中編5
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コピペ

もしかしたら、アレは…あの国の政府も暗黙の了解で認めている大きな収入源なのではないでしょうか?

だと疑えばこそ、体験した我々も恐ろしくて当事者以外には誰にも語れませんでした。

書く事を大変にためらう内容なのですが…国名は隠しつつ思いきって投稿させていただきます。

今から十数年前…私はファッション雑誌の編集をしていました。仕事柄海外に度々出張を重ねていました。

海外出張中に休日をもらえる事は大変に稀でしたが、3日間だけコーディネーターさんとカメラマンさんと私は休日をいただけました。

それでは…このまま3人で海外旅行を楽しみましょうか? と言う事になり、その土地の普段は足を踏み入れない所へ行く事にしました。

細い路地へ路地へ歩くうちに、私達は知らず知らず怖い街へ入ってしまっていたのでした。

どこまでも続く薄いベージュ色の壁の所々にアーチ型の小さな穴が開いており檻がはめ込まれていました。

中は暗くて良く見えません。なんだか異臭も漂っていました。

私達は、

「凄い怪しいね…お洒落な国にも観光地とは違う雰囲気の所って存在するんだよね、あっ…でも僕達が観光地の綺麗な世界しか知らないだけで現地の人達にとってはこんな場所での生活が当たり前で凄く普通なのかな? アーチ型の檻はワインセラー利用なのかね?」

などと話しながら歩いていたのでした。

すると、檻の穴から

「あなた達は日本人ね?」

と流暢な日本語で女性の声がしました。

声の主を探すと、若くて綺麗な日本人女性が檻の中にいました。

でも様子が変です。目の下にクマを作り痩せていました。

そして檻から彼女の全体像を覗き込んでハッとしました。

…彼女の両足はくるぶしから下が切断されていて無かったのです。

彼女「ここはね、とても怖い所なのよ…絶対に日本人なんかが来ては…いけないのよ…ほら…」

そう言って、檻から差し出した彼女の両手の親指と人差し指は根元から切断されていました。

私達は息を飲みました…。逃げられない様に切断されているんです…。

これは…伝説のダルマ女みたいなのではないんでしょうか?? 北朝鮮以外の…もっと残酷な拉致被害者ではないのですか?

様々な思いつきが頭を駆け巡りクラクラとめまいがしました。

しかし私達は気丈になり、とにかく彼女を助けなくてはいけないと思いました。

もちろん今すぐ助けられるわけはありません。

怖い人達が絡んでいるのですから…冷静になって一度日本に帰り、マスコミの力を使って日本の政府や大使館を動かしてでも助けなくてはいけないと思いました。

それには情報を得なければと彼女に質問を始めました…。

私達「…君の実家はどこなの?」

彼女「埼玉県…」

私達「僕達は東京からだから近いね…お名前は?」

彼女「川〇〇子…」

私達「ご両親はきっと一生懸命に君を探しているよ…」

彼女「そうだね…馬鹿だ…私…世間知らずで…生意気言って留学なんてすんじゃなかった…」

私達「日本に戻ってから大勢の人を動かして君を助けるから日本に帰れるんだよ」

彼女「…懐かしいな…日本…けど…こんな姿で帰国して迷惑するのは私の両親なんだよね」

私達「違うよ…家族ならどんな姿だろうと絶対に生きていて欲しいと願うものだよ」

彼女「嫌よ…日本に帰っても不幸なだけよ…ずっと病院とかで過ごしたり…とにかく…閉じ込められて一生が終わるのよ…」

私達「今だって閉じ込められて一生が終わりそうじゃないか! しかも家族もいない所で…ダメだよ弱気になっちゃ」

彼女「でもね…日本人女性はとても貴重なの…だから大切にされるのよ…私こんなだけど…ここでなら…凄く…価値が…あるのよ…」

そう言い放つと、彼女は私達の問い掛けに答えてくれなくなってしまったのです。

彼女は終始笑みを浮かべていました。

もしかしたら薬が投与されていて精神的にかなり壊れているのか? と思いました。

それでも懸命に私達は彼女の情報を得ようと声を掛けたのですが…もう彼女が問い掛けに答える事はありませんでした。

あきらめた私達が、

「…力になれなくてごめんなさい…私達はもう行きますがアナタの事は忘れられないでしょう」

そう声を掛けると、彼女は檻に顔を押し付ける様に真剣な顔で

「…私は〇〇大学の学生だったの…もしも私の両親にあなた達が会えたなら〇子は麻薬に狂って麻薬の売人の男とこの国で暮らしているから帰国の意思はない! と伝えて!! せめて馬鹿な娘なんだと思わせてあげて! 両親をあきらめさせてあげて! ……それから、この路地全部マフィアの城だから…帰り道は絶対に日本語を口にしてはいけないわ…もしも路地で声を掛けられたら…ありったけの金を出して女が買えるか? って聞きなさい…金を持った客だと思えば奴らもむやみに殺したりはしないから…さぁ…早く逃げて!」

そう言うと、また笑みを浮かべて指の欠けた手でバイバイをしたのでした。

彼女が正常だった事に少しびっくりしました。

私達は本当は凄く走り出したかったのに走ったら危険な気がして、路地をゆっくり歩いて行きました。

顔が強張っていると怪しまれそうなのですが強張ってしまいます。自然体に見せるために、私達はガムを噛みながら歩く事にしました。

路地は迷路の様で凄く長く果てしなく感じました。道なんてわかりません。闇雲に歩き続けました。

広い通りを求めて……幸いにも誰からも声を掛けられる事も危害を加えられる事も無くやり過ごしました…。

観光地にも挙げられている知った街に出た時には私達の目には涙が滲みました。

ここは…こんなに平和なのに…日本は…あんなに平和なのに…彼女は…彼女は…。

…結局、帰国後の私達は彼女の素性を調べたりはしませんでした。

ご両親に彼女をあきらめさせるための嘘の報告などとても出来ませんでした。ご両親に本当の事も伝えられませんでした。

これを読まれた皆様は私達の行動にイライラされるかもしれませんが、本当の事を伝えるからには私達もご両親を支える責任が必要だと思ったのです。

考えてみて下さい。もしもご両親がこの事実を耳にして自殺でもしてしまったら? 私達が被害者を増やす結果になるのでは? と思ったのです。

今でも彼女の夢を見ます。

本当に彼女にとって帰国は不幸な事だったのでしょうか? 彼女の両親に対する優しさが本心にブレーキを掛けたのではないでしょうか?

あんな状況下なのに他人の私達の無事を気遣ってくれました。心の優しい女性でした…。

十数年経った今でも時々彼女の夢を見ます。

夢の中の彼女もかたくなに帰国を拒否します…。胸が壊れてしまう程、悲しくてじれったい気持ちで目が覚めます。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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