長編9
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千本鳥居 壱

■シリーズ1 2 3 4 5

中年男の昔話である。必要以上に長い。

長文が苦手な方はスルーをお願いする。

もし読んでいただけるなら、片手に白ワインか、オンザロックでも持って読んでいただければと思う。

未成年の方は……梅ジュースあたりか?

とにかく時間が余っているときに読んでいただければ幸いである。

今から約20年前、小学校4年までいた町での、ある夏の日の話だ。

通学路の通りから少し離れた所の山に、稲荷神社があった。

夏の祭りはここで行い、年末のどんど焼き、年始の初詣も多くの人が集う。

地域では有名なところだ。

駐車場から上り坂の参拝道を抜け、境内に至る。

その奥に、さらに急な坂があり、赤い鳥居がたくさんある道(消防の俺たちは勝手に「千本鳥居」と呼んでいた)を抜けると、山頂近くに注連縄を張った岩がある。

多分これが神社の本体なのだろう。

実はその手前に脇道があり、そこだけ鳥居の色が白く変わる。

白く染まった鳥居の列の先に行くと、お堂のような小さな社があった。

その前はちょっとした広場になっており、子供には格好の遊び場だった。

だが、その場所への子供だけの立ち入りは禁止されていた。

数年前だが、隣学区の子供が神社へ遊びに行き、そのまま消息を絶っていた。

そしてそれと前後して、社の周りで、人魂が出るという噂が流れた。

『人魂を見たものは、行方不明になった子供に地獄に連れて行かれる』という話。

俺たちの学校でも広がっていた。

「神社の奥には大人と一緒でないと行ってはいけません」

学校の朝礼でも言われ、親からも言われていた俺の仲間たちは…

仲間たちは……

俺「お、おー!すっげえ、ボール曲った!ほんとに曲った!」

博「カーブだぜ、これ。投げれるようになった」

俺「すっげえ!な、洋。みたよな、今?」

洋「見た。大したことない。打てる」

俺「嘘つけって!出来ない、マジ絶対無理!」

俺、博、洋の三人は、今日も例の社の広場で野球ごっこをやって遊んでいた。

去年ぐらいから、授業後、ここで週一ぐらいの頻度でたまっていた。

(結構坂道を登るのがしんどいので、そうそう毎日は来ない)

ちょっとした子供だけの秘密の場所、そんなこの場所は、俺達男子の一部には人気があった。

今年の後期からは部活が本格的に始まり、俺はサッカー、博はバレー、洋はバスケと、違う部活を選択していたので、これまでのようには集まれなくなるかもしれない。

そんなことを考えてか考えずか、俺たちは最近は特に張り切って、授業後の時間を楽しもうとしていた。

それと社の広場に俺たちがたまるのは、もう一つ秘かな理由があった。

「やっほー。お菓子持って来たよ」

多分神社の子なのだろう。中学生ぐらいだと思うが、俺たちより少し年上の女の子が、たまに遊びに来るのだ。

この娘が持ってくるお菓子は、そこらのビスコやポテチとはものが違う。

俺はここで「こしあん」の存在を知った。

俺たちは野球ごっこをやめ、マコ、と名乗るこの子の周りに集まった。

しばし雑談。祠の石段に腰かけて、もらったお菓子をほおばる。

社の前には狛犬の代わりに狐の石像があり、マコはそこにもたれかかっていた。

 

