長編8
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無知故の後悔

このお話しは僕が体験した、否、今も続いている悪い夢のお話しです。暇があったら読んであげて下さい。

僕の生まれは大阪市生野区と言う場所の中にある、T地区と言う所。白くて大きな団地の一室で二十歳まで育った。

話の本筋に入る前に僕の事を少し話しておこうと思う、僕には小さい時の記憶が全くと言ってもいいほど無い、虐待などはされて居ない。お父さんと呼ぶ人が居ない事意外は幸せな家庭だった事はなぜか覚えている。

家族構成は母と兄と姉が一人づつ、今はもう居ないが。理由はこの先の話しで理解して頂けると思う。

それでは話しをはじめたいと思う。

僕の住んでいたこの団地は、びっくりする程自殺が多い。程よい高さ、周りに高い建物が無いせいなのか綺麗な景色、そして飛び降りた人達が必ず亡くなっていると言う実績。以上の三つの理由が自殺に訪れる人達にとってはこの上ない魅力なのであろう。

そんな場所で僕は育った。

勿論、普通に生活している分には支障は無い。むしろ立地がいいので人気があるくらい、現に今も団地は満員だ。

2年前に母と兄が立て続けに死んだ。理由は自殺。

母は再婚し、義父と新居で生活していたのだが、部屋で首を吊った。

兄も結婚し、子供を1人授かり、アパートの一室で暮らしていたが、アパートの駐車場で灯油の様な物をかぶり焼身自殺。

僕は心の中にぽっかりと穴が空いてしまった。姉は奇声を上げ泣き崩れていたらしいが、僕はと言うと、葬儀の最中も現実を受け入れられないのか、終始放心状態でポカンとどこかを向いていたらしい。

兄の葬儀の後、姉が僕に掴みかかって来た。

『あんたが全部悪いんや。』

今にも飛び出しそうな程目を見開き、唇をふるわせながらその一言だけを言った。

姉はすぐに親戚に引き離され、少し離れた所でなだめられていた。

状況が読めず、またポカンとしている僕に親戚の叔父さんが歩み寄り、

『少し話ししようか。』

と告げた。

僕はコクりと頷くと、叔父さんの家に向かった。

叔父の家に着き、お茶を一杯頂いて、少し落ち着いた所で叔父が話し初めました。

『お前自分が小さい時の事覚えてるか?』

僕が覚えていないと言うと、『そうか』と言って話しを続けた。

『お前が小さい時、ちょうど幼稚園に通い始めたくらいの時やと思うわ、世の中はえらい不況でな、その時くらいからいわゆるサラ金が流行り出したんや。

昔は今みたいにサラ金に対する規制も法律も大した事無かった。だから取り立てがすごかったんや。ドアに鍵かけても蹴破られて入られる。会社にも平気で来る。

そんな取り立てが当たり前やったから、自分で死んでしまう奴も沢山居た。その時のお前の団地は悲惨なモンやったで、酷い時は週に4人も5人も飛びおりよる。

住んでる人もその時期はさすがにまいってた。

ちょうどその時くらいやったかな、お前が上の2人と遊んでるそのすぐ横に人が落ちてきたんやわ。

上の2人は泣きながらウチに来たんやけれども、お前が居てない、ワシは急いで現場まで向かった、そしたらその恐らく素人目から見ても分かる『死体』とお前が楽しそうに話してる。

ワシは怖くなって、お前の腕掴んでそこから離れようとしたんやけど、お前の力がすごくてな、結局警察が来て遺体を引き上げていくまでずっと近くにおった。』

叔父はそこまで話すと深めのため息をついて、とっくに冷めたお茶に手をのばした。

ちょうどその時に姉が部屋に入ってきた、その話しを途中から部屋の前で聞いていたのだろう。『さっきはごめんね』といった後、話しの続きを始めた。

『あんたがおかしくなり始めたのはその時くらいやねん。前までニコニコして騒がしい子やったのに、火が消えたみたいに大人しくなってね、ボーッとしてる事が多くなった。

大好きな鬼ごっこも入ってこないし、兄ちゃんと2人で悩んでたんよ。

でもな、そんな状態やったアンタが唯一朝からニコニコしてる日があった。特に変わった事なんて無いのに1人でキャーキャー騒いでね、理由は分からんかったけど、あんたが元気になったってお母さんも兄ちゃんも喜んでたわ。

でもな、その内兄ちゃんが変な事に気づいたんよ、『たかしがはしゃぐ日は、絶対に自殺がある日やな』って。

確かにそうやった、あんたがはしゃぐ日は絶対って言えるくらい自殺があった。

しかも決まったかの様に1人で何かを楽しそうに話してる。

私も兄ちゃんも気味が悪くなってきてね、お母さんに相談したんよ。でもウチお父ちゃん居てないやろ?働き手がお母さんしか居てなかったから、いっぱいいっぱいやったんだろうね、まともに取り合ってくれへんかった。』

