お経。
念文とも言う。
心を清め邪をなくし、故人を想い、念をおくる。
読経は決して途中でやめてはならない。
詞を介して無へと誘う。
詞は霊と繋がる唯一の方法。
魂を呼び、諭す。
部屋が詞を反響させ隙間から溢れる。
無を求めて集まるだろう。
1840年頃。
山賊は罪を重ねた。
数々の部落、集落を襲い邪を溜める。
女を犯し、奴隷にし、子を身籠らせ、子をしょくす。
男を犯し、種をかり、子を身籠り、繋げていく。
男達は犯されたあと四肢をくだかれ生きたまま赤き炎に身を包まれる。
黒くなるまで。
始まりは痣として現れた。
痣は膿となり体を蝕む。
一人だけでない。
全てのものが侵された。
膿が体を腐らせ異臭を放つ。
血の匂い…。
動物が焼ける匂い…。
それでも罪を重ねた。
やがて血を吐き、次々と倒れていく。
それでも部落、集落を襲う。
生きる為に。
20人が10人になり、10人が5人になり、徐々にいなくなる。
最後は5人が2人になった。
それでも部落、集落を襲う。
当然、返討にあい、つかまる。
民は処刑を求めたが長がだめだと諭した。
邪は邪にしかならず。
罪を贖いなさいと山賊に諭した。
長は坊さんだった。
すべてが視えていた長は、今のままだと2人も同じ決路を招くことを諭す。
民に反発される中、2人に贖い方を諭した。
当然、従わなかった。
その結果1人が死んだ。
慌てた1人は長に助けを乞う。
長は再度贖い方を諭した。
すべての罪を贖う事はできない。
が、生きたいのなら贖いなさいと。
山賊は坊さんになった。
「俺」で登場した坊さん。
俺の友人だ。
一族の末裔。
血を引くもの。
当然罪は償わなければならない。
犯してきた罪は重い。
彼の代でも償いきれていない。
業、カルマ。
坊さんと会ったのは俺が高校の頃。
一目で惚れた。
体にまとわりつく禍々しい念。
どす黒い。
思ったより気さくなやつだ。
情報を元に想像する。
奥深い…。
それを知ったのは本堂にあった物をみた時だ。
一目でわかった。
「これはやばすぎる…」
筆。
20本以上並べてある。
柄は白い。
お経の紙で巻かれている。
先端には赤みがかった黒い毛。
光に反射し黒い光沢を放っている。
あきらかに髪の毛だ。
詳細を話さない。
そりゃそうだ。
嘘をついて誤魔化している。
仕方がないので視て諭す。
唐突だが一番わかりやすい。
坊さんは怯えていた。
「人筆」
柄は骨、毛は髪の毛。
動物の血と墨を混ぜ、毛を浸し、毎晩、漉返紙に写経する。
それが彼の行司だ。
渦巻く念を鎮める為に…。
1年毎に1本ずつ、時間をかけて念を鎮める。
繰り返し。
「やらないとどうなる?」
皆も聞きたいだろう。
俺も気になったので聞いてみた。
やはり一度かましたそうだ。
同じ様に坊さんもやらなかったらどうなるのかと興味本位
でやらずに寝たそうだ。
「ジリリリリン…ジリリリリン…」
黒電話がなる。
「ジリリリリン…ジリリリリン…」
夜中2時。
その日両親は法要を依頼されたので居なかったそうだ。
眠い目をこすり電話をとる。
「貴様ぁ、なにやらかしたかぁぁ!!」
住職が切れている。
夜中2時に切れている。
慌てる坊主。
目が覚めた。
気は小さい。
住「ばかたれぇが!!外にでちょるぞ!!!外に!!!やったんか?やったんか?」
坊「ご、ご、ごめんなさい。やらずに寝てしまいました…」
住「ばかたれぇが!!はよ着替えて写経をしながら読経をせぇ!!!」
住「いいか!!!帰るまでつづけてろ!!!!」
坊「はい…、ご、ごめんなさ…」
「がちゃ!!!!」
慌てて袈裟に着替え、云われたとおりにした。
暗闇の中。
1本の蝋燭に火を灯し、人筆を血墨に浸し、4時間もの間、
本堂で漉返紙に写経、読経を続けた。
無音の中、部屋にはお経が響く。
時折風の音がヒュー、ヒューと聞こえてくる。
視線を感じる。
何人もに見られている感覚。
時折聞こえる人の声。
「あ゛…ぁ…」
きっと気のせいだ。
次第にはっきり聞こえてくる…
「ああ゛ぁぁ…」
近づいてきている…。
「こんにちは」
ありえない!!!
冷や汗がでる。
低い男の声。
耳元ではっきりと聞えた…。
鳥肌が立つ…。
後を向けない。
目も閉じれない。
誰もいるはずがない。
が、肩を叩かれる。
「こんにちは」
耳元で囁く。
やばい!!!!
さっきとは違う声だ!!!
逃げ出したい…。
が、裾を引っ張っている…。
「おい」
冷や汗、鼻水、涙。
ありとあらゆるものが出てきそうだ。
目の前を黒い影が横切る…。
本堂がガタガタと揺れだした。
何時だろう…もう限界だ…。
恐怖に怯える。
「ガタン!!!!!」
部屋を闇に染め唄を説いた方ならわかるだろう。
自分に何がおきている?
「南無妙法蓮。」
「全ての罪を承る血、肉、皮はここにあり」
「全ては我を器にし、闇を照らす屍となれ。」
「子は血となり肉となり我を皮とし見定めよ」
「赤き陽を身に纏い、青き衣を破滅させ」
「重き風に身を委ね取り巻く黒に身を染めよ」
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話