洋「な、マコ。奥に池あるじゃん?」

社の広場からさらに奥に5分ぐらい、ほとんど獣道の道を進むと、沼ともつかない池に出る。

マ「うん」

洋「あそこって、魚釣れるの?」

マ「う~ん。どうかなあ?」

博「なに?お前、釣りやるの?」

洋「バス釣り。最近おじさんにね、教えてもらったんだ」

俺「なに?バスって何?」

洋「ブラックバス。黒いフナみたいな魚」

博「食えるの?それ」

洋「食えるけど、泥臭くって、そのままじゃまずい。泥を吐かせんと…」

マ「こおーら!こういうところで生き物を殺しちゃ駄目!」

マコが腰に手をあてて話を止めた。

ちなみにマコが俺たちをたしなめる時に使う「こおーら」は、俺たちの中の流行語大賞だった。

「こおーら」をいうときマコの髪を結んでいる赤い飾りが少し揺れるのが、俺はなぜか好きだった。

洋「わかったわかった。大丈夫。釣るだけでも面白いから。殺さないって。

な、博、昌(俺の仮名)、ちょっと行ってみないか?」

別に断る理由はない。俺達3人は、マコに別れを告げると、池に向かって歩いた。

池はどれ位の大きさというのだろうか?子供のスケール感だが、大体校庭の半分ぐらい。

柵も何もなく、足元がじゅくじゅくしてくる。一歩踏み込むと蛙がダッシュで逃げる。

昼間はなんてことないが、日が落ちてくるとかなり雰囲気があるだろう。

生き物の気配はたくさんするが、ブラックバスなんてかっこいい名前の魚がいる感じではなかった。

洋「なあ、博、昌」

池に小石をぽちゃんぽちゃん投げながら、洋が俺達を呼んだ。

声の感じが思いつめている。

俺「ん?」

博「どしたん?」

洋「俺、両親に愛されていない気がする」

???…俺と博は二人で顔を見合わせた。

意味がわからない。「両親に愛される」って、なに?

俺「なにいってんの?」

洋「いや、きっと俺の親は、俺の親であって親じゃないんだ。

きっと俺は橋の下かなんかで赤ん坊の時に拾われたんだ。

俺の親はいままでかわいそうな俺を同情でかわいがってきた。

でもだんだん手に余るようになって、とうとう愛想が尽きてきたんだ。

きっとそうだ。そうとしか考えられないんだ。

俺は愛されていないんだよ!」

大人になって知ったのだが、子供は大なり小なり、自分の「親」もしくは「親の愛情」を疑う時期があるらしい。

洋は、それが「かなり大」の子供だったのではなかったか、と思われる。

だが当時の俺はそんなことわかるはずもない。

自分が親に愛されているかどうかなんて考えたこともない。

わかるのは、洋がいつにもまして真剣だということだけだった。

洋は「自分が本当に親に愛されているのか確かめたい」といった。

そしてそのための方法を考えていた。

洋「俺は今度の土曜日に家出する」

洋が続ける。

洋「そして両親がどういう行動を取るのかを見たいんだ。なあ、博、昌。俺は親に隠れて過ごすから、飯を持ってきてくれないか?

できたら、その時俺のうちに何も知らないふりをして遊びに来てくれ。親が本当の親なら心配しているし、そうでなかったらとぼけるはずだ」

それを見届けたら、日曜日中に家に帰り、月曜からの授業に間に合わせる、というものだ。

いまでいう「プチ家出」というやつだ(もう言わないか?)。

だが当時そんな言葉も概念もなく、家出、とはすなわち親との縁を切って文字通り家を出ることであり、大事件だった。

博「隠れるって、どこに?」

洋「いろいろ考えたんだが、さっきの稲荷の社なんかいいんじゃないかと思う。あそこなら大人も来ないし」

俺「えー、夜はあそこはダメだろ!」

博「呪われるっていうもんな。人が死んだって言うし」

洋「死んでない。行方不明なだけだ。

夜の森は確かに迷子になるかもしれないけど、あそこで寝てる分にはまあいいって」

それからいろいろ説得したが、洋の決意は固いようだった。

それに、なにか秘密の計画に加わっている、ちょっとしたワクワク感があったのも事実だった。

最後には、土曜俺が夕食を持ってくること、日曜朝に博が朝食を持ってくること。で計画を進めることが決まっていた。

帰り際、社に向けて歩いていると、

和尚「おーい。お前ら、何やっている?」

向こうから森の反対側にある寺の和尚が歩いてきた。

麦わら帽に、肩から籠を下げている。

和尚「親御さんはいないのか?だめだぞ。子供だけでこんなところに来ちゃ」

俺「あ、はい。すぐ帰ります」

和尚「人魂が出るんだからな。人魂が」

俺「はい、すいませーん」

俺たちは急いで帰る、ふりをした。

「あの籠、絶対魚か鳥を捕ってるよな」

そんな噂をしながら、その日は帰った。

そして土曜日がやってきた。

当日はなぜか俺も緊張していて、いつも以上に授業の話は頭に入っては来なかった。

土曜日は午前中で授業が終わる。

家に帰って12:30頃。

両親は共働きで、夜まで帰っては来ない。

昼飯を食い終わって、親が夕飯用に作り置きしてあるおでん(季節無視!)、ほうれんそうのお浸し、日の丸ご飯をタッパーにつめ、お茶を水筒に入れると、千本鳥居の奥に向かった。

