中編7
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地蔵盆:中

また無駄に長くなってしまいまして申し訳ありません。

こちらの方に投稿するのはまだ三作目の新米ですので、誤字脱字等の御目汚しの方は御容赦頂けますように予めお願い申し上げます。

静寂を切り裂いて辺りに響き渡ったのは女性の悲鳴でした。

何だ!!?何事だ!?

余りにも不意の事で体は強張り、思考は停止した状態だったと思います。

とにかく私はその非日常的な声を聞いて咄嗟に腰掛の影に身を潜め、緩やかに辺りを視線を配らせました・・・

すると入口辺りから侵入してくる人影が・・・

・・・女が一人と男が二人、これはただ事では無さそうだ・・・!

辺りは闇に包まれてその全てがはっきりと見えた訳ではありませんが明らかに尋常ではない様子。

女は浴衣を着ている様に見えましたがその着衣は乱れ、月明かりが女の大きく開いた肩口を照らし陶器の様な白い肌に反射して艶めかしい鎖骨が目に入って来ました。

その女の手や口を抑え自由を奪う様に甚平姿の二人の男と揉み合っています。

これはヤバイだろう・・・!

無意識にポケットに手を入れましたが中に入っているのは飴玉と万歩計・・・・・

携帯電話を持っていればと悔やまれましたがそれ以前に今自分がどうしたらいいのか分からず、情けない事に物陰で狼狽しておりました・・・・・

そうこうしている内に女は草の中へ突っ伏されて一人がその上に跨り、もう一人が太い腕で押さえつけ出しました!

兎に角このまま黙って見ているわけにも行かないだろう・・!!考えろオレ!!

顔をはっきり見ていませんが月光に映されたそのシルエットはそれなりの体躯の二人組、飛び出したところで健康の為に散歩を日課にしている程度の自分が敵うはずが無い事位は無意識に理解しておりました。

私が何とか早急に導きだした方法は取りあえず気取られぬ様に真後ろの柵を越えて回り込み入り口側から大声で怒鳴りつければ逃げ出すのでは?と考えました。

もしこちらに向かってきたとしても直ぐに走って近くの民家に駆け込み通報してもらえば何とかなるだろう。

決心をすると体を低く保ち少しずつ柵に向かって歩みを進めました。

心臓が耳の横にあるんじゃないかと思えるほど高鳴り、喉の奥を押し分けて空気が出てきてるのではないかと言う程に息苦しく感じます・・・・

じわり、じわりと藪を音をならぬ様に動き、後ろが気になりながらも螺子で固定されてしまった様に首は前を見据え動く事はありません。

僅か数M・・・時間にして1分にも満たぬ程・・・・・

辿り着けないんではないだろうかと思っていたその柵に手が懸り私は急いでその柵を跨ぎ、着地の足音がならない様に最大限の注意を払いその敷地を何とか脱出しました。

その瞬間に三人の方に目をやりましたが女性が必死で抵抗を試みている様子が伺え、まだ取り返しがつかぬ所に至っていない事も確認できました!!

私は腰を屈め、咲くより頭を下げて早足でその社の外周を1/4周して入口の少し手前で歩みを止めました。

大きく深呼吸を何度か繰り返し、震える足を擦りながら頭の中で何度も繰り返し「行くぞ!!」と叫びました。

このまま見捨てるつもりか!?手遅れになったらどうするんだよ!!行くぞ!!!

何度も頭で叫びながらやっと前に出ました。

「こらああああああああああ!!お前ら何やってるんだ!」

腰の引けた情けない格好だったでしょう。

自分でも声がうわずっているのが良く分かりました。

??????

数秒の無音の後、私は混乱気味で「警察をもう呼んだぞ!」「お前ら見た事あるからどこのやつかわかるぞ!止めるなら今のうちだぞ!」・・等々

自分でも何を言ってるんだろうか分からぬまま大声を張り上げ続けてました。

そこには付近の住民が気づいてくれ!と言う淡い期待も込められていたのですが・・・・・

しかし様子がおかしい・・・・

つい先ほどまであれだけ抵抗を示していた女性が全く動く様子が無い・・・・・

いや・・・寧ろ・・・・そこに生命があるのだろうか・・・・?

薄く雲がかった朧月

生ぬるい一陣の風が吹き込みまた月が顔を出す

その月光が照らし出すは目の前の惨事

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ」

草の上に横たわる女性は一見して明らかに命の灯が消えていました・・・・

いや実際は消えかかっていただけかもしれません・・・・・

しかし、言い訳になるかもしれませんがあの様子を見て逃げ出さずにいられる人が実際にいるとは到底は想像がつきません。

なぜなら、先程まで不謹慎ながら何処か美しささえ感じたその露わになった白い素肌が紅に染まっているではありませんか!

