中編5
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死に神

命あるもの全てに終わりがくる。

永遠はない。

今から語る話は……

いや。

先ずは読んで頂こう。

平凡を絵に書いたような私の人生はそろそろ終わりに近づいているようだ。

身体の不調に気付いていたが忙しさを言い訳にして病院へは行かなかった。

とうとう身体は我慢の限界を超え私は職場で倒れた。

気付けば病院のベッドに管を沢山つけられて寝かされていた。

「よくもここまで我慢されていましたね。

さぞ辛かったでしょう」

中年の医師は事務的に話しかけてきた。

私は声が直ぐに出ない事に驚いたが喉に意識を集中して発した。

「あとどれ位で死ぬのですか?」

すると医師は無表情で答えた。

「もって1ヶ月です」

私は自分の担当医がこのようなドライな医師で良かったとしみじみ思った。

変に隠されたり同情じみたりされたくない。

淡々と話すこの医師に私は心を開いた。

「で、病名はなんですか?」

私が最も訊きたかった事を訊ねた。

医師は少しだけ顔を曇らせたように感じたが口を開いた。

「胃癌です。肺へ転移をしており…いや、ほぼ全身に癌は転移している状況です。どうしてこんなになるまで病院に来なかったのですか?」

医師は意外にも感情的に喋った。

私は短いため息をつくと

「早く病気が見つかっても寿命が少し延びるだけ…

私の命だ。

好きにしても良いでしょう」

医師は呆れた表情をしながらも優しく言った。

「とにかく痛みを緩和する事に重点を置いての療法を行います。

徐々に意識もぼやけてきます。話したい事があれば今のうちに話をしといたほうが良いと思います」

そう言うと医師は退室した。

さて、誰と話をしようか?

私は独身だし両親ももういない。

兄弟もいないし、親戚付き合いもない。

天涯孤独のこの私に誰と話をしろというのか。

こう考えると私の人生は寂しいように感じてきた。

私は病室の白い天井を見つめながら感傷的になっていた。

『コンコン』

私は無意識に「はい」と返事をした。

しかしドアから誰も入ってこない。

おかしい。

幻聴か?

『コンコン』

また聞こえる。

私は病室の窓に目を向けた。

そこには人の良さそうな初老の男が満面の笑顔で私にお辞儀をしていた。

私もお辞儀を返した。

すると窓を開けるでもなくスーッと私の横に来て再びお辞儀をするとにっこり笑った。

私はびっくりして言葉が出ないでいると、初老の男は笑いながら

「私は俗に言う死に神です。あなたをあの世までエスコートする役目を仰せつかって来ました。

どうぞ宜しくお願いします」

そう言うと頭を下げた。

「はぁ…お願いします」

私も頭を下げた。

「何かやり残している事や未練があることなどはありませんか?

あなたが今世を全うする日まで私がお手伝いをさせて頂きます。

何なりと仰って下さいませ」

突然言われても…さて困った。

「特にないです」

そう私が言うと死に神は不満そうな顔をして

「それは困ります。

私も仕事なので何かやらせて下さい」

食い下がる死に神。

「ん−…でも本当に思いつかないもので」

私も困った。

すると死に神は何かグッドアイデアが浮かんだ様子で早口で

「まだ死にたくない。とか?はいかがですか?」

滅茶苦茶だ。

死に神の本来の目的が完全に離脱している。

私は哀れみの表情で言った。

「それではあなたの仕事の意味が変わってくる。

いくら仕事をしたいと言ってもそれでは営業マンが売れないからと自分で商品を買うのと一緒じゃないですか?」

私は一気に喋った。

そのせいか少し息が苦しい。

「申し訳ないがその例えもちょっと違うように思いますが…

これはあなたに言ってはいけないことなのですがあなたが良い人なので申します」

何だか死に神が急にトーンが低くなり笑顔が消え言葉をためて切り出した。

「あなたの命はもうローソクの灯りが消えかけようとしている状態です。

しかし世の中には奇跡という事が稀にあるのはあなたも重々承知の事だと思います。

誰がみても死んだと思われるような大事故に遭いながら擦り傷だけだとか。

遭難して何週間も生き延びていたり。

これを人間は奇跡と言っていますが実は少し違うのです。

私たち死に神がもっている特権で死に際から完全生還をさせるのです。

あなたのように死が近づいた人には必ずや死に神がくるのではないのです。

むしろ逆で死に近づいている人を死なせない。

その目的で死に神はくるのです」

死に神は長い言葉を喋ると『どうだ』という感じで胸を張っていた。

「要は私は死なないということですか?」

私は頭の整理もままならない状態で訊いていた。

私があまりにも冷静なのがやや不満な様子が見受けられた死に神は少し仏頂面で

「そうです。しかしあまり嬉しくなさそうですね?」

「実は生に対して執着がないのです。

あなたも知っていると思いますが私は天涯孤独の身。

私が死んでも悲しんでくれる人はいません。

それにこんな身体になったのも自業自得です。

私はこのまま死を受け入れますのであなたはもっと生きるに相応しい人の所に行って下さい」

私は喋るのに疲れた。

目を閉じ眠ろうとした。

「あなたはほとほと欲の無い人だ。

やはりあなたにはまだこの世界で生きてもらおう。

あなたは選ばれた人間なのだから。

生きてこれから訪れる苦を乗り切って下さい。

もっと欲をもった頃あなたの本当の終わりがくると思います。

あなたはまだ死ぬわけにはいかない。

ではもう二度と逢うことはありませんがあなたのこれからの幸を願っています」

死に神は一礼すると消えた。

3日後私の担当医は病室に来て

「有り得ない。これを奇跡と言わずに何と言うのか。私も長い間医者をしているがこんな事が起こるなんて」

私の全身を侵していた癌細胞は綺麗になくなっていた。

勿論入院の必要もない為退院させられた。

私は病院からの帰り道これからの人生に何があるのか!?

そして生きる意味は!?

と考えながら家路についた。

死に神・・・・・

死に際の神様!!

死を救う神という事なのか!?

これが私が体験した不思議な話です。

皆さんはどう感じて頂けるだろうか?

怖い話投稿:ホラーテラー ナナさん  

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