中編4
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動物園(半径)

気づくと私は靄の中にいた

私はまるで何か絶望的な宣告を受ける患者みたいに

うなだれる様な形でベンチに座っている

ふと、遠くから男が歩いてくるのが見えた

男はゆっくり、それでいて確かな足取りで私のほうに向かってくる

男は不思議な微笑みを浮かべていた

私は何故か落ち着き払った様子でそれを待ち構え

男が近くまで来ると

「隣…いいですよ」

男が話しかけるより先に声をかけた

男は少し驚いた顔をしたが

すぐにまた顔に微笑みを浮かべ、私の隣に腰を下ろした

「あなたは、ひょっとして不思議能力をお持ちじゃありませんか?

 たとえば未来が見えるといったような…」

「はい」

私は短く答えた…

私が自分に不思議な能力があると知ったのは

小学校上がってすぐのことだった

予知能力というべきなのだろうか?

なんとなく未来が見えるというその能力に

私は始め戸惑った

それは言葉にすることのできない不思議な感覚で

これから起こる全ての事が分かるわけではないのだが

自他問わず、その人に今後起こる重大なことがある程度見えた

その能力を自覚した当初は自分でもコントロール出来ずにいた為

時折変なことをいう私を周りの大人や、友人たちは気味悪がったが

それを意識するにはその当時の私は幼すぎた

やがて、小学校を卒業し中学校に上がった私は

思春期を迎え好きな男の子が出来たのをきっかけに

自分の能力をコントロールするように心がけるようになった

始めはうまく出来なかったが

私は努力をあきらめなかった

やがてそれは功を奏し自分が見たい時にだけ

見たい人の未来が見えるようになった

私は大学を卒業後

親の反対を押し切り

占い師となるため地方から東京に出た

我ながら短絡的と自分でも思ったが

この能力を持ってしまった者としてはまさに天職と思われたからだ

占いを生業として生きていく中で

私は自分の能力について、それまで以上に真剣に向きあった

見ようと思って見える未来、

見ようと思っても見れない未来

その的中率

自分の能力に対してあらゆる分析を行った

その結果私は一つの仮定を立てた

私が見ることが出来る未来は

“その時点で確定した未来”なのではないか?

という事だ

たとえば一度見ようとして見れなかった未来も

暫くして、もう一度見ようとすると見えたりすることがあった

そして、それは今のところ100%の確率で的中した

私は大学時代に習った「シュヴァルツシルト半径」

という言葉を思い出した

大雑把に言うとそれは

ブラックホールに対して近づいた時に

光すら脱出することが出来なくなる地点のことであり

逆に言うとその地点内にあるものはどんな運動状態であろうと

その地点から逃れることが出来ないというものだ

つまり私の予知能力とは

未来においてそれが決して避けることができなくなった時点で働くものであり

少し恰好をつけて言えばそれは人が「運命」と呼ぶようなものではないか

そう思うようになったのだ

私はそれ以来、客に対して

それがどんなに残酷で不幸なことであろうと

それは回避不可能で、受け入れる努力をするように

と言葉を付け加えたうえで、見た結果を告げるようになった…

「やはりそうでしたか」

男は微笑みを崩さずに言葉をつづけた

「いや、非常に稀なケースではあるんですがね

 時折あなたのような方が来るのですよ

 という事はあなたは

 自分がすでに死んでいる事、

 ここが地獄である事、

 そして自分が罪を犯した事も解っていらっしゃるんですね」

「はい、私は罪深いことをしました

 それは×××××××××××××××××××××した事です」

私は自分でもよく解らないことを言った

なにかしらの違和感を感じたが

その時はそれがなんなのか自分でも良く解らなかった

「そうですか…では、すでに知ってるかもしれませんが

 一応仕事なので言いますね

 私はこの動物園の園長でして

 あなたが最初に受ける罰はあれです」

男が指差した方向には『猿』とだけ書かれたプレートがかけられている檻があった

檻の中には高さ3mぐらいの所に鉄パイプが通してあり

そこに人が逆さまに吊るされている

どのくらい長い時間吊るされているのだろうか?

その人たちの顔は鬱血しており、猿の様に真っ赤になっている

檻の中からはか細い呻き声が聞こえる

私はさすがに少したじろいだ様だったが

「覚悟はできています…」

とすぐに答えた

「そうですかでは、では参りましょう」

園長と名乗った男はそう言うとベンチから立つ様に促すと

私を連れて行った……

目覚めると私は自室の布団の中にいた

汗をびっしょりかいていた…

窓から漏れる朝日を浴びながら私はすべてを理解した

今、私が見たのは自分の未来であり

そしてこれから何かわからないが自分が罪を犯すことを

そして、そのことについて死後地獄で罰を受けるであろうことを

ふと、考える

もし仮に、私の能力に対する仮説が間違えていたらどうだろう?

私が見えて居る未来は複数ある未来のうち可能性の高いものの一つだとしたら…

私はこの未来は変えられるのではないだろうか?

しかし、その場合私が今まで占いをしてきた客に対してどうなるのだろう

人にはそれを受け入れろと言っておきながら

いざ自分の事になると言ってる事とやっている事が逆になる

それは嘘をついて来たことにならないのだろうか

そして、それはまた新たな罪になるのではないだろうか?

かといって、このままでは私は何らかの罪を犯す…

私は部屋に差し込んでいる陽光とは裏腹に

これから先に待ち構えている暗い未来に絶望を感じた

私は既に半径に囚われてしまったのだろうか…

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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