僕が先輩の家にお泊まりしていた時の話。
この先輩とは1年程の付き合いだ。怖い話が大好きで新しい話を仕入れてはよく僕に聞かせてくれた。そんな先輩の家なのだ。自然怖い話談議に花が咲く。
―――って事があったんだよ。
僕は何度目かのへぇという相づちを打つ。
疲れた。お風呂に入りたい。
先輩お風呂借りていいですか?
あまりいい反応が出来ず、機嫌を損ねたのか彼はぶっきらぼうにいいよ、とだけ答えた。
部屋を出る時にチラリと横目で見た先輩のニヤニヤ顔が少し気になった。
先輩の部屋は母屋とは別でプレハブ小屋だった。余程家族に嫌われてるのかある日突然建てられ彼の部屋となったらしい。
しかし風呂は流石に作れなかった為風呂の時だけ母屋の入室許可がでるらしかった。
お邪魔します。と挨拶をするが反応がない。おそらく彼に関係する者も毛嫌いの対象なのだ。お風呂借ります、と主人が居ると思われる空間に向かって喋る。返事がないがいつもの事。僕は風呂場に向かった。
服を脱ぎ捨て、浴室に入りぬるめのシャワーを出す。ふぅ生き返る。怖い話のせいで嫌な汗をかいていた僕は全身をくまなく洗った。穢れを落とすかのように。
あらかた洗い終わった所で浴槽に目をやる。最近シャワーばかりだからか湯が恋しかった。失礼ながら少し浸からせて貰おうと浴槽の蓋を勢いよく開けた。
目が合った。
冷静だった。水面いっぱいに黒い髪が浮かび水中からギョロリと目を覗かせこちらを見ている。口から漏れ出る気泡がゴボッゴボッと嫌な音を立てている。口元がにいっと嫌らしく歪む。
ソレが動き出そうとしていた。
僕は無言で浴室を出、体を拭き服を着て半泣きで先輩の居るプレハブに走った。声すら出せなかったが先輩が部屋で欠伸をしてるのを見やるや僕は怒鳴った。
何ですかあれ!
ん?驚いた?
凄く憎たらしくニヤニヤしていた。やはりあんたですか
ビックリしたじゃないですか!馬鹿ですか?何ですかあのマネキン!気味悪い!
とまくし立てると先輩は苦笑いで落ち着けとジェスチャーした。
ビックリした?あのカツラさあ昨日美容室でもらってきたんだよ。100%人毛だぜ?恥ずかしかったがお前の為にな。
腹をかかえて笑いながら説明しだした。
イヤイヤイヤ、やめて下さいよ。マネキンとか悪趣味な。
マネキン?イヤ、髪の毛だろ?
ホントにこの人は。まだ怖がらそうとする。が、先輩の顔を見ると一気に熱が冷めた。
先ほどとは打って変わってもの凄く真剣な顔だったからだ。きっと僕のうろたえ様で理解したのだろう。
俺はカツラを浮かべてたんだがな…。
先輩の顔に汗が一筋
僕は何も言えなかった。ただただ恐ろしくて頭まで布団をかぶり震えながら朝を待った。夏だというのに。
いつの間にか寝てしまっていた僕はのそりと布団から出て先輩を探した
先輩は起きていた。黒い艶やかな腰ほどまであるカツラを被って姿見でポーズを取ったりしていた。
起きた?これだよ、昨日のやつ。しかしそんな事もあるんだな。髪は女の命って言うけど少なからず残ってるんじゃない?何が?怨恨てか魂みたいなもの。だいたいこんなにバッサリ髪を切るくらいだし何かしらあったんじゃない?
僕は体を布団に預け再び寝た。
怖い話投稿:ホラーテラー 雪さん
作者怖話