長編8
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あにやん4【廃屋】

2才年上の兄貴はバイト感覚で“拝み屋”“祓い屋”みたいな事をしてる。

そういう家系らしいのだが、俺はしてない。

そんな兄貴は周りから親しみを込めて、『あにやん』と呼ばれている。

家に帰ると、あにやんがTVで時代劇を見ていた。

兄「毎週毎週、こんなに問題が起こるってな…

  …何かに取り憑かれてるとしか思えんな。」

俺(アホか…TVやないか…。)

俺「そんな事言うたらヒーローもんはできひんな。」

兄「お前はアホか…TVやないか。

 …それにあんなもん、味方も敵さんも見た目オカルトやで。」

俺(あんたに言われたないわ。)

そう思いながら、昔見たヒーローを思い出した。

俺が高校3年の時の事。

友達のAとBとツルんでは、ストレス発散も兼ねてオカルトツアーをしていた。

兄貴にはよく、「あんまり変なトコ行くなよー。」と、言われてたけど…

行くなと言われても行きたくなる年頃。

そんな事分かってる兄貴は、俺らにルールを押し付けてきた。

兄「頼むからコレだけは守れよ。

・絶対に友達を置いて逃げるな。

・ヤバいと感じたらそこから先に行くな。

・何かあったらすぐ俺に連絡しろ。」

俺らはそのルールを忠実に守っていた。

その日は地元で有名な廃屋に行く事にした。

街から抜ける県道脇にある廃屋なんだが、崖上にあって県道からは行けない。

崖には木が多い茂ってあり、廃屋の2階部分だろうか?……そこだけ顔を覗かせている。

その廃屋に行くには県道の裏側にあたる旧県道からでないと行けない。

その旧県道にはトンネルがあり、電気も点いてなく心霊スポットとしても地元じゃ有名なトコ。

そのトンネルもオカルトツアーとして幾度となく俺らはお世話になっていた。

家から自転車で20分程で到着するトンネルを抜け先に進んだ。

廃屋は旧県道からは見えなかったが、入り口であろう坂道を見つけた。

入り口から急勾配な坂道……

自転車は諦め、徒歩で行く。

坂道を登りきると広場に出た。

広場の奥に目的の廃屋が見える。

県道からは分からなかったが、廃屋はかなりの大きさだ。

俺B「おおおおお…。」

A「雰囲気あるねぇ。」

廃屋には窓と扉というものが無かった。

それらがあった壁は四角く切り取ったようにポッカリと穴が空いてるだけだった。

辺りを散策したが、朽ちかけた小屋らしきものがあるだけ。

意を決したのか、Aが廃屋に向かって歩きだした。

A「ほな、中行こか。」

俺「おし。」

B「……なぁ。

 ……何でこんなに静かなん?」

Bの言葉で俺とAはその場で固まった。

今まで3人でワイワイ騒いでたから気付かなかった。

家を出る時には、ドコで鳴いてるのか分からんが蝉の声。

旧県道に入ってからは、生い茂る草の中から虫の声。

トンネルを抜けてからは、熱くなった体に心地良い風を感じた。

周りがぐるっと木に囲まれた、この場所。

高台になってるから風も吹けば、虫だって鳴いてるはずやのに。

しかも下は県道が通ってるのに車の音さえしない。

そこだけ切り取られたような空間に、今更気づく。

俺「……よし。……退散や。」

『一歩も中に入らんと帰るんか!?』

『根性ねーなー。』

そんな声が聞こえるが、これ以上前に進めなかった。

ココがヤバい場所って感じたのか、AとBも当然のように反対はしない。

たとえ逃げたと言われても恥じゃない。

俺らには『あにやんのルール』という逃げるのにとっておきの大義名分があるからだ。

俺「ほな、帰るで。」

ちょっと震え気味の声で前にいるAに声をかけた。

  『顔面蒼白』

  …とはよくいったものだ。

俺とBに振り向いていたAの顔はまさにソレだった。

Aは俺より震えた声を絞り出す。

A「すまん……たすけて……。」

俺とBはそう言った理由をすぐに分かる事になる。

Bの持ってきた少し大きめのライト。

俺とAを照らしていた。

廃屋に向かって長く伸びた影。

俺の影はAに重なるような形になっていた。

その影に向かって廃屋にポッカリ空いた穴から、無数の手が伸びAの影を捕まえていた。

廃屋の壁にポッカリと空いた穴。

そこから伸びた黒い手が、Aの影を捕まえて、動けずにいた。

黒く見えた手は、ナニかの影だと思った。

初めて経験する恐怖に怯えながら、俺はAの手首を持って引っ張る。

その瞬間Bはライトの光を足元に落とした。

Aは弾けるように坂道に向かって走りだした。

俺とBはAの後に続く。

躓きながら坂道を疾走する。

自転車に跨りトンネルを全力疾走。

いつもはひんやりと感じるトンネルも今の恐怖には適わない。

トンネルを抜けた頃、先頭を走っていたAがみるみる失速している。

道脇にある草の影間から伸びた手の影が、Aの自転車の影を捕まえていた。

あにやんが常日頃から『気合いは大事。』と言っていたのを思い出す。

兄「気合いって聞いたら根性とか汗臭いの思うかもしれんが……

  ………大事な事やぞ。

下腹に気を込めて何か吠えるだけでもいいねん。

それだけで体に気が充実するし、人でないモノを祓う事できる時もあるんや。

やから、困った時は気合いいれるんやで。」

俺はあるプロレスラー並みに吠えた。

俺「気合いやぁー!!」

AB「うおおおおおっ!!」

3人共、手の影に捕まっていたのが分かった。

自転車のスピードがぐんとあがったから。

何度となく気合いを入れながら街までの道を駆け抜けた。

街の灯りを感じ、俺はあにやんに電話をした。

  『プルルルル……』

そういえばサークルの飲み会があるとか言ってた…今日だったか!?

