中編3
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視線

仕事で疲れて帰った時の事

丸ノ内線に乗って帰途に付き、途中の駅で乗り換えるためJRのホームに出た。

夜10時なのに混雑していて、電車がまだ来る前から入口毎に列が出来ていた。

とりあえず、その列の一つへ並んで携帯を弄ってきたら、突然気配を感じて顔を上げた。

冷や汗が出た。

自分の並んでる隣りの列、しかも前方の方で、30歳前後の女性が体勢をこちら向きにして、カッと目を見開いてこちらを凝視していた。

周りもそれに気付いているようで、3、4人がチラチラと女性のほうを横目で見ていたが、女性はまったく動じずに自分のほうを凝視していた。

どう見ても20年位前の服装センスで、まともに化粧もせず髪も所々ぼさぼさ。

カバンとかは持っていなかったが、手や首が痩せこけてて不健康そうだった。

完全に向こうの世界へ行っちゃった人特有の、生気がなく視線を動かさない目付きなのが余計に不気味だった。

正直、仕事で疲れてどうでもよくなってたんで、

(うわー…やばい奴だな無視してよう)と気にしながらも、

無視して携帯を弄ってニュースとか見続けた。

視野の端の方でたまに確認したが、電車が来るまでずっとこちらのほうを向いていたようだった。

やがて電車が到着。

疲れていたので特に逃げもせず、電車に乗り込んだ。

知らないふりをして、さっきの女性の行方を確かめたら、自分の乗ったドアの隣ドアから乗り込んで、また仁王立ちになってこっちを凝視していた。

間に多くの乗客が居たし、比較的混んでいたから恐怖感は薄かったが、気持ち悪い事に変わりなかった。

15分後、今度は私鉄に乗り換えるために、電車を降りた。

降りたホーム目の前にあった階段を下りて連絡通路を歩き、すぐまた私鉄のホームまで階段を上った。

階段を上りきったら、既に電車が来ていたのですぐ乗ろうとした時に気がついた。

さっきの女性がまだ居た…。

私鉄の電車へ乗ると、JRよりは車両が空いていたが、それでも座れなかった。

自分はドア脇の手すりに寄りかかったが、さっきの女性も隣りドアから乗り込んで来て、

自分と数メートル間を開けて向かい合わせの体勢で仁王立ち。

また目をカッと開いてこちらを凝視していた。

座席に座ってるおばさんとか数名が、何事かと思ってチラチラ見ていたが、見ているだけで特に何かしているわけでもないし

厄介事には関わらないのが普通の反応だから、誰もそれ以上の干渉はしてこなかった。

さすがに恐怖感に襲われて、自分は体勢を変えて反対の手すりに寄りかかった。

たまに携帯を見てるふりして液晶画面で反射させて確認したら、像がぼやけてはっきり見えなかったが、まだこちらを向いているようだった。

10分ほどで最寄り駅で降りた。

すると女性も同じ駅で降りる姿が見えた。

ホームから階段を下りて改札階について曲がった時、階段を女性が下りてくるのを横目でとらえた。

さすがに精神的な限界を感じて、改札まで走った。

自動改札に定期を当てて、急いで改札から出て駅出口まで更に走った。

怖くて後ろは見なかった。

駅を出ると商店街と逆方向のため、すぐ人通りが少ない住宅街になっている。

自宅マンションまで全力で走った。

家まで徒歩なら普段は5分程度だが、その時だけは1分少々で着いた気がする。

オートロックの扉を開けて、エレベータに急いで乗り込み、自室の扉を大慌てで開け、

普段は鍵だけかける所だが防犯チェーンも掛け、リビングのソファーに座り込んだまま、恐怖感で体をしばらく硬直させていた。

その後、例の女性は見掛けなくなったが、心理的なプレッシャーは当分続いた。

自宅マンションの位置を極力知られないように、出勤の時も、帰るときも、周囲を警戒しながらコソコソと意図的に回り道などをした。

今でも夜道では背後を異常に警戒してしまうが、あれは一体何だったのだろう…。

怖い話投稿:ホラーテラー なますてさん  

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