中編3
  • 表示切替
  • 使い方

自由研究(くねくね)

去年の夏休みの自由研究、最後まで出来なかった。

でも今年は最後までがんばろうと思う。

やり直せるチャンスが巡ってきたんだ。

そう、去年の夏休みは大変だったんだ。

八月に入り、僕は宿題の自由研究をなににしようかと、決めあぐねていた。

小学校の先生をしているお父さんにアドバイスを求めると、

「植物とか虫の観察日記なんかいいんじゃないの?」

僕はさっそく広場にいって虫を探してみた。

でも、いざ探してみるとなかなかよい観察対象が見つからない。

あきらめかけたその時、雑草の裏にくっついているそれを見つけた。

とても小さなイモムシで、およそ五ミリくらい。

なぜそんなものに興味を引かれたかというと、くねくねと踊るようなその動きと、透き通るような白さ。

僕は雑草ごとそれを虫カゴに詰めると走って家に帰った。

このイモムシは何の幼虫なんだろう?

餌は葉っぱでいいのかな?

虫カゴは小さくないだろうか。

いろいろ考えているうちに、だんだんと不安な気持ちが大きくなる。

そうだ!お父さんに聞いてみよう。

お父さんはセンセイだから、きっとこのイモムシのことも知ってるハズだ。

僕はさっそくイモムシをお父さんに見せる。

イモムシは相変わらずくねくねと踊っていた。

お父さんは首を傾げると、

「こんな虫は初めて見るな~、よし、虫眼鏡でもっとよく観察してみよう。」

と言ってとても大きな虫眼鏡でイモムシを見たんだ。

お父さんは暫くカゴの中を覗いてたんだけど、突然なにか全身をぷるぷると振るわせ始めた。

お父さんは時々ふざけて僕を笑わせてくれるんだ。

「あははは!お父さんどうしたの?」

僕の問いかけを無視する様にお父さんはぷるぷるしながらカゴの中を見続けている。

すると突然、

「おいジロウ! これはイモムシじゃない直ぐ捨てるんだ!これを見ちゃいけないスグニステルいけないステルいけないステルイケナイイケナイイケナイイケナイイケナイイケナイイケナヒ~~~!」

だんだんと音程が上がっていって最後のイケナイを連呼している時なんか笛を吹いてる様な声だった。

僕は急に変身しちゃったお父さんが怖くなってお母さんを呼びにいったんだ。

お母さんはお父さんを見てびっくりしてすぐに救急車を呼んだ。

僕は怖くて自分の部屋に篭ってたんだけど、救急車が到着した時、カーテンの隙間から見てしまったんだ、お父さんの姿を。

とても楽しそうにヒイヒイと笑って、くねくねと全身をくねらせて踊ってたんだ。

でも周りにいる人たちは必死にお父さんを押さえつけようとしてた。

お父さんは救急車に押し込まれる寸前、チラッと僕のほうを見たんだ。

僕は何故か判らないど本当のお父さんを見たような気がした。

お父さんは笑いながら泣いてたと思う。(うれしくて)

お父さんを見たのはそれが最後。

僕はお父さんの言葉通りにイモムシを捨てた。

お父さんは今はどこか大きな病院で療養しているとお母さんから聞いている。

お母さんはお父さんの事でいろいろと大変みたいで、今年の夏休み僕は一人で田舎のおじいちゃんの家に泊まりにきてるんだ。

川遊びの帰りにそれを見つけた。

去年、結局正体の判らなかったくねくねを偶然見つけた。

おじいちゃんに見せると血相を変えて、

「それはだめだ!直ぐに捨てるんだ!」

僕はお父さんの言葉を思い出した。

イケナイイケナイイケナイ・・・・

でも僕はくねくねを捨てるふりをしてそっと麦わら帽子に隠す。

帽子の中で嬉しそうにくねくねと踊るそれは、なんとなく僕になついているようだ。

そう、今年こそ最後まで観察を続けるんだ。

そして大きくなったこいつを皆に見せるんだ。

おじいちゃんにも、お母さんにも、クラスの皆にも、そして病院のお父さんにも・・・

数日後、ムシは相変わらず元気にくねくねしている。

少しずつだけど大きくなっているようだ。

この分だと皆に見せる日も近いナ。

で、ここのところ僕の体はいよいよ震えが止まらなくなってきた。

でも、もう少しなんだ。

僕は身体の自由が利くうちに、観察日記と一緒に大きくなったくねくねを学校に送ろうと思う。

もう少し、もう少しなんだ、もうすこし、もう少し、モウスコシモウスコシモウスコシ・・・・・・

怖い話投稿:ホラーテラー ジロウさん  

Concrete
コメント怖い
00
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