常なまでに膨れ上がっており、それは同時に彼に死が迫っている事を意味した。

死を迎える前に自分がしなくてはいけない事…

この病原をできる限り町から、人から遠ざける事。

エリックは現役の医者。自分の体がどうなっているのかを身をもって知っていた…

このウィルスは人の臓器を喰い尽くす。

そして、その養分を元に自己を確立し、やがて宿主を破壊し、離れる。

エリックが感染してからこの数週間の間に出した答え…

駅のホームに列車が到着した。エリックは客席には乗らずに、貨物室に乗り込んだ。もちろん、切符はちゃんと買っていた。

「…くそ。何でこんなことに。」

エリックは涙を浮かべ、赤褐色に変色した拳を強く握った。

PM 13:30

ヨウルシャード警察署

バイルとレジダブの2人が聴取を終えて、病院から戻ってきた。

2人とも険しい表情のまま、署長室を目指して歩く。

コン、コン…

「…入りたまえ。」

「署長、何で黙っていたんですか!?」

「バイルにレジダブか。

なんだ?ぶっきらぼうに…何の話をしてるんだ?」

「あのエリックとかいう男の病気の話です。正確にはウィルスType6について…」

「バイル、Type6をどこで知った!?」

署長の顔つきが急に険しくなった。

「いや署長、知ったも何もこりゃ俺達が勝手に考えた名前なんすけど。」

「レジダブ、頼むから黙っててくれ。」

「何で?」

「いいから、頼む。

……署長、さっきの慌てよう、何かあるんですね?」

「……………ふぅ。まあいい。どうせいずれは知ることになるだろうし、第一に感染者が2人も町中に入り込んだ時点でこの町は壊滅必至だしな…」

「感染者が2人!?

じゃあ、やはりあの川の畔の死体は…」

「ジュリア・コートニー。エリックと同じ、ハインデイル総合病院の医者だ…」

「どちらもハインデイルから来たのなら、ハインデイルは今どんな状況になっているんです!?」

「どうもなっとらん。人々も普通に暮らしている。」

「感染性の病気じゃないんですか?」

「あのウィルスは、ある一定以上の気温と湿度の元でしか生存できんらしい。

つまり、ハインデイルにウィルスが蔓延していたとしても、この時期にハインデイルでのウィルス被害は無い。」

「じゃあ、なぜ、あの2人は?」

「……始まりは1人の男。

Dr.メイスンから聞いただろ?あの2人は、その保菌者の専属医だったんだ。

病室の温度と湿度が丁度ウィルスの繁殖に適していたんだろうな。一度発病したら最後…どんな場所へ行こうとウィルスが死ぬことはない。」

「それじゃ、さっき病院にいたあの患者逹は…」

「残念だが、彼等は助からん。」

レジダブが口を挟む。

「あ、署長。メイスン医師が発症の条件があるとか言ってたんですが、温度と湿度以外にも条件があるんすよね?じゃなけりゃ、俺とバイルだってもう発症してておかしくない訳でしょ?」

「そうだ。それが何なのかはまだ分からん。だが、あれだけの住民が発病した。きっと発病の温度と湿度以外の条件は我々の日常生活の中に身近にあるものだろう。」

一瞬の沈黙、その後でバイルが再び口を開く…

「…で、これからどうするんですか?」

「とりあえず、保健局に応援を依頼した。それから、エリックの消息は今E.S.U.が捜査している…」

「わかりました。

それじゃ、失礼します…」

「2人とも…気を付けろ。

感染したら最後だ。それから今私が話したことは絶対に他言するなよ。」

署長に強く念押しされ、2人は署長室を後にした。

PM 13:45

ヨウルシャードから東へ30km地点

大陸横断鉄道 2025号

「E.S.U.アルファ1からオールユニット。目撃情報からターゲットの現在位置を割り出した。ターゲットは現在東へ向かって走行中の列車内に居る模様。全ユニットはヨウルシャード東を走るエスペンザ鉄道2025号へ急行せよ。」

空中を旋回するチョッパーからの無線に町中にいた全ユニットが動く。

……E.S.U.の各部隊が列車に迫る中、エリックは貨物室の中で息絶えようとしていた。

目の前は真っ赤に曇り、心臓は激しく脈を打ち、今にも消えそうな意識…

膨れ上がった腹部からは血が吹き出している。

手足の指がボロボロと落ちていく。

ストレスが精神的な限界を越え、エリックは荷物だらけの貨物室で笑った…

「アーハハハッ!崩れてる…、ヒヒッ、俺の体が、噴水みたいだ〜!目、目が外れた〜、……痛い?ううん、痛くないよ!アーハハハッ………」

…バシュンッ!!

まるで車のタイヤがパンクしたかの様な音を立てて、エリックの腹部は砕け散った。そして、ドロドロになって形を留めていない彼の臓器が貨物室内に散乱した。

………E.S.U.のチョッパーがエリックを乗せた列車に追い付く。

「こちらアルファ1、目標を視認。機外スピーカーを使って停止を呼び掛ける。」

チョッパーは大きく弧を描くように旋回すると列車の機関車の真横に付いた。

「エスペンザ鉄道2025号、こちらはY.S.P.D.緊急対応部隊だ。その列車に手配人物が乗り込んでいるとの情報を承けている。直ちに列車を停止させなさい。」

この呼び掛けに、列車は甲高いブレーキ音を響かせ停車する。

それを見届けたチョッパーも近くの草むらに着陸した。チョッパーの後部ドアが開き、物々しい装備を身につけた隊員達が列車に乗り込む。

この突然の出来事に、客席からは悲鳴が挙がった。

「皆さん、落ち着いて下さい!我々は警察です!座席を離れずにじっとしていてください!!」

客はしばらくざわついた後、すぐに静かになった。

と、同時に自動車の部隊も列車に辿り着く。

そして、総勢20人弱の隊員達が列車の中をエリック探して歩き回った。

だが、客席にエリックの姿が見当たらなかった。

隊員逹は列車後部の貨物室に向かう。

貨物室の扉が開けられ、エリックの無惨な遺体が隊員達の視界に入った。

「……これは。酷いな、

一体何があったんだ。」

「とにかく、ベン捜査官に連絡しよう。」

隊員達が遺体を収容しようとした時、黒塗りのブラックホークが突然上空に現れた。

そして、特殊装備で身を固めた謎の部隊がロープ降下してきた。

「なんだ、お前逹は!?」

「我々は、国防総省から派遣された部隊だ。悪いがこの遺体は我々が引き取らせてもらう。」

「何!?勝手な事を…」

「この件はもう君達では手に負えないレベルまできている、ということだ。」

「だからといって、はいそうですか。と引き渡す訳がないだろ!?ここは俺達の管轄エリアだ。」

「ならば力ずくで君達にどいてもらうしかないな。

我々は国家から作戦の邪魔をする者は全て排除せよと命を受けている。」

「…っつ、ふざけやがって!!」

E.S.U.の隊員が銃を構えた。そして、謎の部隊も彼等に対して銃を構えた。

上空のブラックホークは備え付けの機関砲で彼等を狙う。

しばらく膠着状態が続いた。

…と、E.S.U.隊員の無線が鳴った。ベン捜査官からの無線だった。

「E.S.U.全隊員に告ぐ、コード、ラピットスワローは中止。繰り返す、作戦は中止。遺体は国防総省から来た部隊に引き渡し、すぐに帰還せよ。」

隊員達の表情が一気に険しくなった。

怖い話投稿:ホラーテラー ジョーイ・トリビアーニさん  

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