うちの母が、私が高校生の時に流産した。
年齢的にギリギリだったこともあり、家族全員でサポートしたが、お腹の中で死んでしまった。
それから暫くして、母は夢を見たそうだ。
まだ一歳くらいの小さな女の子が、覚束無い足取りで母に寄り添ってくる。
子供の顔は見分けがつかないものだが、何となくどこかであったような気がした。
女の子はしきりに母の足元にすり寄るものの、抱っこをしようと屈んで手を伸ばすと、逃げてしまう。
そんなやり取りが何度か続いた。
母は不思議に思って尋ねた。
「どうかしたの?」
その子は、しゃべり始めたたどたどしい口調で、だがはっきりと答えた。
「あのね、わたしおかあさんのこどもじゃ、ないの。」
母は泣きながら目が覚めた。
それから一年ほど経った頃、母の勤め先の店に、ある親子が来た。
子供連れなど珍しくも何ともないのだが、何となく気になってその親子を見ていた。
両親と、一歳くらいの女の子。
幸せそうなごく普通の親子。
女の子を見た瞬間、母はデジャヴを感じた。
テーブルに座ったまま、じっとこちらを見つめる女の子は、母の夢に出てきた女の子にそっくりだった。
子供の顔は区別がつかないものだが、はっきり「あの子」だと分かったらしい。
紛れもない「あの子」だと分かった母親は、いてもたってもいられず、親子が座るテーブルに近寄った。
「可愛い子ですね。名前は何ていうんですか?」
頭を撫でると、女の子はじーっと母を見つめた後、笑った。
そんな筈はない、ただの夢だと思いつつも、
「幸せな家に生まれ変わったんだ、よかった」という思いを禁じ得ず、
厨房の隅で涙が止まらなかったそうだ。
母が流産したのを知って、慰めの言葉をかけてくれる人もいた。
「もう上に二人(私と妹)いるからいいじゃない」
母は私を出産する時も危ない状態だったらしく、
「たとえこの子がダメでも、まだ若いんだから、これからまた作ればいいじゃない」
とよく言われたそうだ
そういう問題じゃ、ないんです。
怖い話投稿:ホラーテラー ローレライさん
作者怖話