長編8
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夏の終わりに…。

夏休みも残り2週間を切った時の夜、姉貴がバイトから帰ってくるなり…『明日から私にとって、本当の夏休みだよ!高校生活最後のね…。』

お袋は前もって話を聞いているらしく、『気を付けて行くんだよ。』とだけ言った…。

姉貴に聞いたところ、明日から1週間、旅行に行くと夏休み前から計画していたらしい…。

そう言えば夏休みに入るなり、週2日のバイトを4日にしたり、早々と宿題を終わらせたりしていたなぁ…と思い返した。

行くメンバーは同じ学校に通う、芳恵と瑞穂。

(俺はこの姉貴を入れた3人を陰でハットトリックブスと命名していた。)

何でも芳恵の親戚が伊豆で民宿をやっているらしく、夏休みでも部屋を空けてくれていた。

いつも前置きが長くて申し訳ない…ここからが、姉貴達の体験談…。

姉貴達は海に行ったり、観光地を巡ったりして学生最後の夏休みを楽しんでいた。

5日目の時に地元のお祭りで出会った(ナンパされた)3人組(A・B・O)と仲良くなり、翌日も遊ぶ約束をした。

昼間に浜辺で待ち合わせをして、海で遊んでいた。

その中の一人・Aが車の免許を持っているので、夜にドライブしようと誘ってきた。

伊豆の滞在期間も残り僅かなのでOKした。

一度、民宿に帰って身なりを綺麗にして夜7時に国道沿いのバス停で待ち合わせた。

その当時には珍しい、7人乗りのワゴン車で来たので全員一緒で安心した。

そして、地元民しか知らないような場所に連れて行ってくれて、その時姉貴は…『なかなか、好青年じゃん!』と、感心したらしい。(何様だよ!と俺は思ったが…。)

走っているうちにその中の一人が、『肝試し…しようぜ!』と、言い始めた。

姉貴は霊感は強くないが、嫌な予感は昔から良く当たる。

姉貴が『そういう所には行かない方が良い。』と断ると瑞穂はノリノリで、『行こう!行こう!ねっ!ねっ!』

その一言で、車内は盛り上がってしまった…。男性・Oが止めようと言ったのだか、その意見は流されるだけだった…。

山沿いの道を入り登って行くと、建物が見えて来た。

辺りは真っ暗で、草むらの中に藁葺き屋根の家が4・5軒あった…。

見るからに恐怖をそそる風景だった。

姉貴が質問した…。

『此処はどう言った場所?あんた達、前に来た事あるの?』

すると、『来たのは初めてで学校の中で噂になって一度来たかった。』

その噂とは…今から30年くらい前に此処等一帯は村であった。年が経つごとに村人は別の場所に引っ越したそうだ。

そして、最後に残ったこの4軒…。知らぬ間に誰一人、居なくなってしまった。

別の所に引っ越したと言われればそれまでだが役場が知る限り、移転届は出て無い。従ってこのままの状態なんだそうだ…。

そして月日が経って心霊スポットとして噂されるようになった。

『うちの学校で老人の幽霊が手招きしているのを見たって奴がいるんだ…。』

姉貴はバックの中からジッポと煙草を取出して、おもむろに火を点けた。

横にいた芳恵は姉貴の行動に対して、『何故に今、煙草?』と、言うと姉貴は『何か此処…嫌!煙草はお線香代わりになるって聞いた事があるから…あんたも吸う?』そう言って芳恵にも1本差し出した。

釣られるかのように皆が煙草を吸い始め、歩き出したのだ…。

家の中を覗くと年月は経っているものの、生活観があった。ホコリは被り、荒らされた部分はあるものの、そのまま居なくなった事が伺える。

一軒一軒、見てまわり何ともなかったと一安心した。

しかし、姉貴はずっと誰かに見られている気がしてならなかった。

それは何とも言えぬ、四方八方から感じる視線…。

『早く帰ろう!此処はもう嫌だ!』

来るのに反対していた男性・Oも寒気がしているらしく、直ぐにでも立ち去ろうと運転しているAに促した。

車に向かう途中に、後ろから着いて来る気配を感じていた。

一番後方には姉貴とO…。早く行けとOは前を歩くAに叫んでいた。

その時だった…。

背の高い雑草を掻き分け歩く我々の他に、後ろから何者かが追い掛けて来ていた。

ガサガサ…。

その音がだんだんと近づいて来ている!

『皆、走れ!走れぇ〜!』

一目散に足場の悪い道無き道をひたすら走る…。

やっと車に到着し、皆が車に乗り込んだ。運転手のAが、『皆、いるか!』と、声をかけた…。

すると、Oがいない事に姉貴が気付いた。

エンジンをかけてAが、『俺、ちょっと見て来る!』そう言うとBが『お前しか運転できる奴、いねぇんだから俺が行く!』

姉貴も『私も行くわ…。走るまで一緒にいたから、そんなに遠くないよ…。』

そう言って、2人は外に出た…。

再び、高い雑草を掻き分け歩くとOはそこにいた。

でも、様子がおかしい…。

Oを呼んだ…。

『O…。大丈夫かぁ?』

すると、Oは…………

ぐっちゃぐちゃの泥濘にはまってしまい、片足が拔けなくなっていた。

『助かったぁ…。』

姉貴とBはOの填まっていた足をひっこ拔こうとして、渾身の力を出した。

それでも、足が拔けない…。

3人、声を合わせて…

『いっせぇーのーせっ!』

カッポ…。

足は拔けたが靴が無い…。

Oは拔けた場所に今度は手を突っ込み、靴を取ろうとした。

その姿を見て姉貴はイラッとして、『…んなモン、どうでもいいだろ!早く逃げんべぇよ!』

すると…『手が…拔けない!』今度は手かよ…。と、姉貴は思った。横でBもため息をついていた。

気を取り直し、せぇ〜の〜で引っ張った!

