長編9
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地蔵盆:下

前回までに御指摘・御助言等、誠に有難うございました。努力したのですが纏め切る事が出来ず、あと一度だけ続きますので改めてお詫び申し上げます。

気長にお付き合いいただける方は感想・御助言等を頂けますと幸いです。

私は廃社を出て早足で歩き出しております。

今は何時くらいだろう・・・、もう何でもいいから家に帰りたい・・・!

時の流れも把握できてはおりませんでしたが恐らくもう深夜と呼ぶに差し支えない時刻でしょう。

非常識ではあると分かっておりましたが背に腹は代えられない、民家を訪ねて道を聞こうと決意いたしました。

兎に角、灯りの点いている家ならどこでもいいから見つけないと・・・

流石に夜分も遅いので見つかるか心配でしたがそれは直ぐに杞憂となりました。

・・・・あった!!

僅か数分程で発見したその屋敷はオアシスに見えました。

外観は旧い日本家屋ですがそれなりに大きな御家でしたので外門から呼びかけ、不躾ですが返事が返ってくる前に中の玄関先まで侵入いたしました。

玄関横のチャイムを鳴らしながらも中に向かって呼びかけていると返事が返って来ました。

「・・・・はい?」

玄関に出てきたのは40代中頃の女性でした。

雰囲気的には恐らくここの奥さんでしょう。

少し訝しげな顔をされてましたがこちらも形振り構っておれず、出来るだけ怪しまれぬ様に丁寧に尋ねました。

私「すいません・・・こんな夜更けに大変申し訳ないとは思うのですが・・・実は隣の○○町のものなんですけども散歩中に道に迷ってしまいまして・・・・どうやっても知ってる道に出られないもので何とか道だけでも教えて頂けないでしょうか・・・・」

主婦「・・・道ですか・・それなら~~~」

かなり怪訝な顔をしながらも端的に道を説明して頂け、私にはこの寝巻の熟年女性が女神にも見えました。

私「有難うございます!!本当に助かりました!これで何とか帰れます!」

何度も深く頭を下げつつ踵を返そうとした矢先・・・

主婦「・・・あの・・・それ大丈夫なんですか・・・?」

私「え?」

女性の視線をなぞる様に目線を落とす

!!!!!!!???????

先程は何もなかった事を確認して安心したはずなのに!!??

私の右前腕部に一条の傷が浮かび上がり血が少しずつ滴り落ちているではありませんか!!

ポタポタと・・・・・

私「あれ・・!?いつ怪我したんだろ・・!?スイマセン汚して!多分さっきどっかで引っ掻けたんだと思います!

