短編2
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夏の日の電車

私がまだ田舎から出てきたばかりの大学時代の話です。

ある夏の日の夕方、いつもどおりアパートに帰るために池袋駅から快速電車に乗りました。

その日は通り雨があり、ものすごく湿度が高かったのを覚えています。

車内は混雑していて傘を持っている人も多。しかも蒸し暑い。

そんななか車両の網棚の上に、女の人が乗っていたのです。

みんな見ないふりしているけど、車内にはやっぱり気になってちらちら見てる人もいました。

なんだこの女の人、気の毒だけど‥‥という目で。

でも平気な人はふつうに新聞読んだりウォークマンいじったりしていました。

都会の人はこういうの慣れてるんだな。

めんどくさい車両に乗っちゃったなあ、と思いつつ、好奇心に負けて、もういちど

網棚の上を見たとき、

それが「人」じゃないことに気づきました。

視界のすみでとらえていた細い腕や、黒いタイトスカートから伸びた細い足。

白いブラウスに長い黒髪。

狭い網棚の上で、はいつくばっているその顔は、目の部分が黒くおちくぼみ、顔の輪郭がぼやけて影のようでした。

いやまさか。

こんなまだ明るい時間に、こんな所で。

混乱しながらもっとよく見よう、

としたそのとき、電車は駅に着きました。

するとその女は下車していく一人のサラリーマンの首にもがくようにしがみつき、一緒に降りていってしまったのです。

私は思わず「わっ!!」と声をあげましたし、車内の何人かの人もそのサラリーマンを深刻な顔で見送ったりしていました。

怖かったのは、そういうモノがいる、ということより、何人かの人は見えてるらしいのに、まったく気づかない人の方が多いんだ、ということでした。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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