手は拔けたが、人間と思われる白い手ががっちりとOの手首を掴んでいた…。不思議と見えたの手だけ…。

穴からOの手が出た瞬間にその白い手は消えたが、3人して顔を見合わせ…『見た?』ってな感じで、アイコンタクトを送った。

すると、辺りに生暖かい風が吹いて来た。だがその割には寒気がする。その時、風の音ではない呻き声が聞こえた…気がしたらしい。でもそれを聞いた瞬間、3人は車まで猛ダッシュした…。

車に乗り込み、待っていました!と、ばかりにその場を立ち去った…。

だが、姉貴の不安が納まる事はなかった…。寧ろ、追い掛けられているとすら、思えるくらい不安でたまらなかった。

Oも同じらしく、『あんたも感じんの?』と、聞くと頷いていた…。

周りの皆もその言葉に不安を感じ始め、言葉を発する者はいなかった。

あの場所から離れてから、かなりの時間が経つにも関わらず、辺りの風景が変わらない…。

多少の地理が判る芳恵すら、『此処は何処?』と、聞くぐらいであった。

運転手のAが一言…。

『何か…道に迷っている。それより、知ってる道が出てこない…。』

その当時、カーナビや携帯電話は無い時代…。助手席に座っているBが地図を取出して見ても今、自分達が何処にいるのかすら判断できていない。

車を止めて話し会っていたその時だった…。

1台の黒い車がスゥとゆっくり通り過ぎた。

助手席のBがステアリングに手を伸ばし、クラクションを鳴らした…。

すると、そんなにスピードを出していなかったおかげで車は少し過ぎた所で止まってくれた。

AとBは車から降りて道を聞きに行った。

その後ろ姿を見ていたOが急に窓から身を乗り出して『戻れぇー!いいから、戻れぇー!』と、尋常ではない声で2人を呼び戻した。

『なんだよ!お前、頭おかしいんじゃねぇ〜か?』

Aが怒りながらOに近づいた時、いつの間にかあの黒い車が正面を向いて、前方にいた。

何か訳の判らない状況に皆は驚きと恐怖を隠せず、悲鳴に近い声で叫んでいた。

車を一度バックしてから、速攻に発進させた。後ろからピッタリ着いてくる黒い車を姉貴はジッと見た。

最初はライトの加減で見えていなかったが、徐々に近づくにつれて見えて来た。

『前のめりになって顔をフロントにくっつけている男が見えた。助手席には女が乗っている。』

初心者には厳しく、事故る寸前だった。

オーバースピードで反対車線に出た…その瞬間!カーブを曲がりきれずにトラックにぶつかる寸前で山沿いの壁に擦れて止まった…。

トラックの運転手が降りて来て、足早にこちらに向かって来た。怒鳴られると思った…。

『お前等ぁ〜!大丈夫か!怪我はないかぁ!?

気は確かかぁ!』

そう…、考えてもいない言葉が出て来た…。

皆は声を合わせるかのように…『スミマセン、大丈夫です。』と、答えた。

トラックの運転手はぶつかりそうになる前と車が止まってからの一部始終を見ていた。

それは…カーブを曲がりきれずに車線をはみ出していた時、あの後ろにいた黒い車の運転席から乗り出して姉貴達の車に移ろうとしたのが見え、止まってからは助手席にいた女が窓からスルッと出た為、トラックの運転手はヤバイと思って、掛け寄った。

その時、黒い車は消えたそうだ。

トラックの運転手の話では、この辺りは原因不明の事故が多く、プロのドライバーも此処ではスピードを出さないらしい…。

『黒い車に追い掛けられるって聞いた事があったが本当だった…。

それが原因の事故も数件あったんだってよ…。

お前等も気を付けて帰れよ…。』

帰る道順を聞いて街に着いたのは、朝方だった…。AはOに何故、戻れと叫んだのか?と聞いたところ、『車から考えられないほどの人の影が見えたんだ…。これはこの世のモノじゃないと思って…。』そう、語っていた。

明るくなって一安心したのも束の間…壁に擦れた傷を見て皆は声を失った…。

壁に擦れた傷なのだから無数で大きさもまばらなはず…。

しかし、その傷は人間の爪で引っ掻いたような筋がおびただしく、スウーと何本も入っていた。その筋も着いているだけではなく…引っ掻いた所はその通りに小さく凹んでいたらしい。そしてその傷には薄く血痕も付着していたそうだ…。

『何故その場で気が付かなかったか?壁側で右のドアからは出入りしなかったからだよ…。』姉貴は疑問に思って質問した俺にそう言った。

それからと言うもの…姉貴は自分が免許を取った後も夜、ドライブには行かないと決めたのだった。

姉貴曰く…『あの場所…未だにあるらしいよ。興味があったら行ってみれば…。マジでビビっから…!』

若い頃に聞いたが、久しぶりにその話を女房としていた…。

これまた、何故かって?

俺の女房はハットトリックブスの1人…芳恵だからさ…。

怖い話投稿:ホラーテラー 血魅呶露さん  

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