中編3
  • 表示切替
  • 使い方

心筋梗塞

私が以前、勤務していたS医療センターで起こった実話です。

その病院は、救急専門の病院で、救急車、ドクターカー、ドクターヘリで搬送された患者のみを診療し、歩いて受診できる軽傷の患者の受け入れは行っていない、いわゆる救急救命センターです。

なので、普通の病院では扱うことのできない重症患者のみが搬送されてきます。

ある日、心筋梗塞で心肺停止状態(心臓も止まり、呼吸もしていない)の30代の男性患者が、付き添いの女性と共に搬送されてきました。

診断結果は、発作を起こしてから、かなりの時間が経過していたため、病院到着時には、残念ながら既に脳死状態でした。

患者は搬送されていた時には全裸でした。

患者の情報を得るため、その時に外来を担当していた看護師が、付き添いの女性に話を聞こうとするも、男性患者は既婚者であり、自分は不倫相手とのこと。

発作が起こったのは、とあるホテルの一室にて。

女性は男性が全裸だったにも関わらず、衣服の乱れはなく、化粧もきちんとしていたそうです。

恐らく、不倫ということもあり、女性は自分の身なりを整えてから119番通報したのでしょう。

そのため、救急車が到着したときには男性は既に手遅れだったのです。

しかし、そのことについて、女性を責めるのは警察の役割。

S医療センターでは、円滑な治療を行うために、万が一、家族に状況を問われた時には、

『病院に着いてからしか分からない。

詳しいことは警察に聞いて下さい』

と伝えるようにと、上からの通達がありました。

内心、私は『聞かれたらどうしよう』とビクビクしながら患者の家族に対応していました。

しかし、患者の妻は、何よりも、最愛の旦那が、若くして突然の脳死状態、ということに混乱し、それどころではなく、必死に意識の戻らない旦那の手を握って話しかけていました。

そのような妻を、私達は、ただ見守ることしかできませんでした。

脳死状態から数日が経過した、ある日、妻が友人を連れて見舞いに来ました。

家族ぐるみの付き合いのあった、友人とのことを、面会名簿に記入する際に、私が担当し、お二人から話を聞きました。

二人が病室に入るとすぐに、私の肩をガシッと先輩看護師が掴んできました。

『ちょっと!』と呼ばれ、何か怒られるのかな?と、先輩に着いて控室に行きました。

すると、先輩から驚くべき事実を聞かされたのです。

その先輩は、患者が搬送されてきた当日、外来担当でした。

妻が、その日、連れてきた友人、それは、当日、付き添いで救急車に乗ってきた不倫相手だったのです。

妻は、そうとも知らず、『友人が自分を心配して見舞いに来てくれた』と涙していましたが、事実は、『親友の旦那を見舞いに来るふりをして、様子を伺いに来た愛人』だったのです....

意識の無い旦那と、妻と愛人。

その三人のいる病室には、私は怖くて近付けませんでした。

妻を心配する演技、意識の無い愛人の側で妻を励ます女。

普通の顔をして見舞いに来た、その女性が恐ろしくて忘れられません。

それから何日かして男性患者は亡くなり、妻は頭を下げながら、病院を去っていきました。

怖い話投稿:ホラーテラー 看護師Kさん  

Concrete
コメント怖い
00
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