中編3
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本気の数珠

これは数年前のお盆直後に体験した話です。

私にはTという非常に運の良い友人がいます。

運が良いというのは宝くじや懸賞に当たったりというものではなく、本来はTが体験すべき現象がことごとく周りにふりかかるというものです。

そんな友人を持つ私は例にもれず、とばっちりを食らった…そんな体験でした。

『今日実家から帰ってきたのー。そう、毎年恒例の。うん、お墓参りちゃんと行ってきたよ。でね、お土産あるから週末泊まりに来て。』

Tからの電話を受け一瞬考えてしまいました。

…お盆直後。

…相手はT。

…うわ、嫌な予感しかしない。

『お、おかえりー。週末?もう一週間後じゃダメかな?』

『なんで?いいじゃん。お土産ナマモノだから早く来ないと腐っちゃうよ?じゃ、金曜日仕事終わったら集合ねっ。』

『わー楽しみー。』

と半ば棒読みになってしまったものの、週末お泊まりが決定しました。

ピンポーン

『いらっしゃーい♪久しぶりだねっ。入って。』

『ほんとだね。お邪魔しまーす。』

…と、ドアを閉めようとするTの腕にあるものがはめられていました。

数珠…

しかも、なんていうのでしょうかファッションでつけるようなものではなく法事等、きちんとした時に用いる本気の(?)数珠です。

見るからに普段つけていいはずがないような数珠を、こともあろうかTがつけている…。

(ダメだ…帰りたい。)

やはり嫌な予感的中、がしかし後悔しても時すでに遅く、今考えるとこの時点で私はロックオンされていたのです。

夜、いい時間になり『そろそろ寝よう』とT。

今のところ何もない…。このまま無事に朝が迎えられますように。と祈る気持ちで寝る準備をしました。

『暑いからクーラーつけっぱなしにしよっか、後私相変わらずイビキと寝相の悪さ治ってないからね。』

と言いながらTは既にウトウト。私はソファーで寝ることにしました。

…あっT、数珠外してない。と思いつつお酒も入っていたのでそのまま眠りについてしまいました。

数時間後、やけに暑苦しくて目が覚めました。

と同時に体がズンと重くなり身動きがとれなくなりました。

(え…何これ…)

声も出せず唯一動く目をキョロキョロ、その時ふと気付いたのがやけに静か…クーラーが切れてることに気付きました。それにTがおとなしい…。

私のいたソファーから右斜め直線に玄関があるのですが2回程、ガチャガチャと音がしました。

(やばい…)

暗闇の中、目を凝らして玄関を見ているとスーッと薄い女性が入ってきました。

(わーわー無理無理無理っ)

半泣き状態でした。

すると止まっていたその女性がこちらにゆっくり移動してきたのです。

いまだに体は動かない声も出ない状態の私、そんなことはおかまいなしに私に近付く女性…。

うつむき加減で歩いてきた女性が手を伸ばし、顔をあげようとしていました。

もうダメだ。と思った瞬間でした。

ブチッ

と遠のきかけた意識の中、音がしました。

するとフッと体が軽くなりクーラー、Tのイビキが再始動。

(はぁ、助かった。)

すぐTを叩き起こしました。

『?何〜?眠いよ…どしたの?』

とポカーンとしているTに事情を説明している時に、

『あっ!!数珠…切れてるよ。どうしよ…お母さんに怒られる。』

怒られるでしょ、そりゃ。と思っていたら更にTが

『これは神聖なものだから普段つけちゃダメだって言われてたの…引きつけることもあるからって。でもデザイン可愛いから内緒で実家から持って帰ってきたの。』

…まさしく引きつけたようですね。

ただ守ってくれたのも事実ではありますけど。

なぜ私にきたのかはわかりませんがTのお母さんの代わりに私がこっぴどく叱りました。

ただかなり怖かったので半泣きでしたが。

彼女に悪気はないので仕方ないのですがよっぽど強いものに守られているようです。

その後彼女には普通につけられるデザインの可愛いブレスレットを誕生日に渡しました。

思ったより長文になってしまいました。長々とお付き合いくださりありがとうございました。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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