中編3
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プロローグ

日本から帰国したセシル=ブラッドレイを先ず出迎えたのは、メリッサではなく、大勢の報道陣だった。

謎の地震から壊滅を遂げた日本については、全世界で様々なニュースが飛び交い、その中には未確認生物の存在を示唆しているような記事もあった。

その後軍から正式にビシュラの存在が発表されると、連日マスコミがその未確認生物について取り上げた。

そして帰国後、セシルの授業には生徒だけではなく、外部の人間までもが集まっていた。

授業が始まると、真っ先に上がったのがやはり日本での出来事についてだった。

「教授、ぜひ教授自身の『ビシュラ』に対する考察を伺いたいのですが」

そう言って手を挙げたのは、顔なじみのアジア人学生だった。

「・・・・これは、諸君、あくまで仮説にすぎない。

ゆえに私がここで発言したことについて、その真偽について議論するのも、どんな決断を下すかも個人の裁量に一任したい。

予めそのことを断ったうえで、説明に入ろうと思う。

今回確認された未確認生物は、突然湧いて出てきたわけではない。

いや、むしろ、我々の日常の中にいたのだ」

「??」

会場内がざわつく。

「我々の認識の上で、種族の進化は、種族の繁栄という目的のもと、染色体の打ちたてたコンセプトによって、半ば偶発的に、そして時に意図的に進められる。

しかし私はここで、新たな仮説を打ち立てる。

この星に生きる全ての生命は、互いの個体数の増減を調節し、その均衡こそを保つことこそが目的であるのだと。

故に異なる種族間においても、意図せぬうちに互いの進化・あるいは退化を操作している、と私は考えている。

これにより私達の日常は、私達自身を定義し、また日常も自らの定義の範疇を越えることはできない。

しかし今回、巨大な営力により、彼らは『選択』を強いられた」

そこでセシルは脇にあった椅子に腰かけた。

少しして、黒人の女子生徒が挙手した。

「教授、その『選択』とは?」

「・・・・進化か、死だ。

今回の急激な環境の変化によって、普段表層下において緻密な連携を取り合っていた彼等の『内部コード』は、スタンドアローンな存在として振る舞わねばならなかった。

そして彼等は、各々の裁量によって、進化の究極系を選んだ。

しかしこれはその場しのぎに過ぎず、彼らのサイクルには多くの不整合が生じた。

恐らく我々調査隊が殲滅しようがしまいが、彼等の営みは終局を迎えるはずだったんだ」

言い終えたセシルに注がれた視線は授業が始まる前とは明らかに異質なものとなっていた。

ある者は狂人を見るような眼で冷笑し、

またある者はその秘術めいたその問答に一種の魅力を覚えずにはいられないのであった。

そして一人の生徒が手を挙げた。

「これは教授の仮説に異議を申し立てるわけでも、その反対でもありません。

ただ一つの疑問として、どうして人間は『進化』を選択しなかったのですか?」

今までセシルに注がれていた視線が、その男子生徒に注がれた。

「いい質問だ。答えはいたってシンプルだ。

・・・・人間は、すでに覚醒した生物なんだ」

ホモ・サピエンス。

際限なき進化の果ての姿。

そして、ある局面で、それは破滅を意味する。

怖い話投稿:ホラーテラー プロジェクトオカズさん  

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