中編3
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うさぎ山

「星を見に行かないか?」

第一声がこれだ。

いつも唐突だ。

まぁ〜慣れた。

「いつ、何処に行くの?

それに何で星なの?」

私はぶ然と聞き返した。

「中学校の裏の山なんて最高じゃないかな?

出来れば今から行かないか?

星を見たいから」

「…いつも急やね!!

私はあんたに振り回されっぱなしだわ」

嫌みを込めて意地悪に言うも全く響いていないのか…

「じゃ今から迎えに行くな」と一方的に電話を切られてしまう有り様。

ツーツーという音しか聞こえない携帯電話を私は静かに閉じた。

部屋の窓を開け空を見ると確かに綺麗な星空だ。

仕方がない。

付き合ってやるか。

私はパジャマからジーパンに着替えると部屋の電気を消した。

外に出ると聞き覚えのあるエンジン音が近づいてきた。

私は彼の運転するバイクの後ろに乗ると両手を彼の腰にまわした。

目的の山の頂上に着くと…

まぁ〜山というか少し高い丘!?と言ったほうがしっくりくるかもしれない。

私たち住民はその山!?を愛情を込めて『うさぎ山』と呼んでいた。

理由はただ単に野うさぎが沢山いるから。

子供の頃はよく野うさぎを追っかけ回して遊んだものだ。

今ではかなり野うさぎの数も減ってしまったらしい。

このうさぎ山に来るのも本当に久しぶりだ。

私たちは地べたに並んで座ると無言で星空を眺めていた。

「キレイだね」

思わず私は口から言葉を発すると

「シッ。」

と彼が低い声で私の言葉を遮った。

「どうしたの?」

私は小さな声で訊くと

「今、何か物音がした」と彼は周辺の音に集中していた。

私は何だか怖くなり彼の腕を掴むと黙って周囲の音に集中した。

…ガサガサッ…ガサガサッ

私たちは声も出ない程驚くと音のする方に目を向けた。

真っ暗なので耳だけが頼りだ。

暗闇で目も慣れると音の正体が見えた。

野うさぎだった!!

そうだ。

うさぎは夜行性だった。

子供の頃も夕方頃出てきてたっけ。

私たちはホッとすると何だか力が抜けて二人で笑ってしまった。

しかし、笑っている場合ではなかった。

見えないものが確実に私たちに近づいてきていたのだ。

もう星も見たしそろそろ帰ろうと歩き出すと周りの空気が違う事に気付いた。

明らかに違う。

重い雰囲気が張り詰めているような。

私は彼の左腕に手を回し速く歩こうと促した。

彼もこの空気の異様さに気付いているのか「うん」と言うとどちらともなく走り出した。

バイクまでの数メートルがとても長く感じられた。

彼も焦っているのかなかなかエンジンがかからない。

「どうしたの?」

私が訊くも

「おかしいなっかかんねぇ」彼は一生懸命セルをまわしているが動かない。

「大丈夫!焦んなくてもいいよ」

私も必死で落ち着こうとするが声が震える。

そして私は見てしまった。後ろを振り向くと…

黒い煙のようなものが私たちの方に向かってくるのを!!

「早く出して!早く!!」

私は彼の背中を叩いていた

「わかってるよ」

彼にはまだ見えていないのか必死にエンジンをかけようとしている。

私は後ろをチラチラ見ながら心臓が飛び出そうな位恐怖の最高に達していた。

その黒い物体はもう私たちまで2〜3メートルまでの距離まで近づいてきていた。

まだエンジンはかからない。

1メートル位の距離になった時にはっきりと見えてしまった。

黒い煙のような物体はたくさんの顔の塊だった。

私は「ヒーッ」と声にならない奇声を発すると同時にバイクのエンジンがかかった。

それからは振り落ちないよう彼につかまるのが精一杯で後ろを振り返る余裕がなかった。

山から一番近いコンビニに停まると私たちは店先にたむろっている少年たちを見てホッとした。

やはり彼は黒い煙は見ていないとの事だった。

しかし異様な気配は感じ取り私の様子もおかしかったのでただ事ではないと思っていたらしい。

そもそも車検から戻ってきたばかりのバイクが直ぐに動かないのも変だと思ったと付け加えていた。

結局あの黒い煙の正体は判らずじまいだが私たちはもうウサギ山に行く事はないだろう。

オチもなくすみません!

怖い話投稿:ホラーテラー ナナさん  

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