中編3
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『音』

何やら騒がしい。そう思い、私はベッドから身を起こした。

また上の階の住人か。いい加減にしてくれ‥。そう思い、また眠りにつこうと身を横に倒した。

これは、私が新生活を始めて間もないときの出来事である。

私は就職のために上京し、一人暮らしをはじめた。職業柄、私生活を見られたくないせいもあってか、職場から少し離れたところにアパートを借りた。一階の角部屋で、何より広いのが気に入った。

ただ、近くには俗に言う『猫屋敷』なるものがあり、野良猫をよく見かける。周りにもコンビニとスーパーぐらいしかないのだが、それらを差し引いても住むことを決めるのには十分であった。

そこから三ヶ月ほど後、この出来事が起こったのであった。

見を横にしたのだが寝苦しく、まだ何やらドタバタと騒がしい。

上の住人はしょっちゅう夜中に友達を連れ込んでいるようで、天井が薄いせいもあってか、足音が非情に耳障りである。ある程度慣れはしたが、少しは気を使ってほしいものだ。

いつの間にかエアコンのスイッチがオフになり、部屋がやけに生暖かいことに気がつく。喉も渇いていた。

これじゃ眠れない、そう思い枕元の飲み物に手を伸ばす。寝ぼけた頭のもやが晴れ、視点が定まる。時計を見ると、もう3時を回っていた。

変な時間に起きてしまった。いつもなら疲れて朝まで目が覚めないはずなのに。聞こえてくる『ドン、ドンっ』という足音に嫌気がさし、隣の居間でタバコに火をつける。これで寝付けなくなったりしないだろうか‥。

そんな心配をしながら、再びベッドに戻ろうとした時であった。

異変に気がついたのは‥

さっき飲んだはずの飲み物が倒れていた。スタンドミラーも倒れ、雑誌も床にばらまかれている。

なんだ?地震か?

なら気がつかないわけ‥

『ドドンッ!!』

身体がビクッとなり、硬直した。それと同時に本棚から床に雑誌が落ちた。

おかしい‥そんな‥!!どうして気がつかなかった‥!!

音は明かに床の『下』から聞こえた。まるで床を下から殴る音。それもかなり大きい。じゃなきゃ、目の前の説明がつかない。

硬直した身体が否応なしに神経を研ぎ澄ます。

部屋の窓から一瞬、猫の姿が見えた。さらに激しく威嚇する声が聞こえてくる。それも何匹も‥。

その猫が威嚇する声に混じり、

『グゥゥ‥アオォ‥!』

と、まるで何かに埋もれた中から聞こえてくる、くぐもった音。いや、声なのか?

今まで猫がこんなにアパート周りに集まるのは見たことがない。さらに部屋から異様な威圧感を感じて動けないでいた。

『ドン!!!‥ドドン!!!!!』

恐怖からか音がより一層大きく感じる。身体は硬直したまま動かず、思考は混乱している。

何が起きている?逃げたい。動かない‥!!

嫌だ‥。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ‥!!

どのくらいの時が経っただろうか‥。いつの間にか、朝を迎えていた。

音は止み、猫の姿もない。

終わっ‥た?

恐怖から解放されたことで、私はその場に崩れ落ちた。その時、ベッドの向かいにあるテーブル下の床が歪んでいることに初めて気がついた。

後になってわかったことだが、アパート周辺で猫の死体が複数発見されたらしい。さらにあの日、多くの猫の声を聞いたとすぐ隣の住民から教えてもらった。

あの時の出来事はいったいなんだったのだろうか。普段からよく聞いていた足音は、本当に上の住人の足音だったのか。

引っ越した今となってはわからないが、

あの日の出来事は今も忘れることができない‥。

最後まで読んで頂けたこと、心から感謝致します。

怖い話投稿:ホラーテラー ハーモニカさん   

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