中編3
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粗大ゴミ

 私の母は父を嫌っていた。父に何かあればすぐ怒鳴りつけ、キャーキャーと喚いていた。

 父は自由がなかった。趣味の釣りに行けば「時間の無駄」と言われ、大好きな酒を飲めば母に白い眼で睨まれる。何よりも父はそれらに反論しなかった。

 母がなぜそれほど父を嫌っていたか、原因はたくさん考えられる。父の給料の安さ、そのために母も働かなくてはいけないこと、父の安直なものの考え方……。数え上げたらきりがない。

 とにかく母は父が嫌いだった。いつでも父は憎しみの対象になった。

 ある日、父が私に言った。

「100歳まで天寿全うするからな」

そして、がははと笑った。久しぶりの笑顔だった。それを聞いてもいないのに母が横合いから

「そんな生きててもあんたなんか粗大ゴミと一緒や」

と言った。その一言は今も耳に残っている。その直後の父の沈んだ顔も覚えている。

 

 父が死んだ。自殺だった。首を吊ったそうだ。それもわかる気がする。

私が都会で働いている間、父はずっと田舎で母と暮らしていた。昔の母ならまだ良かっただろう。だが今の母は炊事、洗濯、掃除……家事といえるものは何一つできなかった。

 アルツハイマーだった。突然叫びだすかと思うと父の用意した料理を投げ出し、部屋中の壁に自分の排泄物を塗りたくる。父はそれに耐えられなかったようだ。

 

 そして母は私たちの家にいる。妻も彼女が来てから皺が増えた気がする。毎日が憂鬱だ。

 時々、私は呆けた母の耳元でこう呟く。

「あんたの方が粗大ゴミだよ」

 無論母には意味が分からないだろう。

「しょうちゃん。しょうちゃん」

と私の事を幼い頃の呼び名で呼び、笑いかけてくる。そんな母が疎ましくてたまらない。

 私は父のように耐え続けることはできない。だから……。

 粗大ゴミを不法投棄しよう。

 灰色の分厚い雲が延々と続く薄暗い空。ぼつぼつと降るまばらの雨が車の屋根を叩く。青々と生い茂る樹木が増えてきた。

 この辺でいいだろう。

 助手席で「ドライブだ」とはしゃぐ母を外へ連れ出す。母の顔に雨が当たり、うっとしかめる。私は言う。

「安心して。これからもっと濡れるから」

 母の手を引き、林の奥まで連れてくる。適当に人気の少ないところを見つけると、母を押し倒した。目をぱちぱちとさせている。理解できるわけがない。

「しょうちゃん……? しょうちゃん? しょうちゃん?」

母が髪を振り乱し、私の足にすがってきた。

 私の中で何かが音を立てて崩れた。

 母の腹に向けて思いきり蹴りを入れる。つま先が脇腹にめり込む。母が何かを叫んだ。聞き取れなかった訳ではないが、何と表現していいか分からない、そんな声だった。

 うずくまって動かない母を尻目に車へ戻ろうとすると

「しょ……う……ちゃ…………」

と聞こえた。

 気が向いたら回収してあげるよ。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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この話の主人公も同じ事されるのかな?
因果応報だね

なんと胸くそ悪い話。