短編2
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病院へ

1年程前だったと思います。

私は残業で遅くなり、夜道を車で走っていました。

眠くてぼんやりしていましたが、突然ヘッドライトに照らし出された人影には、すぐに気がつきました。

家から車の正面に、男性がとび出してきたのです。

イライラしていたこともあり、文句を言ってやろうと窓を開けました。

「ちょっとあんた、危ないじゃないの!」

「すみません、○○病院へ連れて行ってくれませんか?妻が大変なんです!」

私の文句など気にも留めず、彼は必死の形相でそう言いました。

あまりのことに呆然としていると、男性の後ろから妊婦が現れました。

苦痛に顔を歪ませ、夫にしがみつく姿が忘れられません。

病院は家とは反対方向だったし、はやく帰りたかったので、「救急車を呼べばいいんじゃないですか?」と言いました。

しかし男性は「だめなんです」と言い、必死に頭を下げてきました。

さすがにことわりきれず、彼らを乗せて病院へ向かいました。

「着きましたよ」

言いながら振り返り、目を疑いました。

彼らはそこにいなかったのです。

慌てて辺りを探しましたが、見つかりませんでした。

諦めて家へ帰るため、エンジンをかけた瞬間、あの男性の声が聞こえました。

「ありがとう」と。

後日、私は彼らに会った場所へ行きました。

あの家のチャイムを鳴らすと、老婦人が怪訝そうに戸を開けました。

私が事情を話すと、みるみるうちに彼女の顔色が変わり、泣き出してしまいました。

彼女は私を家に招き入れ、すべてを話してくれました。

私が出会ったのは、老婦人の娘であり、彼女は産気づいた状態で夫と共に救急車に乗ったそうです。

そしてその救急車にトラックが衝突し、二人は亡くなりました。

赤ん坊を身籠ったまま。

「やっと、赤ちゃんが産めたんだねえ」

老婦人の言葉に、私は泣きそうになりました。

そのとき私の耳に、元気な赤ん坊の声が届きました。

怖い話投稿:ホラーテラー 藍さん  

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