前回、話したとおり俺は若い時に建築現場で職人をしていた。
その時に親方が教えてくれた話をしようと思う…。
親方は中学を卒業して直ぐに父親の仕事を一緒に始めた。『いつかは親父を越えて城を築き、一国の主になる。』そう心に決めて仕事を一生懸命、頑張った…。
そして、10年もしないうちに若い衆を集め、独立をして本当の意味で一国の主となった…。
…その現場をやる事となったのは親方が独立して丸一年を過ぎた頃だった。
高度経済成長も安定して、日本国民はある程度の生活が出来るまでになっていた。
その現場は監督の話によると、前の建物を取り壊す時・掘削作業の時に問題や事故があったらしい…。
取り壊す時に3人の作業員が重症となる事故…掘削作業の時には人骨が3体出て来た。
警察の話では掘削した深さから言って事件性は無く、相当昔の骨と判断されたそうだ。
それからも小さな事故は次々にあり、氏神様の神主に来てもらいお祓いしてもらった。
その時、神主がこの土地には蛇が憑いている。
良い事でもあり、悪い事でもある。と話していたそうだ…。
その土地は塀に囲まれた昔ながらの家があった。
しかし、道路が広がったり新しい道が造られたりして入口を変えなければいけなくなっていた。
親方が来た時は塀は無くなっており、入口は大通りに面している所に既に出来ていた。
監督がその入口に指を指し、『あの、入口にある少し大きめの石があるでしょ?神主の話だとあれはこの土地を守っている石碑だから、あれを動かしたり壊したりしないように気を付けてほしい…。』
ちょっと脅し気味に言われた…。
そして、翌日の荷取り。
順調に荷捌きをしていて、最後のトラックを待っていた。
その時だった…。
ドカァーーーン!!
と…4tトラックがあの石にぶつかったうえに、捲りあげてしまっていた。
それを見ていた監督は顔が見る見る青ざめて行き、『何やってんだよぉー!』と…叫んだ。
現場にいた全員が駆け寄った。そして…その石が捲りあがった跡を見て、全員が青ざめたそうだ…。
それは……何故か?
その石が捲りあがった穴から無数の蛇がウジャウジャ這い出て来ていた…。
『うわぁぁぁー!』
全員が蜘蛛の子を散らすように逃げた。
その直後、監督が意を決したように神主を呼びに行って来ると走りだした…。
入口から大通りに出たその時だった…。
キィィィーッ…バァァーン
走って来た車に監督は跳ね飛ばされたそうだ…。
直ぐに救急車を呼び、病院に行ったが即死だったらしい…。
それからは監督が言っていた神主に来てもらい、お祓いを、し直してもらおうと呼んだだが、その状態を見た神主が一言…。
『もう…手遅れかも?お祓いは致しますが…でも…皆さんも聞いた事があるかもしれませんが、蛇と言うのは執念深いモノでして…なるべくなら、これを最後に関わりたくないですねぇ…皆さんも出来る事なら、関わりを止めてほしい…。』
しかし…工期がある為、そういう訳にも行かず、なるべく早く終わらす事だけを親方は考えた。
石は取り敢えず元に戻し毎日、水と塩をお供えして安全祈願は欠かさなかった。
そのおかげか、親方達・現場の作業員には被害は無かった。
ただ…早く終わらせる為に夜まで作業をしていると人の気配や声が聞こえたりはしていたらしい。
『その中でも一番ビビったのは二階の間仕切りを立てていた時に上から蛇が落ちて来たのさ…。何処からともなくよ…。それもちょっとの数じゃねぇぞ…。
その時、パァンって灯光器が割れたんだ…そんでな、階段から人が上がって来たのが判ったから下で作業していた奴が心配して来たのかと思ったら…着物を着た若い女なんだ…暗くて判りずらかったが日本髪を結っていたな…俺ぁ、初めて幽霊っつうのを見たよ…ションベンちびるかと思ったよ…。』
そして、無事に工期よりも二日も早く終わらせた。
最後の日に片付けをして、新たな監督に終了した事を報告しに行った時に監督が、『大丈夫でしたか?何にも無かったですか?
実は…あの石にぶつけた運転手、この間…高速道路で事故を起こして…亡くなったそうです。トラックはキャブの部分だけがボディから引きちぎられて…即死だったそうです。
先日…あの神主さんの所に行って、どうしたら良いか聞きに行ったら、欠かさずにお供えするしか方法は無い…それに着かず離れずと言われました。
親方がやってくれていた事があっていたんですね…。現場では今の所、被害は出ていないんで少し安心しています。神主がこの土地の事を調べてくれていて、元々この土地は蛇神が纏られていたそうです。物凄い《蛇念》があるんだそうです。』
親方はそれからというものその土地にはそれぞれ神様が宿っていると思い、何にも纏られて無くても、水と塩は欠かさないと決めたそうです。
『でも、幽霊が出る事は言わなかったよ…。
言い忘れちゃったよ!?
今でも出るかもな…あのアパート。』
俺はその現場…アパートだったんだと思った。
怖い話投稿:ホラーテラー 血魅呶露さん
作者怖話