短編2
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背を押したのは・・・

何年か前、土砂崩れに遭った。

趣味で何年も登山してるけど、あの時が初めての経験だ。

とは言っても、一人で登ったのは初めてだった。

それまではチャコって柴犬が一緒だったが、少し前に病気で死んだ。

土砂崩れの死者は出ず、負傷者も俺だけだった。

「足を挫いちまうとは、災難だったなあ。ま、命があってなによりだ。」

救助隊のおっさんはそう言った。

まったくそのとおりだ。

だって俺は死んでたはずだから。

土砂崩れが起きたとき、俺はその真下にいた。

当然、でかい岩も降ってくる。

その一つが、俺の真上から落ちてきた。

あー、こりゃ死んだなと思った。

怖くて動けなくて、ただぼうっと岩だけ見てた。

そしたら・・・

ドンッて、誰かが俺の背中を押したんだ。

すごい勢いで、俺は前のめりに転がった。

そのまま坂を転がり落ちて、いつの間にか土砂崩れの現場から離れてた。

救助隊に発見されるまで、俺はその場にうずくまってた。

あれは誰だったんだろう。

あの場には俺しかいなかったはずだ。

ぼんやり考えてると、さっきのおっさんが近づいてきた。

「これ、運んだとき俺の服にひっかかってたんだよ。あんたのだろ?」

そう言って渡されたのは、チャコの首輪だった。

持ってきた覚えはない。

ここにあるはずはないのに。

ここにいるはずはないのに・・・

俺は登山を続けている。

あれ以来ずっと、チャコの首輪をカバンに入れて。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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