台所で夕飯の支度をしていた時のこと。
「今日の晩飯なに?」と尋ねる声がした。
一瞬動きが止まってしまう。今この家には私以外いないよな…なんて思いつつ
「ごぼうと人参を肉巻きして焼いたやつとー、玉ねぎサラダに里芋の煮っころがし…、あとタコとキュウリの酢の物だよー」
とか呟いてみた。
なんらかの返しを期待したのに無反応。
なんだやっぱ空耳だ、とがっかり半分安堵半分。
さくさくと手を動かしながらついでにもう一品、とニラ卵スープを作って夕飯完成。
程なく彼が帰宅し、食卓を一見して一言
「あれ、一品多いじゃん」
(はい?)
聞き間違えかと思って確かめようにもさっさと着替えに行ってしまった。
ううんと唸りながらもお腹を空かせた様子の彼にとりあえずご飯を食べさせる。
あれこれと互いに今日あった事などを報告して、あらかた食べ終わる頃にそれとなく
「ねえ、さっきの一品多いとかってなに?」
と聞いてみた。
「あ?なにが」
芳しくない反応に多少イラッとなりながらも、帰宅直後の一言を説明すると、大真面目な顔をして
「俺そんな事言ったか」
とのたまった。
彼は時々妙に子供地味た悪戯をやらかすが、不可思議な現象の類は一切受け付けない超現実主義。
嘘を付いている感じでもない彼に内心おいおいと突っ込みながらも
「や、勘違いかも」
と引き下がった。
が、ベッドに入って眠りに落ちるまさにその直前。
「そういや昨日帰りの電車でうたた寝してさ、お前が晩飯作ってる夢みたんだわ」
欠伸を連発しながらも首を傾げている。
「なに作ってんのか聞いたあとで目が覚めたんだけど」
「メニューはなんだったのさ」
「あー…さっきと同じ?」
なぜ疑問形。ってかなんでそれを今思い出すんだ…。
「まあ、そんなこともあるわな」
いやないよ普通。
ツッコミ所満載でも思わず絶句する私をよそに、彼は超マイペースだった。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話