中編3
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かごめかごめ

かごめかごめ

籠の中の鳥は

いついつ出やる 

夜明けの晩に

鶴と亀が滑った

後ろの正面だあれ?

元亀2年9月12日。

この世に地獄がもたらされた。

伝教大師最澄により開山された比叡山延暦寺。

桓武帝の時代より続く天台宗の総本山にして一向宗たちの象徴。

その焼き打ちが織田信長により行われたのだ。

前日9月11日の夜半より、比叡山の包囲作戦が行われる。

「囲め、囲めい!」

柴田勝家、佐久間信盛、木下藤吉郎、丹羽長秀……

織田家でも屈指の武将たちの下告の声が小雨の降る深夜の街道に響く。

11日深夜、三井寺本陣の信長のもとに叡山包囲完了の報告が上がった。

「これで奴らは籠の中の鳥も同じよ」

篝火の明かりが、信長の端正な顔から凄絶な笑みを浮かび上げる。

「叡山より蟻の子一匹通すな。動くものは女子供とて一人も生かしてはならぬ。

全て切り捨てよ。全てを焼き払えい!

特に権六めに伝えよ。ここでまだ一向宗の者どもに手抜かりを加えてみよ。

貴様の古傷、この上総介自らの手でえぐりとってくれるとな。

今のことしかと申しつけい!行けい!」

「は、はっ!」

足もとに控えていた伝令があたふたと走り去る。

まだ若いその男は、今の信長の鬼気迫る迫力、そしてその命令をつたえることにより行われることへの怯えからか、本陣を抜けるまでに2度ほど転んだ。

そして12日未明、攻撃が始まった。

比叡山のあちこちから火の手が上がる。

最早生きてここを出ることはかなうまい

今生での別れ。そして来世での巡りあわせ……

それが叶わぬならせめても地の底にても会おうぞ、と家族、仲間、妾と再会の約束をした僧兵たちが最後の抵抗に出る。

そのあがきを、鬼柴田と異名を持つ柴田勝家(権六)率いる長槍隊が容赦なく屠って行った。

夜が明けて、昼前には武装した姿で動くものはもうほとんど見当たらなかった。

そしてそれが終わった後、それはもはや戦いとはいえぬものだった。

命乞いするもの、女性、子供、老人、病気療養者……。

そのすべてが情け容赦なく殺戮されていく。

最後の望みを託した講和の使者も、信長自らが一刀のもとに切って捨てていた。

比叡山は、まさにこの世にもたらされた焦熱地獄の様相を呈していた。

信長は本陣に残る武将たちを雑兵から輜重隊から身分に関係なく己の周りに立たせていた。

巨大な一本の松明のようなその焔は、本陣までも熱風を運んでくるかのようだ。

そして続々と休むことなく運び込まれてくる敵方の首。

千をはるかに超えようかというその首はとても本陣に収まるものではなく、首実験を終えたものから野に山積みにされていった。

あたりはなべの底を抜いたようなおびただしい血がたまり、川となって流れた。

小雨の中、積み重なって恨めしげに見降ろす幾千の目、耐えがたい血のにおい、灰燼に帰していく寺、山門、宝塔、講堂…

気の弱い者は卒倒し、また無意識にも念仏を唱えかける者もおり、それにも激しい叱責の声が飛ぶ。

自分に逆らったらどうなるか、邪魔をしたらどうなるのか。

信長が家臣たちにそれを見せつけようとしているのだった。

殺戮は夜半まで続いた。

やがておお、というどよめきの声が家臣団から漏れ、かすかな法螺貝のように響いた。

夜明けとともに、夜半まで燃え続けていた建物・・・

民衆から鶴亀堂の愛称で親しまれてきた、大講堂がゆっくりと倒れ、焔に包まれながら山裾を滑り落ちていくのが見えた。

「ふふ  ふふふふはははははっはっはっはっはあああああ」

信長の顔から、もはや鬼ですらない笑みが漏れる。やがてそれは哄笑となり、降り注ぐ雨の音も消し去るかと思われる大きさとなって、辺りにこだました。

(御館様、間違っておりまする。このやり方は、間違っておりまするぞ!)

信長の背後に控えていた明智光秀は、きつく噛みしめすぎたために歯茎から流れ出た血を止めようともせず、異様に光る青白い眼で

正面、つまり信長の背中を見据えていた。

怖い話投稿:ホラーテラー 悪乗り倶楽部さん  

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