そう言うと姉はどこかやりきれない様な表情をして、僕の事を見つめた。

僕はそこで少し引っ掛かっていた事を姉に聞いてみた。

『僕どれくらいの間そんな様子やったん?』

『ちょうど2年間くらい。』

姉は間髪入れずにそう言った。

『二年間も…』と落ち込む僕に姉が言います。

『しょうがない事やってん、アンタ責めてもしょうがない。そんな事は分かってるから、あんたもそんな顔したらアカン!』

そう言った後に姉は話しを続ける。

『アンタが変わってからちょうど一年経つか経たないかくらいの事やけどね、中学の友達が家に来たんよ。T神社の1人娘の子やけど知ってる?』

大きくなってから何回か会った事があったので知っている、見た目の印象はあまり無いのだが、どこか僕の事を毛嫌いしている感じがしたので僕も相手に対してあまりいい印象はなかった。

『うん、知ってるよ。僕の事嫌いな人やろ?』

僕がそう言うと、姉は深いため息をついた。

『それにも理由があってね、アンタ本当はあの子に感謝せなアカンねんで。あの子が一番最初にアンタの本当の意味での異変に気がついたんやから。』

あまり話しが読めなく、困惑している僕に姉は続けた。

『初めてあの子が遊びに来たとき、アンタの顔見ていきなり嘔吐したんよ。大丈夫?って聞いたら、アンタの事見ながら『あの子何したん?』ってすごい顔で聞いて来たん。

別に何も、この子ちっちゃいし。って言うたんやけど、

『嘘つきな!そんな訳無い!』って騒ぎ出してね、大変やからその日は帰ってもらったんよ。明日話しすればいいわって思ったから。

でも次の日にその子はけえへんかった。なんか罪悪感を感じてしまってね、帰りにその子の家に寄る事にしたんよ。

インターホン鳴らしたら、その子のおばちゃん出てきて、中に入れてくれた。お菓子とジュース出してくれてね、居間みたいな所で少し待つ様に言われたんよ。

お菓子食べながら待ってたら、その子のおっちゃんが来てね、『訳は後で話すから弟をつれて来なさい』って言うんよ。

とりあえずお兄ちゃんに聞いてきますって言って、家を出たん。

そのまま家帰ってお兄ちゃんに言うたら、『なんか怖いけど神主さんが言うてるんやったら行った方がいいん違う?』って言うのね。だからその日の内に兄ちゃんと一緒にアンタ連れて行ったんよ。』

姉と兄は何か釈然としないものの、僕の奇行の原因が分かるかも知れないと思い僕を神社に連れて行った。

再びインターホンを鳴らすと、待っていたかの様に神主さんが出てきた。

僕の顔を見た途端に顔色が変わっていくのを姉と兄は見ていたらしい。

『これは大分アカン事になってるなぁ…。』

そんな言葉も姉は聞いたらしいです。

『とりあえず中に入りなさい。』

神主さんはそう言うと僕達を中に招いたそうです。居間の様な場所向かう途中、僕だけがおばさんに連れられ別室に連れて行かれたらしいです。

居間に着いた兄と姉はそこで神主さんの話しを聞きました。その話しはいささか中学生には難しい内容でしたが、姉ははっきりと覚えているらしいです。

以下神主さん

『非常に言いにくいだけれども、弟さんは死んでるも同然なんやわ。事実上は生きてるんやけれども、魂は死んだも同然や。

何があったか分かれへんが、今すぐに手を打ったほうがいい。』

姉はちょっと待って下さいと神主さんの口を止め、『すいません、あたし達何一つわかりません。できれば一から説明してもらえませんか?』と伝えた。

すると神主さんは、ボソボソとした声で話し始めた。

『君たちはT住宅の子やろ?あそこは自殺が多いな。なんでこんなに多いんやろ?って考えた事あるか?』

姉と兄は首を横にふる。

『原因はな、大変言い辛いけれども、君たちの弟さんのせいや。』

『何言うてはるんですか?!』

兄が少し怒ったような感じで神主さんに言った。

『勿論直接的に弟さんが悪いんじゃない。弟さんに憑いてるヤツが厄介なんや。もう一人、嫌一つやな。もう一つじゃないねん。いっぱい集まって、訳分からん様になってる。前はいっぱいのウチの一つが他の人を引き込んでたけど、今は弟さん自身が他の人を引き込んどる。 もう今のアレは弟さんじゃ無いと思ったほうがいい。下手したら自分達まで持っていかれてしまうで。』

神主さんは残念そうに言うと、静かに目を伏せた。

『どうしたらいいんですか。』

その姉の問いに対して神主さんの答えはあまりにも残酷なものだった。

『正直な所、さっき早く手を打たんとアカンとは言うたものの、得策は何も無い。』

兄は静かに泣いていたと言う。

『お母さんも呼んでくれへんか?』と言った神主さんに対して、兄は『俺から言うておきます。』と言い、姉と僕を連れて神社を後にした。

姉の話しはここまでで、『なんでお姉ちゃんと僕は無事で兄ちゃんとお母さんは…』と言う僕の問いに対して、

『アンタは何も知らんかった。私は逃げた。でもあの2人はアンタの為に戦ってしまったんよ。それだけ。』

そう言うと静かに立ちあがり、

『今は私にも家族が居てる、まだ死ぬ訳にいかんのよ。ごめんやけどもう連絡はしてこんといて。』

とだけ言って帰って行った。

僕には家族が居ない。

姉も叔父も僕は何も悪く無いと言う。

母も兄も生きていればおそらく同じ事を言うだろう。

僕はまだ生きている、しかし生きている限り、この言われの無い後悔の念だけはは消える事が無さそうだ。

怖い話投稿:ホラーテラー たこやきさん  

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