直ぐに掃除しますから!!」

主婦「・・いえ、もういいですから・・・」

私「・・・・・本当にスイマセン・・・」

申し訳なく思いつつも実際は恐怖と混乱に襲われており取りあえず早くこの町を抜けでてしまいたい気持ちから素直にその言葉を受け入れようとしました。

相手も深夜に汗まみれで血を流す不審な男に早く消えて欲しいと思っていた事でしょうが・・・・

しかし、そんな私と主婦の思いを裏切るかの様に奥から人が出てきて口を挟みます。

「御宅はどちらさんかね?」

そう発したのは小柄な老婆でした。

私や主婦が事を説明しようと口を開きかけたのですが、こちらの返答はいらぬと言わんばかりに老婆は言葉を続けました。

老婆「御宅さんは、このままやと帰れんよ」

私「・・え?」

私には正直この老婆の言わんとしている事が理解できませんでした。しかし先の体験からその言葉に対して恐怖を感じました。

老婆「取りあえず話てあげるよってに中入りなさい。(主婦)さんや、その方あげたって怪我しとるようやし手当もしてやってくれるか?」

主婦「・・・・・はい」

主婦は明らかに顔を歪めましたが田舎の封建制度が染みついているこの地域柄か、不平一つ言わずにこの胡散臭い男を奥座敷まで通してくれました。

キィ・・・・キィ・・・・・

軋む廊下を抜け広い畳の間で主婦が救急箱から取り出した包帯を巻いてくれています・・・・眉間には深い皺が刻まれていますが・・・・

手当も終わりかけた頃に私が入ってきた障子から向かって右手の襖がスッと開かれました。

その襖の奥から先程の老婆と、恐らくは旦那さんでしょうか?肌着姿の翁が一緒に入ってこられました。

翁「おー、こやつかー。分かる分かる、なるほどのー」

翁は少しはしゃいだ様子で口を開き黄色い歯を覗かせます。

・・・?一体なんなんだろう・・

思考が停止していましたが今の私にとってそこに人がいる。それだけでどこか安心できました。

老婆「さてと・・さっきワシが御宅に帰れんと言った話じゃけどな、御宅は今ここにおるけどおらんのじゃよ」

私「・・・え・・と・・?」

老婆「まあ分かりにくかろう。今の御宅がここにいるのは御宅の全部じゃないということじゃ。御宅の一部は別のところに行っておる」

私「どういう事でしょうか・・・?」

翁が横から口を挟みます。

翁「あんな、ふだん皆がおるのがこの世っちゅうやつじゃろ?ほんで死んだらいっちまうのがあの世じゃな。今のお前さんはの、あの世に行きかけてるっちゅう事じゃ」

私「・・・何ででしょうか・・?」

老婆「御宅をトンでもなく恐ろしいモノがねらっとるんじゃ。もうすでに餌食になってると言ってもええの」

私「まさか・・・」

私にはそれなりに心当たりがありました。幼少の頃にもこういう事件に巻き込まれた事があったためか老婆の言っている事も懐疑心なく飲み込めました。

私「確かに先程まで不思議な体験をしてました・・。だけど、そんなのに狙われる様な事をした記憶も無いのに・・何で・・・」

老婆「・・その化け物はの、この世とあの世の間におるんじゃよ。今はお盆じゃろ?あの世とこの世が繋がる日での、その日になるとこっち側に来ては獲物を捕まえるんじゃよ。」

翁「それにのー。さっきはワシはあの世に行きかけてるっちゅーたがの、実際はその間の世界に引きずり込まれるんじゃよ。そうなると・・・成仏も出来ん、生きてもおらん、やがてはその化け物の一部になるんじゃよ・・・・」

老婆「御宅が不思議な体験をした場所と言うのはどこじゃね?」

私「・・・ここから少し歩いたところにある朽ちた社です・・そこで一休みしてたら凄く怖い体験をして・・でも夢かと思って・・そしたらまた夢だと思ってたのに血が出てくるし、もう一体何が何だか・・・・・」

私は涙ぐみ、上手く喋れずにいたのですがそれを汲み取ってくれました。

老婆「成程の、じゃがの・・・御宅の言うその社はもうとうの昔に失くなっとるんじゃよ。その社が見え踏み込んでる時にはもうヤツの領域にとらわれておるんじゃよ」

私「そんな・・・何でオレが・・・・」

私を慮ってか翁が言います。

翁「別にお前さんはなーんも悪くないんじゃよ。ただの・・・やつからしたらみーんな一緒じゃ。ただお前さんがこの町の人間じゃない・・それだけでも目をつけられたんじゃろうよ」

私「・・え?」

老婆「・・・・あの化け物はの、基本的にはこの町の人間は襲いやせんのじゃ。この町以外の、それもワシらと同じ臭いのしないモンばかりを狙いおるんじゃよ」

私「・・・何故ですか?」

老婆「それはここで生まれ育ったワシらにしか分からん事と言うのがいっぱいあるんじゃ、近いようじゃがあっち側とこっち側にはそれだけの隔たり言うもんがある」

。その隔たりがあの化け物を産んだんじゃよ・・・・」

老婆は少し眼を伏せてその化け物について語り出してくれました。

・・・・・・・・・・・・今よりもかなり昔の事ですが、その頃は今よりも地域による差別がかなり激しくこの町に住む人達はかなり虐げられておりました。

それ故にか町内での仲間意識がかなり強く様々な困難にも町内一体となり立ち向かっておりました。

ある時、この町内でとても美しい娘が育ちました。

その娘の肌は絹の様に白く、

その娘の瞳は水の様に澄み、

その娘の髪は玉の様に輝き、

見る者がみな溜息をつく程の美女だったと聞きます。するとその娘の噂を聞いた近隣一帯の地主の兄弟が見染めて心を奪われたそうです。

が、しかし・・・・

所詮はあちら側であるという意識から兄弟はその娘を意中の人として扱うのではな手篭にしてしまおうと画策しました。

当然ながら蔑視される場所に地主の息子の様な立場の人間がおいそれと行くはずも無く、決行は地蔵盆の日に行われました。

まだこの頃は娯楽も少なかった為か、祭事の日には必ず屋台等が出て賑わいました。

屋台は場所割が決まっておりこちら側にしか出ない為、あちら側の人間の殆どがこちら側に来ます。

そして兄弟はこちら側に来た娘を言葉巧みにあちら側に連れて行き件の廃社に無理やり連れ込んだのです・・・

そしてその社で私が見た光景と同じような事が行われたそうです。

乱暴を働かれ・・・・更にはその娘の命までも奪うと言う非道な行為が行われました・・・・

まさに、兄弟はその娘を人として扱ってなかったと言えます。

この事件は直ぐに公になりました。が、鬼畜とも言えるこの兄弟に対して一切の処罰は下りませんでした。

その結果に娘の家族は勿論、町民全てが激怒したのです!

