中編4
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派遣のYさん

以前に、うちの職場に派遣会社から来ていたYさんの話です。

彼は派遣とはいえ、来て早々、キャリアもあり年齢も30代後半なので、サブプロジェクトリーダーになりました。

まあ、その分、うちの会社も高い金を払っていたのでしょうが…。

ちなみに、プロジェクトリーダーは課長が着いていたので、彼は参謀的な存在でした。

経験上から得てきたことを、メンバーに助言したりして、頼もしい仕事ぶりでした。

そんなこんなで、半年程度の小規模プロジェクトを回して無事終了。

次に別なプロジェクトがスタートしました。

今度は一年ほどの期間になり、延べ40人ほどが参加する中規模プロジェクトで、Yさんはまたプロジェクトリーダーになりました。

前のプロジェクトと違い、今度は新規のクライアントが相手の仕事なので、みんな張り切っていました。

しばらくして、このプロジェクトのクライアントの本性に、みんな次第に気がついてきました。

この不況のご時世、好景気だった頃に比べれば、大抵のプロジェクトは多少の無茶が付きまといます。

しかし、今回のクライアントはかなり問題ありました。

仕事は投げっぱなし、根拠ない事を好き勝手言う、約束は守らない、頻繁に予定変更してくる。

おまけに、何だかんだ細かい手落ちなどのネタ見つけて、値引きまで言い出してくる始末です。

そんなプロジェクトでしたが、Yさんは、直接クライアントに出向いて打合せをしていました。

たまにうちの会社まで訪問してきて、私たちと会議した時にも、あまり良い印象は受けなかったのですが、

同席したことのある人の話だと、クライアントの社内でやる打合せだと、余計に上から目線で嫌な態度だと聞いています。

Yさんは次第に精神的に参って来ていました。

無理して気丈に振る舞っているようでしたが、見るからに顔からは生気が失せて、目は充血して虚ろ。

かなり疲れて居る様子でした。

数ヶ月して、Yさんに異常な言動が出てきました。

自分が見ただけでも、

ジュースの自販機に、金も入れてないのに全部のボタンを延々と押して、ニコニコ嬉しそうにしていました。

仕事中にいきなり、顔をブルブル震わせて、カッと目を見開いて一点を見つめていました。

急に「あー!」と叫んで頬を掻きむしり、血が滲むぐらい爪で引っ掻いていました。

他の人の目撃情報では

トイレで用を足していたら、個室から「ひゅうおおー!」と明らかにYさんだとわかる奇声がしたという人。

同じエレベーターに乗った時、ぶち切れたようにボタンを思いっきりパンチして押していたという人。

階段の踊り場から、下に向かって唾を垂らして、命中させてるような遊びをしてるのを見たという人。

他にも色々な話を見聞きしました。

プロジェクト内で会議している時も、話を全然聞いていないというか、頭にまったく入っていない感じで、

机に頬杖を突いて、口を半開きにしてぼーっとしています。

しまいには、遅刻ばかりしてくるようになりました。

とうとうある日、Yさんはうちの会社から契約を切られました。

課長曰く「会社の一員としての自覚に欠けている。ああいう性格だから、いい歳して派遣なんだろう。」

課長の言いたいこともわかるけど、色々と辛い思いをして疲れちゃったんだろうなと、ちょっと同僚の間でも同情論が多かったです。

数ヶ月後、昼休みに近くのコンビニで弁当を買って戻る途中、道路にYさんの姿が見えました。

うつむき加減で、とぼとぼ歩いています。

髪は手入れを全然してないような状態で、服装もだらしない格好でした。

とても話し掛けられるような雰囲気でもなく、うちとの契約末期があんな状態だったので、申し訳ないけど声を掛けないでそのまま戻りました。

それから2,3日で同僚達も、会社の周囲でYさんを見たという話があちこちから上がりました。

誰かが課長に言ったらしく、課長は今も取引が続いていたYさんの自社へ、別件ついでにYさんの事も尋ねてみたそうです。

その回答は

「彼は既に退職しました。」

え?辞めちゃったの?

なんでうちの周りをうろついているんだろうと、みんな困惑しました。

その内、廊下でYさんを見たという人まで現れました。

更に、別な同僚も、Yさんと会社の入居してる階のトイレですれ違ったと言い出しました。

ちなみに、うちの会社は自社ビルではなく、ちょっと古いテナントビルを数フロア借りて入居している関係上、

夜間はともかく、昼間は誰でも外部から入れます。

既に部外者となったYさんが無断で立ち入るのは、法律に触れますので、度が過ぎると警察に通報も…。

そして先週、私もYさんを目撃しました。

夕方近くに1階に設置されている銀行ATMでお金をおろした後、廊下を歩いていたら、あのYさんの姿が…。

疲れ切った表情で、うつむいた状態のまま何も喋らず、私の脇をすれ違いました。

すれ違って数歩くらいして、何となく振り向いたら、こちらを一瞬振り向いてニヤリとし、失礼ですが身震いしました。

半ば世捨て人という感じで、なんだか話が一切通じなさそうなオーラが漂っていました。

ホラーではないですが、怖い体験ということで投稿しました。

長々とすみません。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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