約束の時間は18時だったが、15時頃には社についていた。

社の中からこちらの様子に気がついたのだろう。

洋「よお。早いじゃん」

とかいいながら、洋が祠の格子戸をあける。

俺もばれないように早速社の中に入った。

社は人が3,4人ぐらい入っても十分な広さをもっていた。

奥のほうに、更にご神体なのだろう。小さな神棚みたいなものが硝子戸の向こうに祭ってある。

洋に言われて、とりあえず神棚に2礼2拍手1礼をした。

薄暗い社から外を見ると、広場は白く輝いている。

タッパーを渡し、洋と雑談した。

俺「今日はどんな感じ?黙って家でてきたん?」

洋「一応置手紙書いてきた。『家出します。探さないでください』って書いてある」

俺「いいねえ。本格的」

非日常的な雰囲気がそうさせるのだろうか?いつもより会話が弾む。

別に社に籠っている必要もないのだが、マコや、クラスの奴らに出会ったら、それはそれで面倒な感じなので、俺たちは社で過ごした。

教師への愚痴、とっておきのファミコンの裏ワザ、好きな女の話、将来の夢……

たわいないが、俺達にだけは真剣な話…

修学旅行の夜の感じなんだろうか。俺と洋は飽きることもなく話し続けた。

いつしかあたりは日が落ちかけ、互いの顔が薄青くなっている。

懐中電灯を点け、外に光が漏れないように床に押し付ける。

(後から考えたらバレバレだが、それが精いっぱいの知恵だった)

20時を過ぎると親が帰ってくる。

その状態で19時過ぎまで話したあと、俺は家に帰ることにした。

外はけっこう暗い。駐車場まで本堂以外は外灯なんてものはないから、懐中電灯がないと、暗くてとても歩けない。

洋「俺も駐車場のトイレ行くわ」

ちなみに神社には駐車場に公衆トイレがあった。さすがに「大」はそこでしかやりにくいだろう。

二人で夜の千本鳥居をくぐる。

祭りでない日の夜は初めてだった。

木々にさえぎられ、星々の光は多くは地上までは届かない。

懐中電灯に照らされる道は細く、浮かび上がる白い鳥居は動物の骨を連想させた。

バッタなのか蛙なのか蝉なのか、小動物の大合唱が辺りを包んでいる。

俺たちは、いや人間はここでは異端者だった。

圧倒的な「夜」の世界がそこにはあった。

急速に、体が緊張していくのを感じた。

なにか冗談でも言いあわないと、キツイな…。俺はそう思って後ろの洋を振り返った。

(あれ?)

洋の懐中電灯が止まっている。

いや、足も止まっているようだった。すぐ後ろを歩いていたはずなのに、5mぐらい離れている。

俺「どうした?」

洋のところまで戻り、話しかけた。

洋は前方をみつめたまま、一歩も動かずにいる。

というより、固まって動けないように見えた。

洋「あれ…」

洋の懐中電灯が一点を照らす。その先に、ちらちらと、青白く光る何か揺れている。

(なんだろう。提灯か何か?)

違う。そんなものではない。

そんなものではないことをうすうす感じながら、頭の中が目の前の光が何か、探し出そうとしている。

そこにあっておかしくないものであることを認識し、頭が心を安心させようとしているのだろう。

そんな気持ちをあざ笑うように、光がゆっくりと動き出した。

光が二つに分かれ、こちらに向けて、揺らめくように進んでくる。

小動物の合唱の音が消えていく気がした。

光…、いや、違う。火だ。それは、火だ。

青白い火が二つ、てんでばらばらにふわふわと飛んでいる。

いままで見知ったものの中で、こんな動きをするものはなかった。

もし、そんなものがあるとすれば……

         『人魂』

頭の中で、ついにその言葉が浮かんだ。

全身の毛が立ち上がるのを感じた。

音など感じなかったが、自分の顔のあたりでカチカチいっているのに気づいた。

自分の歯が震えて鳴っているらしかった。

その火は、既に目の前、7,8mぐらいを浮かんでいる。

俺は、信じられない思いで固まったままそれを見つめていた。

もう見間違いようもない。それは人魂だ。

噂は、本当だったのだ。

■シリーズ1 2 3 4 5

怖い話投稿:ホラーテラー 修行者さん  

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