・・・・・そしてこの町の人間が取った行動と言うのがとても恐ろしい方法だったのです。

娘の亡骸を媒体として呪詛を仕掛けると言うとんでも無い外法を行ったのです・・・・・・

それも町民全ての負の心を乗せて・・・・・・・

そして生まれた化け物は兄弟を殺し自分の一部に取り込み永遠に続く苦しみを兄弟に与えました。

しかし、目的を果たした後もこの呪詛によって生まれた化け物はこの地を彷徨い続け、その間にどんどん狂気を蓄えたのです。

今や化け物はこの町の、あちら側の負の感情そのものとなってしまいずっと今でもこちら側から来た人間を取り込み、くらい続けているそうです・・・

切々と語る老婆の話を聞き、私は胸が締め付けられる思いでした・・・・・

私「・・・怒る気持ちも分かる気がします。だけど・・・」

翁「お前さんの言いたいことはよーわかっちょるよ。でもなあ、あいつにとっては関係ないんじゃ。そっち側っちゅうだけで憎悪の対象なんじゃよ」

老婆「それにの、この町の人間だから安全と言うわけでも無いんじゃよ・・・・」

私「・・え?」

翁「昔の・・ワシはそっち側に気の許せる仲間がおっての、そいつと二人であそんじょるときじゃったよ・・・。一緒に地蔵盆の行事から抜け出してのキセルをふかしておったんじゃよ。その時にお前さんと同じじゃ、奴の領域に呼ばれてしもうた・・・」

私「でも・・・お元気でいらっしゃいますよね・・・?」

翁「命はの・・・・」

そう一言呟くと翁はグッと身を乗り出して顔を近づけて来ました。

自然と翁と目が合うと、翁の眼が白く濁っている事にようやく気がつきました・・・・

翁「めしいてしもうたんじゃよう」

老婆「じいさんはの、この町の人間じゃったからこそ光を狭間に持っていかれる程度ですんだんじゃよ」

私「・・お友達の方は・・・?」

翁「・・・・会えんよ・・・もう。行方不明扱いになっての・・・もう何十年もたつんじゃ」

私は全身の震えが止まらず涙が溢れて来ました。

このどう仕様も無い恐怖は一体どうしたらいいんだ・・・!誰か助けてくれ・・・!

心の中で叫びました。

そんな私に老婆の言葉が光明をもたらしたのです。

老婆「御宅なら助る方法があるかもしれん・・・」

私「・・・・!?本当ですか!!」

必死で、それこそ藁にもすがる思いでした。

老婆「そう思ったからこそ招いたんじゃよ。どう仕様もないならもうそのまま行かしとるよ・・・」

その言葉には少し肝が冷えましたが、一度地獄に落とされ蜘蛛の糸を垂らされた気分です。なんとしてでも帰る、そう心に決めました。

私「一体どうすればいいんですか!?」

老婆「この町をでるんじゃよ。あの化け物はそちら側には行けないんじゃよ、この土地に縛られとるからのう」

私「町を出ればいいんですね!?」

翁「ただの、そんな簡単にいくっちゅうもんでもないんじゃよ・・・・」

私「・・・・・どうしたら・・・?」

老婆「まずどっちにしろこの町を出なくちゃ行かん。だけどの、いくつか順序と約束があるんじゃよ。それを守って朝までにこの町をでるんじゃ・・・・・・夜が明けたらもう・・・」

私「・・・・・・・」

翁「なんぼもつろーて怖い思いするかも知れん・・・このままここで夜明けを待つ方が楽かも知れん・・・それでもやるんじゃの?」

私「・・・はい・・!」

私は知っていました

呪に取り込まれる事の恐ろしさを

そしてそれに打克った強い人間を

老婆「わかった、それなら準備をしようかの」

私「宜しくお願いします!」

そして私の長く恐ろしい夜が深まって行った・・・・・・

続く

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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