短編2
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タナトスの翼

 

俺の前には二つの人間がいる。

 

そう…

二人じゃなく「二つ」の人間が俺の足元に落ちている。

「魂の抜けた状態」というのだろうか、生命活動の一切を停止した有機物だ。

 

折り重なる体の下の方は、流行りの服を着て髪は明るめの赤茶色に染めた今風の青年。

シルバーのブレスレットと生意気そうな顔は彼の血で染められていた。少し前は鮮やかな朱色だったのだろうが、今は黒に近い色をしている。

 

上の方にはシンプルな白地のシャツとジーパンを履いた青年が横たわっている。

髪は黒く短めに揃えられ、やや垂れた目元が相まって優しく穏やかな印象を与えている。

口元には僅かに泡が付着し肌は血色が失われ青白い。

 

「どうしてお兄ちゃんたち…うごかないの?」

 

俺の隣りに立っていた幼い少年はしゃがみ込み、有機物となった青年の腕を持ち上げたが手を離せば重力に従ってそれは床に落ちた。 

「お兄ちゃんたち、ねむってるんだね」

 

笑いながら彼らを眺める少年に釣られて視線を向ければ、確かにそんな風に見えた。

まるで、死の恐怖など一瞬も感じなかった様な安かな表情だ。

 

俺が導いた者が浮かべる最後の感情の名残…

 

二人が書いた遺書という紙を胸ポケットにしまうと俺は彼らを送る事にした。  

バサ…

 

「お兄ちゃんの羽はいつも真っ黒だね」

 

「…すぐ戻る」

 

頭を撫でてやれば少年は素直に頷いた。

 

「いってらっしゃい…死神のお兄ちゃん」

 

いつもの様に手をかざし、彼らの核となるものを己に引き寄せる。

 

一番始めの姿に戻った彼らが再び目覚めるか、それとも繭に包まれて眠り続けるかは彼ら次第だろう。

 

二人の青年がただの「二つ」の有機物になった日…

月の光が煌々と漆黒の翼を濡らしていた。

怖い話投稿:ホラーテラー 久遠さん  

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