テレビでさっきから同じニュースばかりやっている。
『連続猟奇殺人事件』
このところこればっかだなあ…
「被害者の特徴として、20〜30代の女性ばかり。死因は首を絞められたことによる窒息死。そして…」
コメンテーターは被害者女性の左手の薬指が切り取られ、持ち去られ(もしくはどこかに捨てられ)ているらしいことを熱っぽく語っていた。
僕の住む隣町で起きたためか最近ひっきりなしにパトカーやら報道車やらを見る気がする。
その時携帯が鳴った。
「ああ、アキちゃん?どうしたの?」
「ユウくん今テレビ観てる?」
「観てるよ。連続殺人のやつだろ?」
彼女は同じ大学の「犯罪心理研究会」に入っているサークル仲間だ。まあ正直に言うと僕は彼女に仲間以上の…その、特別な感情を持っているんだけど。
「それで?またプロファイリング合戦でもやるの?」
僕は冗談めかして言ったつもり だったけど、彼女の口調は真剣だった。
「実はね。…こないだ、この事件について犯人像をみんなで推理したじゃない?」
「うん。プロファイリングのまね事みたいなやつね。」
「あの時の犯人像…覚えてる?」
「ああ…うーん、だいたいね。え ーと、まず年齢は30代後半から40代で独身。中肉中背でうだつがあがらない童貞サラリーマン…だったっけ(笑)」
「それに被害者の左手の薬指が切断されているところから、犯人は婚約していた恋人から裏切られた過去がある。」
彼女が付け加えた。
「 そうそう。テレビでも似たようなこと言ってたけどね。」
すると彼女が、不安そうに
「私のアパートのとなりの部屋にいるのよ…そんなかんじの人…」
と言ったので僕は思わず笑ってしまった。
「いくらなんでも考えすぎだよ!第一失礼じゃん。こっちが勝手に考えた犯人像にあてはめて犯罪者扱いなんて。童貞かもわからないし(笑)」
「でも一人暮らしよ。すれ違ってもあいさつもしないし、なんかいつもぶつぶつ言ってるし、気持ち悪いのよ。それと表に停めてある彼のバイク、婚約破棄されてその慰謝料で買ったって噂よ。しかもあの事件、この近くで起きてるし!」
彼女はだんだんヒステリックになってきた。
やれやれ犯罪心理なんてやってるから、変に思いこんじゃうんだよな。
僕は努めて冷静に言った。
「 確かにその男は女にモテないかもしれないし、人付き合いも悪いんだろうけど、だからといって犯人だとは限らないだろ?ちょっと変わった人ってだけだよ。婚約うんぬんもただの噂だし、第一恋人に裏切られたのなら、恋人だけ殺せばいいじゃないか。」
「そうだけど…」
「隣町で起きたからって近くに犯人が住んでるとは限らないし。」
「うん。」
「僕らがやったプロファイリングなんていい加減だよ。犯人が薬指を切り取ったのは、ただ女性の薬指が好きなだけなのかもしれない。それをしゃぶって楽しむ変態野郎なのかもしれない。」
「そんな人いるかしら」
「異常犯罪者の心理なんてそんなものだよ。普通の人にはわからない特別な感情を相手に持っている。」
「うん…そうかもね。でもやっぱり怖いわ。」
確かにこんな事件が続いて、隣にそんな男が住んでたら怖いだろう。何も起きてないから警察を呼ぶわけにもいかない。
でもこれは彼女とお近づきになるチャンスだと僕は思った。
「今から迎えに行くからドライブにでも行かない?そんな状態で部屋にいるのもいやだろ?」
「…そうね。気分転換にいいかも。」
「ホント!?じゃすぐ行くよ!」
やった!やっとデートにこぎつけた。
僕は電話切ると、車のキーを持って玄関に向かった。
…おっと忘れるところだった。僕はタンスの引き出しからいつも薬指を切り取るのに使っている小型のナイフを取り出しポケットに入れた。
うまくやらないと。僕は彼女に特別な感情を持っているからね。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話