実際は紅く見えた訳ではありませんが首元の辺りに深々と鎌の様なモノが突き刺さり、明らかに女性や向かい合ってる男の着衣が別の色に不自然に染まっておりました・・・・

人殺しだ・・・・殺される・・・!!

今にも泣きだしそうな顔で、

今にも崩れ落ちそうな足で、

今にも張り裂けそうな胸で、

私は我武者羅に走りだしました。

後ろから追っかけてきているのだろうか!?

そんな考えも過りました。が、当然の如く後ろを振り返る事なんてできません。

尚も只管に走り続けました。

ん!?誰かいる!?

走り続けていると前方に人影が見えました。

その影の大きさからはまず先程の二人ではない事だけは解ります。

子供?こんな時間に・・・・

一瞬、疑問にも思いましたがそんな余裕もありません。

私は精一杯に脳を稼働させてその子に尋ねました。

「君の学校はどっち!!?」

地域の小学校はこの町内を抜けた場所でそこなら人通りもあるし道も解ります。

その時はそれが我ながら最善の質問だと思えたのです。何故か近くの家に助けを求めると言う選択肢が一切頭に無かったのはこの時すでにもう取り込まれていたからなのでしょう・・・・・

その男の子がスッと指差し、「あっち」「まっすぐ」と示してくれました。

私は崩れた顔で精一杯の笑顔を作り、

「ありがと!早くおうちに帰りや!!」

と、捲し立てる様に一方的に喋りポケットの飴玉をお礼に投げ渡した。

真っ直ぐに走り続けると見慣れた小路が見えました!

いつものお地蔵さんが見える・・・・!助かった!!!

そう思った瞬間何かの違和感を感じました。

しかしもう目の前に日常が見えている状態でその違和感には気づく事なく駆け抜けようとしました。

唾液は乾き、錆びた鉄分の味が咽元から込み上げて、眼には薄く涙も浮かんでいたと思います。

取りあえず警察に連絡・・・・・

漠然とそう考えたその刹那!!!

出口手前のほんの僅かな隙間の様な路地から手が飛び出して来ました!

その手には鈍色の刃物が握り締められている・・・!

私が横を駆けるそこに刻を合わせ荒々しく振り下ろされた!!!

ザクッ

灼けた様に熱い!!!

切られた!!あああああ!!!

私は切り裂かれました。

しかし、必死だったせいか痛みはそこまで感じませんでした。

刃物が振り下ろされる瞬間に僅かに体を逃がし、反対側の壁に沿う様に走り抜けたのです。

なんとか前腕を切られる程度で済みました。

が、振り下ろされた瞬間に男と視線がぶつかり、男の顔を間近で見てしまいました。

殺人者?精神異常者?

いや、そのどれとも言えない・・・

全く次元の違う別の存在にしか見えなかったのです。

眼は虚ろで白目だけ、口は顎が外れている程垂れ下がり、その風貌はまさしく屍に見えました・・・・

何とか路地を抜け振り返りましたが男の姿は見えません。

そこにはいつものお地蔵さんと、今しがた帰還してきた異世界への小路、そして見慣れたいつもの世界でした。

警察を呼ばれると思って逃げたのか・・・?

取りあえず男の姿が消えた事に安堵し、深い溜息をつきました。

しかし安心と共に忘れていた痛覚が襲いかかって来ました。

激痛に襲われどんどん息苦しくなって来ます・・・・

何だこれ・・・?出血多量とかで死んだりしないだろうな・・・・・

溢れだす血が滴る右手の前腕を反対の手で抱え込みます。

どんどん意識が朦朧として来ました・・・・

視界が歪み、目の前が白く、薄くなっていきます・・・・

ハァハァ・・・・・

目の前には真っ黒な空と黄色く光る月

背中の下には堅く冷たい石

自分を取り囲むは湿気を帯びて蒸せる緑

・・・・ここは?さっきの社???

辺りを見渡しました。

その廃社には自分が入って来た形跡しか無く、人が争った様子など全くありません。

どうなってるんだ・・?夢でも見たのか??

腕に傷も無いしやはり夢だったんだろうと思いました。

肌からはじとりと嫌な汗が滲んで来ます。

背筋に冷たいものが走り、夢だと思っても急に恐ろしくなり取りあえずこの場を後にしました。

この時にはまだ私は、既にポケットの飴玉が無くなっている事に気づいてませんでした・・・・・・

つづく

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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