中編3
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待ち人

俺は彼女を車で迎えに来ていた

この彼女、夜会うときは決まって支度が遅い

彼女の家の前は道が狭いため、俺はいつも通り少し離れた街灯の下に車を停める

……遅い

一時間待たされるなんてこともよくある

(準備が出来れば電話してくるだろ)

そう思い、ドアにロックをかけ、車のシートを倒すと仮眠の体勢に入った

……

(ん?今何時だ?)

目を覚まし、助手席に投げていた携帯へと手を伸ばす

携帯の画面を見ると23時になっている

「寝過ごした!……あれ?着信ないじゃん」

(確かに今日約束があったはずなんだけど……)

そう思いながら一伸びし、体を起こした所で俺の動きは止まった

車の前に女が立っている

離れていればなにも思わなかったかも知れないが、あまりにも近すぎる。今にも車に触れそうだ

街灯に照らされてはいるが、長い髪で俯いているためその表情はわからない

しばらく動けないでいると、ふいに女は踵を返し歩き始める

去り際、一瞬見えた口元には笑みが浮かんでいたように見えた

「助かったぁ~」

思わず言葉が漏れると同時に

ピリリリリッ

開いたままで手に持っていた携帯が鳴り出した

俺は咄嗟に通話ボタンを押す

「もしもし?」

『もしもし?ごめん待った?』

彼女だ

「遅い!おかげでさっき怖い思いしたわ!」

『ごめんごめん。今そっちに歩いてるから』

俺は通話を続けながら車を進めると、すぐに人影が見えた

『眩しい!ライト切って』

どうやらあれが彼女のようだ

俺はライトを切り、フォグの明かりで車を進める

彼女まで後30mほどの位置にきた所で、ロックを解除しようと手を伸ばした

テンッ♪テッテテン♪テン♪

耳元の携帯が再び鳴り出す

俺は思わずブレーキを踏んだ

おかしい。今俺は彼女と通話中なのだ。キャッチは入るが着信音が鳴るはずがない

携帯の画面には彼女の名前が出ている

そこで俺は気が付いた

俺は彼女からの着信音だけ音楽に変えている。だが、さっきは通常の着信音だった

俺が電話で話していたのは誰だ?

前から歩いてきているのは誰だ?

俺が携帯に出ることも出来ず固まっていると

ドンッ

突然助手席側の窓が叩かれた

恐る恐る目を向けると、さっきの女が窓に顔面を叩きつけている

俺は夢中でアクセルを踏み込んだ

どこをどう走ったのか覚えていないが、ともかく俺は自宅に逃げ帰っていた

部屋に入るとすぐ彼女に電話

彼女は約束を忘れていたわけではないが、つい寝てしまっていたらしい

目が覚めて慌てて俺に電話をしたとのことだった

俺はさっきあったことを話し電話をきった

一睡も出来ないまま夜が明ける

平日なので仕事の準備を済ませ、車に向かう

乗り込もうした時、車のドアノブに無数の引っ掻き傷があるのに気付いた

もしロックを掛けずに寝ていたら・・・・・・もし彼女からの電話が鳴らずにそのままロックを解除していたら・・・・・・

俺はどうなっていたのだろうか・・・・・・

怖い話投稿:ホラーテラー Mさん  

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