中編4
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誘いの間

その日私は、小学校からの親友であったTと二人でいつものように高校まで続く登校路についていた。

季節は5月に入っており、涼しげな春風を肌で感じていた時期であった。

ゆるやかに紆余曲折した道のりを、私達は鮮やかな光沢を放っている履き慣れないローファーに、歩き心地の悪さを覚えながら歩を進めていた。

私「なぁ、お前友達できた?」

T「まぁ・・・・・4人ぐらいはできたかな。でもやっぱ中学と比べてノリが全然違うから合わせるの大変だよ。」

Tは苦い笑みを表情に浮かべながら話した。

T「っていうかさ、今日案外朝のHRまで全然時間あるみたいだし、ちょい適当に寄り道してみね?」

私「それ名案。しようしよう。」

私達は自分達の歩いている大通りを少し外れ、小道に入ってみることにした。

散歩好きなTは、いつもと違う町並みにかなりはしゃいでいたのを覚えている。

しばらく歩いていると、

緑色をしたワイヤーのフェンスに囲まれた住宅が視野に入って来た。

その家はひどく廃れていた。

木造住宅のため、長年放置されていたのか、所々壁は腐敗し、窓などは全て割られ、屋根に敷かれていたものだったのだろうか、瓦が幾つも敷地内に散らばっており、風穴が数多に開かれていた。

太陽から注がれる陽射しで、フェンス越しにその家の中の様子を少しだけ伺うことができた。

やはりひどく散らかっていた。

私達はその家の正門へ回り込んだ。

ドアへと続く短い道を挟むように立てられていたのであろうその煉瓦でできた二本の1.5m程の門は、片方が根こそぎ倒れており、木っ端みじんになっていた。

目の前にそびえるその家は、夥しい程の負のオーラを放っていた。

T「やっべ・・・・・我慢できねぇ。入るぞ!!」

私「あ・・・ああ。」

少し怪訝そうな顔をして、Tは私の顔を覗き込んできた。

T「・・・・・おい、やっぱお前・・・・なんか感じるのか。」

私「うん。女の人・・・・結構年とってる感じの。」

T「そっかー。やっぱお前いると頼もしいわ。」

私「見えたわけじゃないんだけどね。なんとなく、感覚で分かるんだよ。」

Tは家全体を一瞥すると、門の内側に足を踏み入れた。

私も続く。

玄関のドアはすでに機能を果たしておらず、入口を塞ぐただの蓋のように立てかけてあっただけだった。

Tはそのドアを持ち上げ、適当なところに置いた。

私はTの肩越しに中の様子を伺った。

床には埃の絨毯が敷かれており、光源も無いため、奥につれて闇の深さが増していた。

鳥の朝を告げる囀りが聞こえてくる。

平常心を保っているうちに中に入るのを断念するべきだった。

家の中はひどくカビ臭く、埃がチラチラと宙を舞っているのが見えた。

その土間は、セメントの中に白い石が幾つも埋められた、少し洒落た感じであった。

もちろん、靴など置かれているはずも無かった。

Tは構わず靴のまま土間を上がり、奥へと続く廊下をズカズカと歩いていく。

材木でできた埃にまみれたその廊下は、ギシギシと軋む音を立てると同時に、Tの足跡をくっきりと残していく。

私は土間から、Tが廊下の突き当たりにある部屋のドアを開き、中へと入っていく様子を見送ると、土間から上がった左手にあるドアのノブに手をかけた。

ドアは静かに金具の軋む音を立てながら開いていく。

書斎らしき部屋がそこにはあった。

壁という壁が本棚で埋め尽くされていた。

部屋の中央にはひどく散乱した紙と、鉛筆らしきものが転がっていた。

ガラスの張られていない窓枠から朝の陽射しがその紙と鉛筆を照らしている。

私は本棚の本に手を伸ばした。

T「おーい。こっち来いよ。なんか面白いのあんぞ。」

奥の部屋から発せられたTの声がこちらまで響いてきた。

「お・・・おう。」

私は、伸ばした手を懐に戻し、踵を返して書斎の部屋を後にした。

Tの待つ部屋に入る。

私「面白いのって何だよ。」

T「これ、なんだと思う?」

Tは壁に掛けられた掛け軸を指さした。

私「何って・・・・掛け軸じゃないの?」

T「いや、よく見てみろ。」

私「え・・・・あぁ、うん。」

私は掛け軸に目をやった。

絵の中の虎がこちらを睨んでいる。

家屋が廃れている割に、その掛け軸には大した損傷は無く、見る者に迫力を与えるのに十分であった。

私「・・・・すっげー迫力だな。・・・・あれ、なんだこれ。」

掛け軸の裏の壁側から、白い何かがはみ出ている。

恐らく壁に張り付いているものなのだろう。

私は掛け軸を少し、壁から離れるように指で引っ掛けて引っ張ってみた。

私「・・・・・・なんだよ・・・・これ・・・・・」

掛け軸の裏の壁には、幾重にも張り巡らされたお札があった。

札には「封」と書かれている。

T「この廃屋、ただの廃屋じゃないみたいだな。」

私はしばらくそれらの札一枚一枚を観察した。

私「なぁ、T。この札ってさぁ・・・・」

私はTに話しかけるため、掛け軸に背を向けるように体を反転させた。

しかし、Tがいない。

私「あれ・・・・T?」

T「おい、こっちだ、こっち。」

廊下の方からTの声が聞こえる。

私はTの人騒がせな行動に苛立ちを覚えつつ、今いる部屋を後にし、廊下に出ようとした。

その時だった。

カリカリカリ・・・・カリカリ

掛け軸の方から、微かに壁を引っかくような音が聞こえた。

私の体は、背筋に物差しでもさされたかのように恐怖のあまり硬直してしまった。

続きます

怖い話投稿:ホラーテラー アルミさん  

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