電話を切り、妹に電話をした。

妹「はい。」

俺「あにやんいるか!?』

妹「俺ちゃん?ナニ!?

 …うるさくて聞こえへん!」

俺「あにやんおらんのかぁ!?」

妹「ナニ!?後ろうるさくて聞こえんでー!」

電話は切れた。

家まであと少しで着くところまで来てる。

とりあえず、家まで何も考えず走る。

AとBも同じ気持ちだっろう。

家までの直線の道まできた……

   ……あとは全力疾走だ。

家の前に人影が見えた。

あにやんだっ!

俺らは玄関先に自転車ごと倒れるように止まった。

俺らを見たあにやんは、家の中に入っていった。

俺「あにやんっ!!」

兄「おうっ?」

家から出てきた兄貴の手には傘…ソレを振りかざし、おもいっきり叩きつけた。

俺「い…いてぇ…。」

兄「……すまん。

  ……おらあああああっ!!」

傘で肩を叩きつけられて座りこむ俺の前に、AとBも同じようにいた。

助かったという安堵感からか、やっと自分の周りが状況が見えるようになった。

あちらこちらから無数に伸びてくる手の影。

ソレにむかって傘を振り回す、あにやん。

傘と手から逃げるように玄関前に非難した。

兄「おらあああああっ!!

  こらあああああっ!!

かかってこんかいいいっ!!」

しばらく続く怒声。

あにやんの背中がたくましく見えた。

肩で息をしながら俺らの前で仁王立ちのあにやん。

兄「よう帰ってきたな。」

笑って言ったあにやんを見て、俺らは泣きそうになった。

スマセン、続きです。

俺らは安堵感と兄貴の言葉で泣きそうになったが、恥ずかしさからさすがに泣く事ができなかった。

AとBも同じらしくフルフルと震え、我慢してるのが見て取れた。

俺らは母屋の俺の部屋でなく、横にある離れに行くように兄貴に言われた。

俺にとっては、兄貴が専用で使うようになった離れに入るのはガキの頃以来だ。

土間を抜け、襖を取っ払って、臭いという理由で板間に張り替えられた広めの部屋には、大きめの神棚が祀られてある。

俺らは兄貴の前に座り、事の顛末を話した。

俺らの話を頷きながら聞いていた兄貴は、廃屋について話してくれた。

兄「あの廃屋な……

元々は人を隔離する建物なんや。

〇〇(病名)の人らのな……。

俺らが産まれるよりずっと前の話や。

当時は不治の病やからな…

…隔離された人らは死ぬまであそこから出られんかったらしいわ。」

俺らを襲ってきた『手の影』はソコに隔離された想いや念が形になったモノだと知らされた。

兄「悪気はなかったんや。

あんなんなるってソコの人らは思わんかったやろな。

偶然か必然か……

変なモンになってしもたんや。

やから許したってやれよ。」

俺らは黙って頷くことしかできなかった。

兄「さっ、話は終わりや。」

そう言って立ち上がろうとするあにやんに俺らは質問をぶつけた。

B「あにやん…アレって祓ってやれんのですか?」

兄「祓ってやれん訳やないけど、専門外や。

俺が助けてやれるのは生きてる人間だけや。

餅は餅屋…ってな。

徳の高い坊さんか神主さんのがえーやろな。

まっ、知り合いにおるから頼んどくわっ。」

俺「なんで玄関先におったん。」

兄「妹ちゃんに叩き起こされたんや。

『俺ちゃんから電話かかっとるでっ!』って。

お前にかけ直しても出んから、何かあったなって思ってたらお前らが飛んできたんや。」

なるほど。

その時は気付かなかったが着信履歴がアホ程『あにやん』になってた。

A「あにやん……俺ら憑かれてへんの?

お祓いせんで大丈夫なんか?」

兄「ん〜〜〜……

    ……多分大丈夫っ。」

俺AB「多分っ!?」

お祓いを懇願する俺らに、

兄「しゃあないなぁ…。」

と言い不気味な笑顔で、

兄「お前ら、パンツ一丁でそこで待っとけ。」

そう言うと朱をいれた小皿を持って帰ってきた。

パンツ一丁の男3人を目の前に

兄「前向けー…

  ………今度は後ろや。

コレはな、おまじないみたいなモンや。

お前らにはコレくらいでいいわ。」

そんな事を言いながら指に付けた朱を頭のてっぺんから足の指先まで付けて回った。

B「なぁ…コレって赤ちゃんの『カンノムシ』のおまじない違いますの?」

一瞬止まるあにやん。

兄「なんでそんな事知ってんの?

はっはっはっ!

お前らの悪い虫を抑えてくれるわっ。」

俺AB「うおいっ!」

結局3日程朱は消えなかった訳だが……

そして1週間後には俺らの悪い虫は復活していた。

たびたびドコで古い習わしを聞きつけたか、赤ちゃんを抱いた母親がうちを訪ねてくる。

赤ちゃんに塗られた朱を見る度に、この時の出来事が思い出される。

結局今は笑い話になっている。

お粗末様でした

怖い話投稿:ホラーテラー 徳銘さん  

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